WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

この神経症的な感じは何だろう

2010年11月28日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 294●

Sonny Criss

Saturday Morning

Scan10005

 しばらくぶりに、今週一週間は毎日upした。何年ぶりだろうか。そんなわけで、今日の2枚目である。サザンオールスターズやビートルズばかりかけていたら、ああジャズが聴きたいと身体が要求しているのがわかった。ジャズらしいジャズが聴きたい。

 ……ああ、ジャズだ。いい。やっぱり、ジャズはいい……。

 パーカー派のアルト・サックス奏者、ソニー・クリスの1975年録音作品『サタディ・モーニング』、彼の晩年の作品だ。70年代の作品だけあって録音がいい。楽器の音がひとつひとつ鮮明である。

 若い頃のソニー・クリスは、流麗で艶やかだが、饒舌で多くを語りすぎる傾向があった。それは、強迫神経症的でさえあり、何かを語らずにはいられない、あるいはすべてを語りつくさずにはいられない、といった程だった。

 そこにいくと、この晩年の作品はフレイジングに因数分解がなされ、かつてに比べてだいぶ音数も整理されている。艶やかで流麗なフレイジングはそのままに、溢れるような歌心とちょっと翳りをおびた音色が全編に充溢したいい作品に仕上がっている。

 しかしそれにしても、この神経症的な感じは何だろう。考えすぎだろうか。音数はかなり整理され、スローな曲では哀感や翳りさえ感じさせるのに、演奏が何かにせかされているように思えるのだ。何というか、落ち着きがないのだ。音数は少なくても、何かにせかされ、もっともっと、はやくはやくと彼の心が語っているようだ。《タメ》がないのではないか。静かなスローテンポの曲に、《タメ》がないから、深みのようなものが感じられない。フレイズは哀感があるのに、落ち着いた枯れた深みのようなものが感じられないのだ。

 この録音から2年後の1977年、ソニー・クリスはロサンゼルスでピストル自殺するのだが、wikipediaは胃がんの病苦に耐えかねた結果だ、と記している。


With The Beatles

2010年11月28日 | 今日の一枚(A-B)

今日の一枚 293●

The Beatles

With The Beatles

Scan10006

 昨夜は、次男とスイミングクラブに行き、次男が泳いでいる間、いつものように、2階のジムで汗を流した。パワー系トレーニングを少々した後、いつものようにIPod Shuffle でビートルズを聴きながら、いつもと同じ距離だけランニングマシーンで走った。ところが、トレーニングを終えようとしたその瞬間、IPod Shuffle の曲が変わったのだ。All My Loving だった。私は俄然気分が良くなり、予定を変更してランニングを続けた。しかも、速度を最高設定に上げて……。そんなわけで、足が重い。固まっている。筋肉痛である。

 ザ・ビートルズの1963年作品『ウィズ・ザ・ビートルズ』である。イギリスでの彼らのセカンド・アルバムになる。印象的なジャケット写真だ。素敵だ。中学生の私はこの写真が好きで、どうしても欲しかったのだが、お金がなくて長い間変えなかった。今となっては、懐かしい想い出だ。私にとっては、「オール・マイ・ラビング」を聴くためのアルバムだといってもいい。ビートルズの曲で最も好きなものの1つだ。軽快なリズムに、ポップな旋律、美しいハーモニー……、などと書いてみたものの、この曲の素晴らしさは表現できない。とにかく、心はウキウキである。ジョン・レノンの3連符……。かっこいい。オルネタイト・ピッキング。アップ、ダウンを正確に交互に続けるそのストローク・ワークは、簡単そうに聞こえるが、やってみると、意外にむずかしいものだ。ギターを覚えたての頃、よく練習したものだ。

 このアルバムの面白いところは、シングル曲が入っていないところである。すでに、「フロム・ミー・トゥ・ユー」や「シー・ラブズ・ユー」などのヒットシングルがあり、このアルバムの録音と同時期にあの「抱きしめたい」も録音されているのにである。これは、マネジャーのブライアン・エプスタインとプロデューサーのジョージ・マーティンの方針で、ファンに余計なお金を使わせないためにシングル曲はアルバムに入れないという取り決めがあったからだというが、勇気ある試みである。それでもセールスが稼げるということだろうから、たいへんな自信だと思うが、当時のイギリスでのビートルズ人気がすでにそれだけ凄まじかったということなのかも知れない。この、アルバムにシングル曲を入れないという原則が、後のコンセプト・アルバム制作の伏線の1つになるとみるのは考えすぎだろうか。

