WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズ③

2020年12月31日 | 今日の一枚(Q-R)
◎今日の一枚 457◎
Rickie Lee Jones
Pirates
 デビューアルバム『浪漫』の成功でスターダムにのし上がったリッキー・リー・ジョーンズは、トム・ウェイツと暮らしたロスを離れ、ニューヨークへと旅立つことになる。2016年に書かれた矢口清治氏の『パイレーツ』のライナーノーツには次のように記されている。
『浪漫』が彼女にもたらしたものは、おそらく予想を超えた富と名声、いわゆる商業的成功であり、代わりに失ったのはそれまでの日常、たとえば重要な存在であったトム・ウェイツとの関係だった。
 
 今日の一枚は、リッキー・リー・ジョーンズの1981年作品『パイレーツ』である。彼女の2ndアルバムである。トム・ウェイツとの別離後の作品ということで、彼にまつわる曲がいくつか収録されている。ジャケットに用いられた、ハンガリー出身の写真家ブラッサイの"LOVES"と題された作品は、どこかトム・ウェイツとの日々を連想させる。①We Belong Together(心のきずな)や、⑥ A Lucky Guy(ラッキー・ガイ)は、トム・ウェイツとの別離を背景として書かれた曲だ。印象的な曲である。⑤ Pirates(パイレーツ)も印象的な曲だ。ゴージャスなサウンドをハックに、ファンキーに、またしっとりと歌われるこの曲には、So Long Lonely Avenue というサブタイトルがつけられている。トム・ウェイツたちと暮らした街への別れを告げているわけだ。歌詞の中にSo I'm holding on to your rainbow sleeves(あたし、つかんで放さない。虹色のあなたの袖を。)とあるが、"rainbow sleeves"とは下積み時代のリッキー・リー・ジョーンズのために、トム・ウェイツが書いた曲のタイトルなのだ。トム・ウェイツへの思いが表出された一節である。rainbow sleeves は、のちにリッキー・リー・ジョーンズの3枚目のアルバム『 Girl At Her Volcano 』(→こちら) に収録されることになる。
 音楽は音楽として評価されるべきものであろうが、トム・ウェイツとの関係を考えながらこのアルバムを聴くと、じつに興味深い。ずっと以前に聴いた音楽が、生き生きと蘇ってくるようだ。


トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズ②

2020年12月31日 | 今日の一枚(S-T)
◎今日の一枚 456◎
Tom Waits
Heartattack And Vine
 二人が出会ったのは、1977年、トム・ウェイツが28歳、リッキー・リー・ジョーンズは22歳の時だったようだ。トム・ウェイツはデビューしてアルバムを数枚発表していたがまだ知名度は低く、リッキー・リー・ジョーンズはデビューすらしていない下積みの時期だった。
 1979年にリッキー・リー・ジョーンズのデビュー作『浪漫』(→こちら)が発表されると、ロックにフォークやジャズ、ブルースを融合させたその音楽は、多くの支持を集めるようになる。このアルバムは全米3位のヒットとなり、翌年のグラミー賞最優秀新人賞を獲得するなど、彼女は一躍スターダムにのし上がっていく。
 この後、リッキー・リー・ジョーンズはトム・ウェイツと暮らしたロスを離れ、ニューヨークへと旅立って行くことになる。

 今日の一枚は、トム・ウェイツの1980年作品『ハートアタック・アンド・ヴァイン』である。トム・ウェイツの6作目のアルバムだ。ジャケットは新聞紙を模したデザインだが、よく見ると、曲名と歌詞が書かれている。
 リッキー・リー・ジョーンズとの別れを歌ったとされる⑨ Ruby's Arms(ルビーズ・アームス)は、胸がしめつけられるほど切なく美しい曲である。心がかき乱されるほど切なくなり、じっとそこにたたずむのみである。
俺の服は置いていく
お前といた時のものさ
今はブーツと皮のジャケットがあればいい
ルビーの腕に別れを告げる
俺もつらいけれど
カーテンごしに出ていくさ
お前の目をさまさないように
 ちなみに、⑤ Jersey Girl(ジャージー・ガール)は、リッキー・リー・ジョーンズと別れた後、出会った脚本家キャサリン・ブレナンに捧げた曲である。二人は、このアルバムのレコーディングを終えた後、結婚することになる。

トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズ①

2020年12月31日 | 今日の一枚(Q-R)
◎今日の一枚 455◎
Rickie Lee Jones
Girl At Her Volcano
 驚いた。迂闊だった。知らなかった。
 今日、何気なくwebを眺めていて、トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズがかつて恋人同士だったということを知った。1970年代の終わり頃の話だ。すごく納得し、腑に落ちた。2人とも私の大好きなミュージシャンである。心に響く曲を書くミュージシャンだ。自分の思いを曲に託すミュージシャンである。
 2人の関係にまつわる曲がいくつか存在しているという。興奮している。偶然にも、私はそれらの曲が収録されているアルバムを持っている。この年末年始は、それらのアルバムを聴きなおすことになりそうだ。

 今日の一枚は、リッキー・リー・ジョーンズの1983年作品『 Girl At Her Volcano 』である。日本語のタイトルは『マイ・ファニー・ヴァレンタイン 』である。⑥ Rainbow Sleeves は、トム・ウェイツが下積み時代のリッキー・ジョーンズのために書いた曲である。
 トム・ウェイツとリッキー・リー・ジョーンズが出会ったのは、1970年代の終わり頃である。トム・ウェイツはまだ知名度は低かったものの、すでに数枚のアルバムを発表していたが(この時期のアルバムは後に名盤と呼ばれることになる)、リッキー・リー・ジョーンズはまだデビューすらしていなかった。そんなリッキー・リー・ジョーンズのためにトム・ウェイツが書いたのがこの曲だ。
 その後、リッキー・リー・ジョーンズはデビューし、デビュー作『浪漫』(→こちら)によってスターダムにのし上がるが、数年後の3枚目のアルバムにこの曲を収録したのである。このアルバムが発表された時には、リッキー・リー・ジョーンズとトム・ウェイツは離別してた。それでも、リッキー・リー・ジョーンズはこの曲をアルバムに収録したのだ。その思いが伝わってくるようだ。
 美しい曲である。トム・ウェイツの不遇時代のリッキー・リー・ジョーンズへの思いが込められたようなメロディーと歌詞だ。涙なくしては聴けない。年のせいだろうか、涙がぼろぼろと落ちて止まらない。
憂鬱のせいで歌うのをやめたりしないでくれ
君は片方の翼が折れただけなんだよ
だから僕の虹につかまってくれればいい
僕の虹にしっかりとつかまってくれ
君を虹のたもとに連れて行こう