WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

宮城オルレ奥松島コース踏破

2019年07月28日 | 今日の一枚(K-L)
◉今日の一枚 437◉
Karel Boehlee Trio
Dear Old Stockholm
 昨日は、妻と連れ立って宮城オルレ奥松島コースにチャレンジした。1周約10kmの中級者向けコースで、オリエンテーリングのように目印を探しつつ歩くのはなかなか楽しかった。
 風景が次々変わり、随所に切通しなどもある起伏にとんだコースだった。しかし、ラスト3kmは地獄のようだった。雨が上がった後ということもあり、ドロドロ、グジャグジャで、グダグダの足場の悪い,およそ道とは思えないようなアップダウンの激しい急斜面が続き、身体的にも精神的にもかなりきつかった。膝が痛み出した妻は、もうこのコースには来たくないと訴える始末だった。ただ、終盤の大高森から見る眺めは、疲れが吹き飛ぶほどに美しいものだった。

 14時頃から歩き始め、コールしたのは17時半過ぎ。約3時間半のウォーキングとなった。足湯施設があるレストハウスなどの施設もすでに閉まった後だった。さて、奥松島コース踏破の後は、いよいよ宮城オルレ唐桑コース(上級者向け)へのチャレンジが現実的なターゲットとなってきた。


 今日の一枚は、オランダのピアニスト、カレル・ボレリーの2004年リリース作品「ディア・オールド・ストックホルム」である。このピアニストについては、以前「ラスト・タンゴ・イン・パリ」という作品を取り上げたことがあったが(今日の一枚113)、近年のピアニストの中ではすごく好きな人のひとりである。

 カレル・ボレリーは、ヨーロピアン・ジャズ・トリオの初代ピアニストであり、ジャス・ハーモニカの巨匠トゥース・シールマンズのピアニストとしても活躍した人のようだ。ライブも基本的にヨーロッパのみ、しかもオランダ周辺でしか行わないとのことである。透明感に溢れ、水を打つような静謐さが漂うピアノの響きは、まさにヨーロッパ的だ。以前は、オンマイクの録音があまりに明快できれいすぎることが気になっていたが、最近は、CDをかけると、いつも目をつぶって聴き入ってしまう。その気取らない気品のある響きにはいつも惚れ惚れするのみだ。表題作の②Dear Old Stockholm は本当にいい演奏だ。原曲の哀愁メロディーを生かした、透明で静寂な響きがたまらなくいい。

ようやくかつおの季節だ!

2019年07月27日 | 今日の一枚(C-D)
◉今日の一枚 436◉
Carmen McRae
For Lovers

 先日記したように、今年はカツオの北上が遅れたらしく、カツオ水揚げ日本一といわれる私の住む街に、地物のカツオがないという異常事態が続いていた。2週間程前から水揚げが盛んになり、魚屋にもスーパーにも地物のカツオが並ぶようになった。魚市場では、この数日間カツオがバンバン揚がっているようだ。私の住む街もやっとカツオの季節だ。
 数日前には、カツオの刺身を食べた。私は、ちょっと前まではしょうゆとニンニクの薬味でいただくのが大好きだったのだが、最近は「味ぽんマイルド」で食べるのがマイブームだ。つまは、もちろんきゅうりの千切りである。しょうゆや味ぽんマイルドでいただくきゅうりの千切りは最高に美味だ。
 昨日の夜はカツオを食べるつもりはなかったのだけれど、職場の同僚たちがカツオの話をしているのを聞くに及んで、急にカツオが恋しくなり、電話で妻に許可をもらって、カツオを買って帰宅した。作ったのはカツオのたたきである。たたきといっても、表面を焼くやつではなく、カツオとネギと味噌を混ぜて細かく刻むのだが、ネギは玉ねぎでも可能である。昨夜は玉ねぎでやってみた。私の一番好きな食べ方である。

 今日の一枚は、2006年にリリースされたカーメン・マクレエの『フォー・ラヴァーズ』である。「恋人たちの時間を演出するロマンティックなジャズサウンド」と銘打ったユニバーサルミュージックの企画盤《フォー・ラヴァーズ》シリーズの一枚である。

 カーメンはいつ聴いてもいい。どのアルバムも魅力的だ。もちろん、エラ・フイッツジェラルドだって、サラ・ヴォーンだって好きなのだけれど。カーメンはちょっと聴き方が違うのだ。エラを聴くと、上手いな、すごいなと思う。サラを聴くと、カッコいいな、ご機嫌だなと思う。カーメンを聴くといつも、いいなあ、と思う。
 