 なお、アメリカでは、このアルバムとまったく同じジャケットで、シングル曲もたくさん入ったレコードが、『ミート・ザ・ビートルズ』というタイトルで発売された。これがビートルズのアメリカでの実質的なデビュー・アルバムとなのだが、キャピタリズムの国・アメリカをよく表しているのではなかろうか。文化的にもアメリカの影響が強かった我が日本では、私が中学生当時、このジャケットといえば、『ミート・ザ・ビートルズ』の方を連想したものだった(もちろん、『ウィズ・ザ・ビートルズ』のことは知っていたが……)。ところで、この『ミート・ザ・ビートルズ』はかつては巷でよく見かけたものだが、最近見かけない。不思議である。試しに、HMVで検索してみたのだが、やはり見当たらなかった。発売されていないようである。時の流れというものか……。

[追記]

 後で知ったことだが、この『ウィズ・ザ・ビールズ』の日本でのリリースは遅く、なんと彼らの解散から6年後の1976年だったのだそうだ。なるほど……。


タイニー・バブルス

2010年11月27日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 292●

Southern All Stars.

Tiny Bubbles

Scan10004

 先日、金子晴美の『SPECIAL MENU』を聴いてから、何だか急に懐かしくなり、サザンオールスターズの古いアルバムをいくつか聴いてみた。私は、サザンの良い聴き手ではない。ずっとフォローしてきたわけではないからだ。1980年代後半以降、テレビやラジオから流れてくる以外はほとんど聴いたことがない。興味がなくなってしまったのだ。確かに、桑田佳祐の作曲能力は確かに向上していると思うし、サウンドも洗練されていった。けれども、何というか、きれいすぎるのだ。予定調和的といってもいいかもしれない。何か新しいことをやってやろうという気概が伝わってこず、初期の作品がもっていたワクワク感やドキドキ感を感じることができなくなったのだ。

 さて、サザンオールスターズの3枚目のアルバム、1980年作品の『タイニー・バブルス』である。よくできたアルバムだ。荒削りではあるが、革新的で清新な気風に満ちている。何か新しいことをやってやろうという爽やかな遊び心が充溢している。当時、サザンは、“FIVE ROCK SHOW”と銘打った企画をおこなっていた。テレビなどには一切出ず、楽曲製作やレコーディングに集中し、5ヶ月の中で毎月1枚ずつシングルを出すというものだった。メディアへの露出がなくなったためヒット曲はなくなったが、当時桑田佳祐がラジオで「オールナイトニッポン」のパーソナリティーをつとめており、その中で、アルバムの制作状況や音楽への思いを語り、時には新曲の発表も行っていた。当時の私は、それを聴くのが楽しみだった。

 ⑤涙のアベニュー。不思議な曲だ。先の「オールナイトニッポン」で桑田が4コードブルースといってこの曲を紹介したのを今でも憶えている。その時にはさほどいい曲だとは思わなかったが、年齢を重ねるごとにこの曲が心にしみてきた。サビの部分か何ともいえずいい。今では、サザンの中でも最も好きな曲のひとつである。⑨C調言葉に御用心。最高にゴキゲンな曲である。ああ最高だ。低い声で歌う出だしの部分がいい。そのトーンが身体の何かに共鳴し、アップテンポの曲なのに心が落ち着く。⑪働けロックバンド。テレビ出演に追われていた彼らの苦悩と哀しみが表出されており、ある意味コミカルだが、不思議な哀しみを湛えている。歌詞に聴き入ってしまう。

 アルバム全体に、あの1980年代初頭の空気が充溢している。荒削りではあるが、「快作」いや「傑作」というべきだと思う。たまには、昔の曲を振り返って聴くのも悪くない。


ウインターカップの組み合わせが決まった【女子編】

2010年11月26日 | 籠球

 平成22年度全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会(通称 Winter Cup 2010)の組み合わせが決まった。昨日の男子に続いて女子バスケについても少しだけ言及したい。(公式サイト組合せ→男子女子

 やはり、インハイの覇者、札幌山の手(北海道)が優勝最右翼にみえる。長身センター長岡を中心にアウトサイドにもクイックネスとシュート力のあるプレーヤーをそろえ、ディフェンスも非常にタイトである。そして何よりよく走る。夏のインハイの結果を見ても、相手に大きな差をつけての勝利であり、優位は動かない。ただ、高校生はちょっとしたきっかけで大きく崩れることもよくあり、油断は禁物だ。この第1シードの山では対抗できるチームはないのではないか。個人的には、ウインターカップ3年連続ベスト4で大沼(妹)を擁する山形商(山形)に注目したいのだが、札幌山の手の前ではやや小粒に見えてしまう。

 第2シード中村学園(福岡)はよくわからないが、インハイで準優勝したことを考えてもなかなかやりそうだ。アシスタントコーチの平岡さんは、つい数年前まで我が宮城の石巻商で指導していた人なので応援したい。このブロックにはノーシードに聖カタリナ(愛媛)もいるが、私が注目したいのは、U-18トップエンデバーにも選ばれたオールラウンダー木工を擁する足羽(福井)である。毎年、タイトなディフェンスを武器に「がんばるバスケット」を展開する公立高校の足羽には、なぜか声援を送りたくなる。

