時節柄、ある女と男のすれ違いの話。

2018年04月19日 | 日記・エッセイ・コラム
「だめ」
 彼女は、彼が肩に回した腕を払った。
「気分悪いの?」
「・・・」
「どうしたの?」
「帰るね、ごちそうさま」
「何か怒らせるようなことした?」
 彼女は答えない。
「言ってよ、言ってくれなきゃわからないじゃない」
「もう、会わない方がいいとおもうよ」
「どうして、何か悪いことした、僕?」
 彼女は首を横に振った。
「・・・昨日、×××と会った」
「え?」
「酔っぱらって、ホテル行った」
「なんで」
「だから、私、汚れてるから、もう会わない方がいいよ」
 彼女は足早に去ろうとする。
 彼は、彼女の腕を掴んだ。
「なんで、そんな話、僕にするの?」
「黙っているのいやだから、誰かに話したかったから」
「なにそれ、わからないよ、×××嫌だって言ってたじゃない、けちで」
「そう、呑み代もホテル代も払わされた、最低でしょ」
「そんなこと聞いてない!」
「ひどいでしょ」
「やっぱり僕より×××が好きなんだ」
「まさか、くらべないで」
「じゃ、どうして?」
「聞かないで、私だって、嫌なんだから」
「だったら、そんな話言うなよ。黙ってて欲しかったよ」
「私は、あなたと違うの」
「どうして、わざわざそんな話して、僕を苦しめるの」
「苦しいの?」
「当たり前だろ!」
「苦しいんだ?、知らなかった」
 彼はおもわず右手を上げ、彼女のほほを打ちそうになった。
「やめて。私、あなたとつきあってなかったら、こんなことしなかったとおもうよ」
「なにそれ、僕のせいにするの?」
「私、軽くなっちゃたの」
「だからって、それを僕に聞かせなくてもいいじゃない」
「そういうの嫌なの」
「嫌なのは、僕の方だよ」
「関係ないじゃない、あなたは別に私じゃなくてもいいんでしょ」
「そんなことないよ、あるわけないじゃない」
「他にもいっぱいいるでしょ」
「何言っているんだよ、それはこっちが言いたいよ」
「帰る」
 彼女は彼の腕を、振り切ろうとする。
「聞かなかったことにするから、今日の話」
 彼女は首を振った。
「あなたには無理よ」
「どうして」
「あなたには無理」
「何言ってんだよ、お前がひどいことしたんだろ」
 彼は彼女の肩をゆすった。
 彼女は彼の手を振りほどいて、彼から顔をそむけた。
「だから、もう会わないって」
「わかった、じゃあ、またゆっくり話そう、ね、次いつ会える」
「もう会えないの」
「これからもっと大事にするから、」
「私なんかより、ちゃんと奥さん大事にした方がいいとおもうよ、サヨナラ」
 彼女は顔の筋肉すべてを無理やり動かしたような笑顔を作って、去っていった。