やませ

2019年07月25日 | 今日の一枚(A-B)
◉今日の一枚 435◉
Bill Evans
Songs On Time Remembered


 しばらくぶりの晴れだ。やっと晴れた。さあ,歩こう。雨の日は市立体育館のジムのマシーンで走っていたのだ。数日ぶりの防潮堤ウオーキングだ。自宅から防潮堤までの往復を含めて,6km程度のコースだ。防潮堤ウオーキング under the blue sky と思っていたのだが,行ってみると向こう岸は「やませ」だった。やませとは,下層雲や霧を伴う,東北地方太平洋岸で春から夏に吹く冷たく湿った東からの風のことだ。やませの向こうに大島大橋が見える。



 向こう岸はやませで大島が見えない状況だったが,空は晴れており,快適なウオーキングだった。しばらくぶりだったので,1時間10分程かけて比較的ゆっくり歩いてみた。

 今日の一枚は,ビル・エヴァンスの「ソング・オン・タイム・リメンバード」である。防波堤を歩きながら聴いた。ビル・エヴァンスの伝記的ドキュメンタリー映画「タイム・リメンバード」に登場す曲を集めた,2019年リリースの作品である。
 
 私はこの映画「タイム・リメンバード」を未だ見ていない。一関や石巻で上映されたらしいのだが,機会を逸してしまった。まったく口惜しい。ビル・エヴァンスの生涯を「時間をかけた自殺」などと表現する至言を目にすると,もう駄目だ。卒倒しそうである。上映でもDVDでも何でもいいから,一刻も早く見てみたいものである。

 防波堤ウォーキングをしながらこのアルバムを聴き,イメージが広がっていった。しばらくぶりに聴いた「スパルタクス愛のテーマ」に胸が熱くなり,ジェレミー・スタイグとのデュオを思い出して,帰宅してすぐ「ホワッツ・ニュー」をCDトレイにのせた次第である。



長沼ウォーキング

2019年07月23日 | 今日の一枚(A-B)
◉今日の一枚 434◉
秋吉敏子トリオ
1980 秋吉敏子トリオ in 陸前高田

 この前の日曜日は、宮城・登米市にある長沼の10kmのウォーキングコースを歩いてみた。長沼は、宮城県最長の外周を誇る湖沼で、ボート競技のメッカとしても知られたところだ。

 ハスで覆われた長沼の眺めはなかなかのものだったが、アップダウンはほとんどないものの、複雑に入り組んだ岸に沿って作られた、曲がりくねったウォーキングコースは、精神的な消耗をもたらすに十分だった。2時間弱でなんとか歩き切ったが、精神的にも身体的にもかなり疲れて、ヘロヘロな有様だった。しかし一方で、一周すれば20数キロある長沼の完全制覇に、いつかはチャレンジしてみたいとも思った。


 今日の一枚は、「1980 秋吉敏子トリオ in 陸前高田」だ。1980年6月13日、岩手県陸前高田市民会館大ホールで行われた秋吉敏子のライヴ録音盤である。奇跡的に発見された録音テープより最新デジタル・リマスタリングされたCDなのだそうだ。 

 陸前高田は隣町である。よく覚えていないのだが、高校3年生の頃、このコンサートに行ったかもしれない。陸前高田市民会館でのトシコのコンサートには行った記憶がある。トシコは、これまでおそらくは20回以上見ており、どれがどれか記憶が定かでない。奇跡的に発見された録音テープからのリマスタリングらしいが、音はそんなに悪くない。

 冒頭の「長く黄色い道」からトシコの流麗なアドリブ全開である。バックも迫力ある演奏だ。改めて聴くと、若い時代の、あるいは脂ののった時代の、トシコの才気あふれる演奏には、まったく脱帽である。「女バド・パウエル」と呼ばれることは、もしかしたらトシコには不本意なのかもしれない。しかし、そういわれることに首肯させられるほど、瑞々しくアグレッシブな演奏である。