 U-18日本代表の中心選手、センターの宮澤夕貴を擁する第3シードの金沢総合に、私は最も期待している。というか、Hコーチの知将・星澤純一先生に注目している。もう20年ほども前のことだが、星澤さんの講演と簡単な実技指導を受けたことがある。加藤貴子を擁して全国制覇したすぐ後のことだ。バスケ素人だった私だが、バスケットボールというスポーツの魅力を教わり、目が開かれた気がした。日本一のチームの指導者だが、基本的スキルを重視して、考えるバスケットをめざす姿勢に、また、「野蛮な」体育会的体質ではなく、どこか知的で、バスケットボールを通して人間の生き方を教えようとする教育者としての星澤さんにすっかり魅了されたものだ。以来、星澤さんのチームにはずっと注目しているのだが、定年退職をまじかにひかえ(あと1年?2年?)、かなり熱が入っているようだ。何かで読んだのだが、教え子のバスケ部OGが交通事故(?)で亡くなり、彼女のためにも優勝をその墓前にささげたいのだという。実際、これまでの星澤さんは試合中立ち上がったりせずに、タイムアウトもほとんどとらないことで有名だったが、先のインハイでは立ちっぱなしで大きな声で檄を飛ばしていたらしい。このブロックで他に注目されるのは、インハイで準優勝の中村学園にわずか3点差で敗れた大阪薫英(大阪)、6月の東海大会であの桜花学園に勝ったという岐阜女子(岐阜)あたりだろうか。

 第4シードの明成(宮城)もそこそこがんばるだろう。宮城県大会の決勝は、見ごたえのあるなかなかいいゲームだった。インハイでベスト4まで進出した明成は、190㎝を超える中国人留学生を中心としたチームだが、ディフェンスやクイックネスあるいは機動力やシュート力では、聖和学園のほうがやや上かとも思った。しかし、明成のガード、フォワード陣も勝負所でディフェンスをかなりがんばり最後は聖和学園を突き放した感じだった。インサイドとアウトサイドの歯車がかみ合えば、再び上位進出も可能だろう。ただ、このブロックには昨年度準優勝の東京成徳(東京)や、一ノ瀬和之監督率いる埼玉栄(埼玉)、そして逆サイドにはあの常勝集団、桜花学園(愛知)もいる。特に、インハイで札幌山の手に90-61と完敗した桜花学園は、リベンジに燃えているはずである。U-18トップエンデバーにヒル理奈はじめ数名が選出されている桜花学園は、もともと実力のあるチームだ。名将・井上監督のもと、必ずや立て直してくるに違いない。我が宮城代表の明成が上位進出するためには、これらのチームを倒さねばならない。

 ウインター・カップ2010は、12月23日からはじまり、女子決勝は12月28日である。今から本当に楽しみだ。

オフィシャルサイト


ウインターカップの組み合わせが決まった【男子編】

2010年11月25日 | 籠球

 平成22年度全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会(通称 Winter Cup 2010)の組み合わせが決まった。(公式サイト組合せ→男子女子

  先日、このブログで取り上げた宮城県代表の東北学院高校は、一回戦・日本航空高校(山梨)との対戦だ。もちろん簡単な相手ではないが、東北学院の実力も本物。是非ともがんばってほしい。うまく勝ち上がっていければ、3回戦で第4シードの京北(東京)と対戦する。実現すれば、面白い試合になりそうだ。注目のガード京北・田渡と東北学院・冨永のマッチアップは見ものかもしれない。

 ところで、先のインターハイで多くの番狂わせ(?)がおきたため、今年はこれまで実力校と目されてきたチームがノーシードとなり、比較的早い段階から実力校同士の対戦が予想される。上位は例年とは違う勢力地図になりそうだ。

 組合せ表を一瞥すると、2回戦からインハイ優勝校で第一シードの八王子(東京)と上位常連校の北陸(福井)がぶつかる可能性が高い。八王子は外国人センターに加え、アウトサイドプレーヤーのシュート力もなかなかだが、インハイをみた限りでは圧倒的な強さは感じなかった。はっきりいって、北陸が勝つチャンスは十二分にあるだろう。同じく2回戦であたる新潟商(新潟)vs中部第一(愛知)も好カードだ。愛知といえば、かつて存在感のあった愛工大名電はどうしたのだろう。激戦区愛知を勝ち抜いた中部第一も弱いわけがない。同じく2回戦では京北(東京)vs洛南(京都)も予想される。上位常連校の洛南だが、今年は地区予選でかなり苦労したようであり、注目のガード田渡を擁する古豪・京北との対戦は興味深い。同じく2回戦、延岡学園(宮崎)vs光泉(滋賀)も実現すれば見ものである。名将・北郷監督率いる延岡学園の近年の活躍は周知のところだが、光泉も国体で活躍しており、その実力は本物であろう。この勝者が第3シードの東海大三(長野)と対戦することになる。東海大三についてはよくわからない。きっと、第3シードなのだから強いのだろう。

