ヒーメロス通信


詩のプライベートレーベル「以心社」・詩人小林稔の部屋にようこそ。

「タペストリー6」 小林稔個人誌「ヒーメロス」より

2016年01月23日 | ヒーメロス作品

詩誌「ヒーメロス」27号掲載作品

タペストリー 6

小林 稔

 

 

時の迅速な流れは止まることなく

追億に映し出される人生は

滔々(とうとう)と流れる大河

神経の痺れが意識の岸辺に辿りつく

〈死の領土〉の敷居を跨ぐようにと

睡魔がしきりに手のひらを返す

 

波は舟に横たえた私の身体を揺らし

遠ざかりつつ近づく石の建物の群れを

私は一つ二つと数えている……

……眠れよ眠れ、この静かな真昼

少年の息の根をふさぎ

 引き抜いては小わきに抱え

連れ去ろうと夢見る邪悪なものから逃れよ

 

とある駅前広場

左から右から寄せる人ごみからはみ出し横切って行く

坊や、人生は残虐だ

おまえのかろやかな立居、たおやかな身体

家庭の日常から遮断され

おまえがそこにいることがすでに奇跡だ

かりそめの形姿を身にまとい立ちすくむ者

この不可思議な生きものでさえ

時は無数に伸びたその足で容赦なく踏みにじる

 

あこがれを牽引させ、虚空に私を引っ張りだす

そいつはいったい何者か、と問う私に

そいつはかつてのおまえだよ

という声がどこからか返ってきた



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