大島ウォーキング

2019年07月14日 | 今日の一枚(K-L)
◉今日の一枚 433◉
Keith Jarrett
Still Live
 そういえば、先週の日曜日には、突然思い立って、妻と大島ウォーキングに行った。今年の4月に待望の大島大橋が開通して、気軽に行けるようになったのだ。
 大島にはいくつかのウォーキングコースがあるが、歩いたのはもちろん初心者コースだ。距離は短いが、リアス式海岸の海岸線を歩くため、アップダウンが多く、意外に難コースだった。風が強く、ちょっとハードなウォーキングだったが、遊歩道からの海の眺めは本当に素晴らしいものだった。もう少し脚力を付け、近いうちに他のコースにも是非とも挑戦してみたいと思った。
 今日の一枚は、キース・ジャレットのスタンダーズトリオによる『枯葉~スティル・ライブ』である。録音は1986年。若いころ、リアルタイムで聴いた作品だ。もちろん、ドラムスはジャック・ディジョネット、ベースはゲイリー・ピーコックだ。スタンダーズトリオのライブ盤としては、『星影のステラ』に続く、2作目ということになる。

 キース・ジャレットのファンを自認する私は、キースの作品は現在に至るまで基本的に購入し続けている。ところが、いつのころからか、購入はするものの熱心には聴かない状態が続いている。トリオが成熟し、三者のインタープレイ濃度が増してより緻密な音楽世界が表出されるようになるにしたがって、音楽が難しいものになったように思う。

 このアルバムに代表される1980年代のスタンダーズトリオでは、インタープレイの中にも素朴な歌心が息づいており、肩の力を抜いて安心して聴くことができる。明晰で透き通ったキースのピアノの響きが大好きだ。



骨寺村荘園遺跡ウォーク

2019年07月14日 | 今日の一枚(G-H)
◉今日の一枚 432◉
Giovanni Mirabassi
Animessi

  昨日は、岩手県一関市の骨寺村荘園遺跡を歩いた。骨寺村は、鎌倉幕府の公式歴史書『吾妻鏡』にも登場する中尊寺経蔵領の所領だったところだ。中世の荘園の田園風景がいまでも残っている稀有な場所だ。

 大学生のころ、関係文書を読んでレポートにまとめたことがある。骨寺村の存在は当時から知られていたが、まだそれほど有名ではなく、現地調査をしなかったこともあって、いつかきちんと調べてみたいと思ったものだった。結局、40年近くそのテーマを放置したままだったのだけれど。その後、発掘や遺跡の整備が行われ、行政のPRもあって骨寺村はすっかり有名になった。最近、ウォーキングやトレッキングをやるようになり、とりあえずは、と思い立って遺跡を歩いてみた次第である。

 梅雨の合間の晴れた一日。気持ちの良いウォーキングだった。約3kmの駒形コースを横道にもそれながら約1時間かけて歩き、すこし休んで約2.5kmの若神子コースを50分程歩いた。

 山間の少し開けた場所に、湧水を使った田園風景が続く。中世の風を感じながら、古に思いを馳せる。遥かなる中世・・・。

 骨寺村を歩きながら、ネックスピーカーで聴いたのは、イタリアのピアニスト、ジョバンニ・ミラバッシの2014年録音盤『アニメッシ』だ。ジョバンニ・ミラバッシがアニメ曲に取り組んだアルバムである。収録曲は次の通り。

01. 君をのせて(『天空の城ラピュタ』より)
02. 人生のメリーゴーランド(『ハウルの動く城』より)
03. クラッチ(『カウボーイ・ビバップ』より)
04. 炎のたからもの(『ルパン三世 カリオストロの城』より)
05. 旅路(夢中飛行)(『風立ちぬ』より)
06. 愉快な音楽I~V(『ホーホケキョとなりの山田くん』より)
07. 風の伝説(『風の谷のナウシカ』より)
08. グラヴィティ(『ウルフズ・レイン』より)
09. 銀色の髪のアギトBGM(『銀色の髪のアギト』より)
10. さくらんぼの実る頃(『紅の豚』より)

 売れ狙いの企画ものなどではない、骨太のジャズ演奏である。流麗な即興演奏の中で、原曲の骨組みが時折顔を見せると、聞き覚えのある旋律に思わず頬が緩む。ジョバンニ・ミラバッシという人は、即興演奏も流麗であるが、透き通った美しい音色のピアノを弾く人だ。④「炎のたからもの」、いいなあ。

防潮堤ウォーキング

2019年07月06日 | 今日の一枚(E-F)
◉今日の一枚 431◉
Enrico Rava
Renaissance


 防潮堤ウォーキングにはまっている。震災後に築かれた防潮堤の上を歩くのだ。自宅と防潮堤まで往復する時間を加えて1時間強のコースだ。海を見ながら歩くのは気持ちいい。このコースは長続きしそうだ。体育館のマシーンで走るよりずっといい。まだ2週間程だが、夕方帰宅してウォーキングに行くのが楽しみな始末だ。