 一方、比較的組合せに恵まれたと考えられるのが、能代工(秋田)、福岡第一(福岡)、明成(宮城)である。能代工は、名前だけで考えればベスト8までは順当だろうが、ここ数年、能代工は上位進出していない。私は、かつてのようにトランジションのはやい能代工のバスケの復活を期待しているのだが、この組合せでベスト8までに負けるようなことがあれば、その凋落傾向に拍車がかかるのではないか。福岡第一もここ数年の実績からみれば、ベスト8までは順当にいきそうであるが、今年は外国人留学生が小粒であり、その意味では苦戦も予想される。ただ、予選で福岡大大濠を破ってきたことを考えれば、当然のことながら、弱いわけはない。明成(宮城)は、ベスト8までは大丈夫だろう。そこからが、二連覇をめざしての正念場が続く。インハイの決勝は、ゲームとしては接戦だったが、バスケットの質としてははっきりいって面白くなかった。明成のタイトで変幻自在のディフェンスと速い展開、そして人もボールもめくるめくように動くモーションオフェンスが見たい。

 ウインター・カップ2010は、12月23日からはじまり、男子決勝は12月29日である。今から、ウキウキ、ドキドキ、本当に楽しみである。

オフィシャルサイト


Please Please Me

2010年11月24日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 291●

The Beatles

Please Please Me

Scan10003

 iPod Shuffle を買って、ジムのランニングマシーンで走る時に聴いている。入っている曲はビートルズである。特に初期のものが時間的にもちょうどいいのだ。短い時間の一曲一曲を目標に、この曲が終わるまでがんばろう、という感じで走っている。昨年購入したThe Beatles Box を年代順に入れている。あとアルバム数枚入れれば、ビートルズ全曲完了である。

 説明する必要もあるまい。ビートルズの最初のアルバム、1963年作品の『プリーズ・プリーズ・ミー』である。このアルバムを今聴いて改めて思うのは、ビートルズはもともとダンス・ミュージック・バンドだったのだということだ。ダンス・ホールで踊るための実用的な音楽を演奏するバンドである。後年のビートルズから考えると驚くほど稚拙な演奏も耳につく。サウンドも貧弱なものが多い。にもかかわらず、このアルバムを聴くにたる作品たらしめているのは、① I Saw Her Standing There、⑦ Please Please Me 、⑭ Twist And Shout の存在だ。アルバムのトップ・真ん中、ラストに配置されたこれらの曲は、野球で言えば、さながら、先取点、中押し、ダメ押しという感じだろうか。個人的には、⑪・⑬あたりも結構好きなのだが、アルバム全体の構成を見た場合、先の3曲が大きな意味を持っているのは論を待たないであろう。

 ところで、多くのビートルズファンの反感を買うことを承知であえて発言するのだが、⑦ Please Please Me のハーモニカは余計だ。多くのファンにとって、このハーモニカは、この曲の象徴的な意味を持っているのだと思うが、よく聴いてみると、やはりダサい。ドンくさい。この曲がもっている爽快な疾走感を損なっている気がしてならない。ハーモニカがなければ、どのような演奏になったかもちろん想像できないが、私にとってはバッキングのギターの何ともいえぬ疾走感がこの曲のすべてである。

1. I Saw Her Standing There

2. Misery
3. Anna (Go To Him)
4. Chains
5. Boys
6. Ask Me Why
7. Please Please Me
8. Love Me Do
9. P.S. I Love You
10. Baby It's You
11. Do You Want To Know A Secret
12. A Taste Of Honey
13. There's A Place
14. Twist And Shout


ちょっと失敗/しかし、

2010年11月23日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 290●

Beegie Adair

My Piano Romance

Scan10002

 話題のピアニスト、ビージー・アデール。私はその名前すら知らなかったが、数ヶ月前だったろうか、購読している毎日新聞が文化欄で絶賛していたので、ちょっと興味があった。その後、宮城・利府ジャスコのCDショップでたまたま見かけて手に取ったが、帯の宣伝文句に購入すべきか考え込んでしまった。曰く、「うっとりJAZZYなエレガント・ピアノで甦る名曲たち」、「ロマンティック・ピアノの最高峰」である。……危険な作品だ。

 ビージー・アデールという人は、72歳で日本デビューして話題の、1937年生まれの女性ベテランピアニストだ。「心地よい上質な音楽で人気の」アメリカのレーベル・グリーンヒルを代表するアーティストであり、ナッシュビルを拠点にセッションミュージシャンとして活動してきたのだそうだ。

 かなりの時間迷った末、結局、私はこのアルバムを購入したのだが、アルバム帯の宣伝文句は真実だった。それはあくまで「うっとりJAZZY」な音楽であり、決してJAZZではない。エレガントという名の人畜無害な音楽だった。まあ、はっきりと悪口をいってしまえば、ただきれいなだけの音楽である。

 とまあ否定的なことをいっているが、私がこのアルバムをそんなに嫌いかというとそうでもない。そもそも私は、身銭を切って購入したものを嫌いになどならないのだ。きれいなだけの人畜無害な音楽ではあるが、曲によってはなかなかにスウィングするし、曲の崩し方もけっして悪くはない。人生観を変えてしまうような、あるいは魂を揺さぶるような作品ではもちろんないが、あってこまるようなアルバムではない。④ In My Life を聴いた時だ。何かすごく懐かしい気がして、一緒に歌ってしまった。ビートルズの演奏を無性に聴きたい気がした。ビートルズの演奏とは全然違うのだけれど、何というか、曲の芯とでもいうべきものをしっかりとらえており、曲の本当の良さが抽出されているような気がした。

 人畜無害ではあるが、決して毛嫌いすべき作品ではない。


マイケル・フランクスが無性に聴きたくなることがある

2010年11月22日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 289●

Michael Franks

Passionfruit

Scan10009

 ほんの時々なのだが、昔よく聴いたマイケル・フランクスが無性に聴きたくなるのはどうしてだろう。今日は朝からずっとそう思っていた。AORの推進者マイケル・フランクス。ハードロックに心酔し、コルトレーンのような理数系ハードコアジャズにのめりこんでいた私が、「軟弱な」AORを聴くようになったきっかけが何だったのかよくおぼえていない。友人たちの影響だったような気もするし、女の子と素敵な時間を過ごすための実用的なツールだったような気もする。いずれにせよ、青春時代の一時期、私はマイケル・フランクスにのめりこんだ。彼のアルバムをカセットテープに録音してセカンドバックに入れて持ち歩き、居酒屋や音楽酒場でよくかけてもらったものだ。1980年代前半、私が大学生の頃のことだ。

 マイケル・フランクス。私の所有する彼のアルバムも十数枚になった。wikipediaの彼の項目には、「独特の囁くようなヴォーカルスタイルと、ジャジーで都会的な音楽性は高く評価されている」、「デビュー当時からジャズ・フュージョン・ソウル界からの人気ミュージシャンを起用して楽曲を製作し、浮き沈みの激しいAOR界において、現在まで一貫した音楽性でコンスタントに作品を発表し続けている稀有なアーティストである」と記されている。自分の好きなアーティストをそういう風に評価してもらえるのはうれしいことだ。

 マイケル・フランクスの1983年作品、『パッションフルーツ』。恐らくは、当時私が最もよく聴いたアルバムだったかもしれない。いつものように、ソフトでメロウなサウンドにのせて、ささやくように歌うボーカルはまさしくマイケル・フランクスの世界だ。私がこのアルバムを特に気に入っているのは、そのメランコリックな雰囲気の故だ。じっと目をつぶって聴いていると、理由のわからない哀しみに襲われて、いい歳をして、涙が溢れ出てくることもある。若い頃のような直截的で刺激的な涙ではなく、もっとじわじわとした静かで、しかしどうしようもないような種類の哀しみだ。そしてこのような体験は年齢を重ねるごとに深まっていくような気がする。失ってしまったかけがえのない時間たちへの思いなのだろうか。あるいは、残された短くなっていく時間への思いなのだろうか。CD- ⑥ Never Say Die 、哀しみに満ちたイントロを聴いただけで、ああ、自分の心が制御できなくなる……。


ラスト・コンサート

2010年11月22日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 288●

The Modern Jazz Quartet

The Last Concert

Scan10007

 他のCDを聴こうと思っていたのだけれど、昨夜、持ち帰りの仕事をしながら《ながら聞き》したCDがまだプレーヤーに入っていたのでちょっとかけてみたら、聴き入ってしまった。うーん、やはりいい演奏だ。

 MJQの『ラスト・コンサート』、1974年のリンカーンセンターでのライブ盤である。今となっては「最初の解散」に際してのラストコンサートの記録ということになる。その後、活動再会と解散を何度かおこなう彼らだが、もちろんこの時は本当に「解散」するつもりだったのだろう。演奏からは溢れんばかりの熱気と哀惜の念が感じられる。油井正一氏は著書の中で「MJQの解散は70年代ジャズ界の最大の事件だった」と語っているが、MJQの存在ってそんなに大きかったのですね。聴衆の方も相当の思い入れがあったのだと思う。

 ミルト・ジャクソンは、学生時代によく聴いた人であり、今でも愛着がある(最近、あまり聴かないが……)。ジョンルイスは、もう十数年前になるが、仙台で秋吉敏子とのピアノ・デュオを生で見たことがある。なかなか興味深いライブだった。それ以来、ジョン・ルイスの作品を結構聴いたものだ。