 
 防潮堤は銀色の要塞だ。浜辺に巨大な人工的建造物が続くのは、異様な光景だ。防潮堤建設にはいまでも反対だか、ここから見える景色は、なかなかきもちいい。


 今日は一日曇りだったが、夕方になって一瞬晴れ間が見えた。すかさず、ウォーキングだ。4月に開通した大島大橋が遠くに見える。波も穏やかだった。


 大島もくっきり見える。大島は東北地方最大の有人離島だ。海食による荒々しい奇岩が見事な龍舞崎や、鳴き砂で知られる十八鳴浜(くぐなりはま)、環境省の「快水浴場百選」で全国2位に選ばれた小田の浜などがある。正面の山は亀山だ。震災の時、この山の火事を対岸から見ていたことを今でもはっきりと思い出す。


 三陸道の湾内横断橋の工事もだいぶ進んできた。この橋ができれば、三陸道の利便性は格段に向上するだろう。

 今日の一枚は、イタリアのトランぺッター、エンリコ・ラバの2002年録音作品「ルネッサンス」だ。ヴィーナス盤である。CDの帯には次のようにある。
ルネッサンスの夢と幻、青春の光と影。イタリアのモダン・ジャズ・トランぺッター、エンリコ・ラバの人生を決定づけたマイルス・デイヴィスとチェット・ベイカーに捧ぐ、哀しくも熱いハートが聴くものの胸を締めつけ、そして解放してくれる。ジャズの一大絵巻的アルバム。
 これは日本語なのだろうか。意味不明だ。まあいい。ただ、「ルネッサンスの夢と幻、青春の光と影。」というには、ちょっと音が強すぎる。音の起伏や陰影が足りない。悪くない演奏だが、ヴィーナス盤特有のベースのゴリゴリ感がアルバムのコンセプトを裏切っている気がする。

 音が強いので、リズム感が際立ち、ウォーキングしながら聴くには、悪くないアルバムだった。

生きがい

2019年07月06日 | 今日の一枚(S-T)
◉今日の一枚 430◉
渋谷毅 & 平田王子(LUZ DO SOL
太陽の光

 apple music をいじっていたら、面白い作品が目にとまった。渋谷毅と平田王子によるユニット、LUZ DO SOL(ルース・ド・ソル)の第三作、2011年作品の「太陽の光」である。

 アルバムの最後に収められた「生きがい」がいい。1970年に由紀さおりが歌ってヒットした名曲である。いい曲だ。平田王子の訥々とした歌い方が曲の魅力を引き出している。それにしても、なぜ「生きがい」をと思って調べてみると、なんとこの曲を作曲したのは渋谷毅だった。そういえば、子どもたちが幼いとき、子ども番組で聴いた「夢のなか」という曲がいい曲だなと思っていたら、なんと渋谷毅作曲だった。恐るべし渋谷毅。

 このユニットのライブを、私の住んでいる街のヴァンガードというジャズ喫茶で見たことがある。2007年のことだ。そのときの渋谷毅は特異な存在感を放っていた。ジーンズによれよれのシャツとジャンパーを着た渋谷毅の風貌は、地元のさえないおじさんと区別するのが困難なほどだった。開演前に狭い会場の客席を落ち着きなくうろついていた渋谷毅は、マスターからコップ酒をもらうと、それを飲みながら寡黙にピアノのある方向に歩き出した。

 平田の演奏が始まっても、渋谷毅はピアノの前に立ったままだった。髪の毛をかきあげながらじっと譜面を見つめていた。そのうち、おもむろに椅子に座ると、抜群のオブリガードで平田の音楽に合わせていった。渋谷毅の指先からは、端正で流麗な美しい音色が紡ぎだされた。曲が終わると、髪をかき上げながら、ピアノの上にぐちゃぐちゃに散乱した書類の中から次の曲の譜面を探しはじめた。そんな渋谷毅の姿に、退廃的な香りを感じないわけにはいかにかった。
 
 デカダンス・・・。まったく恥ずかしい話だが、私はそういうジャズの退廃的な香りが好きだ。そういう渋谷毅をかっこいいと感じてしまう。

 渋谷毅。稀有な音楽家である。