 私は思うのだけれど、MJQの面白さというのは、奔放さと抑制の緊張感なのではなかろうか。奔放に自在なソロを展開しようとするミルト・ジャクソンのヴァイブをジョン・ルイスの「端正」なピアノが抑制し、音楽の骨格をつくっていく。しかし、それにおさまりきらないミルトのヴァイブが溢れ出ていく。私のもつイメージはそんな感じだ。そういう意味では、この『ラスト・コンサート』はMJQの音楽をよく表しているように思う。さらに、この作品では、パーシー・ヒースのベースが本当によく「歌って」おり、演奏全体にグルーヴ感を付け加えている。

 1974年、私はまだジャズという音楽を知らない、ロックを聴き始めたばかりの「ガキ」だった。


ウインターカップが楽しみだ!

2010年11月15日 | 籠球

 もうすく、(あと約1か月で)「高校バスケットボール全国選抜優勝大会」、通称Winter Cupだ。

 1ヶ月ほど前、わが宮城県予選の準々決勝・準決勝・決勝を生でみた。なかなかに見ごたえがあった。わが宮城県の男子は、ここ数年、明成高校の独壇場である。かつて仙台高校を率いてWinter Cup 2連覇をした名将・佐藤久夫監督率いる明成高校は、昨年のWinter Cup で奇跡の?優勝を果たし、今年のインターハイでも準優勝と、その実力は自他ともに認めるところである。

 しかし、今年、東北学院高校が意外にもこの明成高校に食い下がっているのは、全国的にはあまり知られていない。東北学院高校は、県内では以前から強豪として知られ、No.2の地位にあったが、今年2月の東北新人大会では決勝で明成に敗れたものの、あの能代工を倒して準優勝となり、6月のインハイ県予選でも残り数秒まで明成をリード、 結局同点となり、延長戦で惜しくも敗れるのだが、その実力は本物だと思う。

 今回のWinter Cup宮城県予選決勝も、すごくいい試合だった。(→大会結果

 明成85-81東北学院 (17-24,25-21,16-16,27-20)

 明成は3年生チーム、対する東北学院は多くの3年生が受験のため引退し、能力のある選手2人のみの登録だった。明成は3/4からのマンツーマン、学院はハーフマンツーでスタート。 途中から明成は3/4からのゾーンプレス→ハーフコートゾーンに、東北学院もハーフコートのゾーンに切り替えた。試合は終始、東北学院リードで進み、終盤に明成が追いつき逆転という展開だった。最後はリードされた東北学院がオールコートプレスをしかけるも、明成がなんとか逃げ切ったといった感じだった。東北学院は外からのシュートが本当によく入り、特に、No21の3年生ガード、冨永昇平選手の変幻自在なプレーが光った。No4の唯一の長身選手が前半に4ファールとなり、ベンチにいる時間が長かったのが痛かったと思う。 一方、明成は外を回して外からシュート、長身プレーヤーのリバウンドというやや単調なオフェンスだったが、最後の勝負どころでNo10安藤が果敢なドライブインでファールをもらいにいき、何とか逆転につながったという感じだった。

 明成はいつものモーション・オフェンスをやらず、何かを模索しつつゲームをしている感じで、確かに余裕を感じ、東北学院よりは一枚上かと思ったが、東北学院の実力も本物だと思う。特に、先の3年生ガード・冨永昇平選手は注目に値する。中学時代は、U-15トップエンデバーに選出された逸材だったようだが、高校に入ってからは明成高校の影で全国的には無名となってしまった。しかし、そのトリッキーなパスセンスと、タフで果敢なインサイドへの侵入ブレー(3点プレー)は、明成高校ですら簡単にとめる事は困難なようだった。はっきりいって、明成以外のチームとのゲームは彼のショータイムだったといってもいい。

 今年のインハイで明成が準優勝し、Winter Cup 推薦出場となるため、東北学院も宮城県代表としてWinter Cup に出場する。東北学院、いや冨永昇平選手を全国でみるのが、今から本当に楽しみである。

 Winter Cupは、今年もJ-Sports各チャンネルで放映予定のようである。

[追記]

 最近行われた仙台地区新人大会(→大会結果)では、東北学院が明成に圧勝したようだ。この大会では組み合わせの関係だろうか、明成と東北学院は2度対戦しており、一度目は93-90で東北学院の勝ち、二度目は何と75-50でまたしても東北学院の勝ちだったようだ。試合の内容は不明であるが、いずれにしても、東北学院は着実に実力をつけてきているようである(前から強いが……)。なお、この大会結果によると、聖和-明成戦が79-78で明成が辛くも逃げ切ったことになっている。女子の結果かと目を疑ったが、よくみると男子のようだ。一体何があったのだろう……。


10年以上も棚の片隅で待っていたCD

2010年11月14日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 287●

Pat Metheny

New Chautauqua

Scan10006

 何気なく、しばらくぶりにパット・メセニーでも聴きたいなと思い、CD棚を探していると、このアルバムを発見。そういえばあったな、もう10年以上CDデッキのトレイにのせていないような気がするなどと思い、少女趣味だが、10年以上もCD棚の片隅で私に取り出されるのを待っていたのかなどと、妙な感慨に浸ってしまった。

 1978年録音の『ニュー・シャトークァ』、パット・メセニーのソロ作品である。全編オバー・ダビングによって構成されているようだ。改めて聴いてみると、いい音楽だ。すごくいい音楽である。全編に不思議な静けさが漂い、しかも、明るくテンポのいいアメリカン・ポップスのテイストを感じるナンバーと、感傷的で軽い孤独感を感じるナンバーとが好対照をなし、光と影のイメージを形作っている。アルバムとしても明解でとても聴き易い作品だ。

 しかしそれにしてもなぜ、このような気持ちのいいサウンドのCDを10年以上も放置しておいたのだろうか。④「寂しい一軒家」を自作の「マイ・フェイバリット・パット・メセニー」に入れて繰り返し聴いたほかは、本当に10年以上放置していたのだ。ただ、よく聴いてみると、本当にいいアルバムなのだか、何か足りないような気がしないでもない。昨日から、もう4度もこのアルバムを聴いているのだが、それが何かはまだわからない。

 ところで、you tube には数多くの一般人によるパット・メセニーのコピー演奏がupされているのだが、みなさんなかなかうまい。というか、これはすごい、かなりうまいと感じるものも結構ある。わたしもガキの頃は、地元でギタリストとしてならしたものだ。ちょっとしたコンテストで賞をとって天狗になり、プロになろうかなどと夢想したこともあった。大学に入ってまもなく、ジム・ホールとパット・メセニーを知り、フレーズやアドリブの構成などを分析的にお勉強したりしたものだが、自分がやってきたロック・ギターをはるかに凌駕した理論とテクニック、しかもそれをひけらかすこともなく、何事もなかったように演奏する姿に脱帽。これはもうかなわないと思い、きっぱりギターをやめてしまった。もう少し根性があれば、なにくそ魂でもっとうまくなってやるぞと考えたのだろうが、当時の私には乗り越え不可能に思えたのだった。ギターを趣味的に練習していくという道もあったのだろうが、何か未練がましく思え、本当に潔くきっぱりと辞めてしまったのだった。

 今でも、ギターはほとんど弾かない。稀に、酒で酔い、弾くことがあるが、演奏はアドリブ、もちろん、流麗とは程遠い"どブルース"である。昔とった杵柄、頭の中ではそこそこのものは何とか弾ける自信だけはあるのだが、何せトレーニング不足で、指がもつれることもしばしばだ。だから、you tube にupされた一般人の演奏を見ると、正直、ほんの少しうらやましく思う。


Walk Alone

2010年11月05日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 286●

小曽根真

Walk Alone

Scan10004

 テンプレートを秋の雰囲気を感じる「銀杏」に変えてみた。銀杏をみると、大学時代を思い出す。大学へいたる道にあった銀杏並木を思いだすのだ。というわけで、秋の雰囲気を感じる一枚である。

 小曽根真のピアノトリオ+ストリングスによる1992年録音作品、『Walk Alone』。エディ・ヒギンズの『アゲイン』に収録された同名曲を聴いて、ずっと気になっていた。機会があったらオリジナル演奏を聴いてみたいと考えていたところ、1ヶ月程前、宮城・利府ジャスコのCDショップでこのアルバムを発見、早速、買い求めた次第である。ベースはマーク・ジョンソン、ドラムスはピーター・アースキン。

 1961年生まれの小曽根真は、私の1つ年上だ。学年は2つ上のようだが……。同世代ということで、私が大学生の頃、彼がクインシー・ジョーンズに見出されてアメリカCBSと専属契約を結んで話題となって以来、ずっと気になる音楽家だった。

 ①Big Apple Pie がかなり印象的である。いい演奏だ。のびやかですがすがしいピアノだ。③ Walk Alone 、やはり、いい曲だ。ゆっくりとした曲調と、ピアノの鍵盤にふれるタイム感覚がたまらなくいい。日本人の細胞にあっているのだろうか、などどつい凡庸なことを考えてしまう。

 いつも思うのだが、小曽根のピアノには、透明感があり、すがすがしく、さわやかで、どこかに凛とした音の芯のようなものがある。それが好きだ。


立原正秋箴言集(6)

2010年11月04日 | 立原正秋箴言集

六は、聖堂の中で、欲望や時流に支配され、まわりの者に阿諛し、自分の誠実さを保持しなかった者は、社会にでても使いものにならない人間だった、と語った。節操は第一義的なモラルであり、私的契機をどこまでも守って全体者の意志を自分の中で具現した者だけが立派だった、とつけ加えた。(『はましぎ』)

六とは主人公の生き別れの弟、六太郎のこと。「聖堂」とは、刑務所のことです。なかなかに含蓄のあることばです。


ipod shuffle

2010年11月03日 | つまらない雑談

101103_083855_2

  ipod shuffle を買ってみた。何だかんだいって、もう半年以上も続いているジムでのトレーニングの時、音楽を聴くためだ。マシーンで30分も40分も走るのはやはり退屈なのだ。ジムで使うだけだから、最も安い、最低のもので十分だと思い、この4,800円也の「ipod shuffle」なるものを買ったわけだ。

 特に音がいいわけではない。そんなことははじめから期待していないので、不満はない。むしろこの小ささがいい。クリップがついていてどこにでも付けることができ便利である。しかし、それにしてもである。考えようによっては、凄い製品である。思い切った製品だといった方がいいかもしれない。日本人にはできない発想ではないか。思い切った発想だ。事実、ソニーのウォークマンにはこの手の製品はないようだ。

 どこが凄いのか。最低の、本当に最小限の機能しかついていないのである。基本機能は、再生・一時停止・音量・一曲飛ばしのみである。再生も、「録音順再生」と「シャッフル再生」のみである。特定の曲を選んで再生することも、特定のアルバムを探し出して再生することもできない。まさに、"shuffle"である。本音をいえば、いくらジムでのトレーニング用といっても、できればアルバム検索機能ぐらいは欲しかった。ただ、私の場合は、用途が限定されているので、4,800円という価格を考えて納得することにしている。どこかのwebに書いてあったが、これから買おうとする人は、オーディオ機器とは考えず、パソコンの周辺機器と考えた方がいいかもしれない。すなわち、パソコンに音楽を音楽をためておき、外出の際、ちょっと持ちだすといった感覚での使い方である。パソコンに音楽をためておくなど(確かに便利そうではあるが)、考えもしない保守的な私には、ジムでのトレーニングがなければ、本来無縁の製品だったようだ。

 今日も夕方から時間が空く。ipod shuffleをつけてトレーニングにいこうか。


SPECIAL MENU

2010年11月03日 | 今日の一枚(K-L)

●今日の一枚 285●

金子晴美

SPECIAL MENU

Album4

 昔、よく聴いたのに生活の中で埋もれてしまった作品にふとしたことで再会するのは、楽しいことだ。当時の想い出や空気感がよみがえってくるとともに、意外なことだがまったく別の視点で冷静に聴きなおすことができるものだ。

 日本人ジャズシンガー、金子晴美の3rdアルバム、1983年作品の『SPECIAL MENU』もそんな一枚である。桑田佳祐作品集だ。当時、サザンオールスターズ自体が、ジャズピアニストで作曲家・編曲家の八木正生と接近し、ジャズテイストの作品を発表しており、決して話題性をねらっただけの奇をてらったアルバムではなく、内容的にもなかなかよくできた作品に仕上がっていると思う。実際、金子晴美自身、このアルバムでひとつの才能が開花したところもあり、 彼女の代表作のひとつとなっているようだ。編曲は八木正生その人である。

1. ハロー・マイ・ラヴ
2. トゥモローズ・ロード(シャ・ラ・ラ)
3. いにしえのトランペッター
4. ミュージック・マン(我らパープー仲間)
5. メモリーズ・オブ・ラヴ(YaYaあの時代を忘れない)
6. マイ・ラヴ・ソー・スウィート(いとしのエリー)
7. ジャズ・ランドより愛をこめて(がんばれ,アミューズ)
8. ストーリーズ・エンド(別れ話は最後に)
9. ホエン・ユーア・オーヴァー32(恋する女のストーリー)
10. スペシャル・メニュー(アイ・アム・ア・パンティ)

11. ジャス・ア・リトル・ビット

 原曲のメロディーを損なうことなく、聴き易いサウンドとする一方、すべての曲に英語の詞がつけられ、ジャズテイストが加味された結果、意外なことにも、サザンオールスターズとはまったく異なる解釈の作品に仕上がっている。ちょっと都会的で、今聴いても新鮮なサウンドだ。否、むしろ、当時より、今の方が新鮮かもしれない。えっ、この曲ってこんなに素敵な曲だっけ、などと思うこともしばしばだ。これぞジャズの醍醐味である。最後の曲、just a Little Bit 、いいなあ……。

 1983年、ふとしたことで貸しレコード屋でこの作品に出会い、リアルタイムで聴いていた。ジャズ喫茶通いをし、トレーンとかアイラーなどハードコアなジャズを「お勉強」いていた私にとって、日常生活の中で心に潤いを与えてくれた作品のひとつだったような気がする。残念ながら、金子晴美はこの一枚しかもっておらず、現在のところ、私にとっての金子晴美はこのかわいらしい声がすべてである。