あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

西と東の交わり 3

2013-05-19 | 



三日目、今日もまた快晴だ。
雨の多い西海岸だが晴れが続く時もある。
もっとも、その晴れをねらって来ているわけだが。
昨晩、カツオの刺身をたらふく食い、ワインをガブ飲みしながら今日の予定を決めた。
ちなみにカツオはタイがユーチューブで『カツオのさばき方』というのを見ながら捌いた。
ユーチューブ万歳である。
なんで写真を撮らないんだろうなあ、と今になって思うが、その時はそこに当たり前にカツオがゴロンと転がっていると、写真のことなどどうでもよくなってしまうのだ。
そのカツオは旨かったかって?
そりゃ野暮な質問だぜ、兄弟。
羨ましがらせるわけではないが、厚めに切った柔らかい刺身のモチモチした歯ざわり。
あのカツオ独特の血の匂いがしょうがで消され、しょうゆと魚の旨さが口に広がる。
嗚呼、今思い出してもたまらないな。
ピノグリはどんどん進み、つまみがなくなった頃にキミが我が家の卵で京風玉子焼きを作ってくれた。
それも大根おろしを添えて。大根も我が家の庭から持ってきたものだ。
僕もよく玉子焼きを作るが、僕のは味の濃い弁当のおかずになるような玉子焼きである。
キミの作るのはあっさり味の卵焼きで、大根おろしのピリッとした辛みが合い、またまたワインが進んでしまう。
「日本でもよく、お父さんがお酒を飲んでいておつまみが足りなくなると玉子焼きを作ってたんだ」
素晴らしい。こういうところが日本の女性の素晴らしいところである。
僕はかねがね日本の女性は世界一だと思っている。
それはそこにあるもので最高の物を出す、茶の湯の心でもある、もてなしの心。
自分にできることで客をもてなす、それを自然に身に付けているところである。
これがすなわち愛。
どの国でもその地で取れる最高級品は海外に輸出されてしまうのだが、日本の女性が世界でモテルのはそういうことなのだ。
西海岸で取れたカツオの刺身、東海岸の我が家の卵と大根。そしてそれを調理する京女の愛。
いやいや、文化の交流というのはこういうものではないかと、酔った頭で考えるのであった。





と、なんか西海岸食い倒れ酔いどれ日記みたいになってしまったが、そんな中で今日のプランを立てたのだ。
翌日はタイが休みなので一緒に何かして遊ぼう、ということだったのである。
「明日はアルマーハットに泊まりで行きませんか?ヘリコプターで小屋まで行けるから食料とかワインとかビールとか何でも持っていけますよ。」
「泊まりでー?天気が崩れるんじゃないのか?」
僕が見た予報は翌日の午後から崩れるというものだった。
崩れるのならそれに合わせクライストチャーチに帰ろうとも思っていた。
「ちょっとチェックしてみましょう」
こんな辺鄙な場所でもインターネットで最新の気象情報が入るし、カツオの捌き方だって出てくる。文明の利器だ。
天気はどうやら翌日まで持ち、翌々日の午後から崩れるようだ。
それならタイの言うとおり明日の午後に小屋で一泊して翌々日の朝に戻ってくるのがいいようである。
ガイドとはその地に精通し、その状況で一番面白い遊び方を知っている人間である。
ならばガイドさんの指示に従おう、という具合に予定が決まったのだ。
午前中は下見の続き。
オカリトにある3マイルトラックを歩き、午後からヘリコプターで氷河のわきのアルマーハットへ行く。





3マイルトラックはオカリトビーチから先の3マイルラグーンまでの道である。
今は誰も住んでいないがゴールドラッシュの時にはここにも街があり、人や馬車の行き来していた道なのだ。
ここも途中まで行った事はあるが、その先は初めてだ。
森に入る前に湿地帯にかかる木道がある。
この木道ができたのはまだ4年ぐらい前か。僕はこの木道が好きである。
利便性や合理性だけを考えるのならば道は直線で作るほうが楽だし早い。
だがここは緩やかなS字カーブをあえて作ってある。こういう遊び心、それを設計する人のセンスが好きだ。
そしてこれならば車椅子でも来れる。いつかこういう所を車椅子の人のツアーをしたいなあ。
リムの森を1時間ほど歩くといきなり視界は開け、マウントクックとマウントタスマンが見える。
山は角度を変えると全く違う姿になるが、僕は西海岸から見るこの山も好きだ。
このトラックは引き潮の時には海岸沿いを歩ける。看板の所には毎日の引き潮の時刻が表示されている。こういう心遣いが嬉しい。
今回はあいにくタイミングが合わなかったので同じ道を引き返したが、誰もいないビーチを夕日を見ながら歩くなんてのもいいだろうな。






午後、ヘリパッドへ荷物を運ぶ。
小屋泊まりの道具一式、食料と酒たくさん、そしてライフル。
今回はタイの仕事仲間のリチャードとガールフレンドのシャーンと一緒だ。
リチャードはフランツジョセフ出身、生粋の西海岸の男でハンティングもするので彼もライフルを持っていく。
ヘリに荷物を積み込み、いざ出発。
昨日歩いたアレックスノブを横目にヘリはあっというまに目的地のアルマーハットに着いた。
今日はDOCのスタッフが小屋のペンキ塗りをしていたので、彼らを迎えに来るヘリに便乗したわけだ。
どっちみちヘリは山小屋まで来るんだし、それならヘリの会社も空で飛ばすより人を運んだ方がいい。
というわけでかなり割安でヘリに乗れる。
ヘリの会社のやりとりなども全てガイドのタイにお任せ。
ガイドがいると楽じゃのお。
荷物を下ろし、DOCスタッフが乗り込み、ヘリが飛び去った後は静寂な世界である。
目の前には巨大な氷河が横たわり、何千もの氷のひだが重なり合う。
いつものことだが、こういう場所に来ると「すごいなあ」と言う言葉しか出てこない。
言葉が景色に追いつかないのだ。
故に口を開けば「すごいなあ」になってしまう。
写真で残す映像とはその世界の一瞬の切り取りである。
そこに風の揺らめきはないし、風が止んだ時の静寂さはない。
プロのカメラマンになればそういうものも表現できるのかもしれないが僕には無理だ。
実際には常に雲は動いているわけだし、空気も止まっているわけではない。
時々小石がパラパラと崩れる音が聞こえるし、遠くで氷が崩壊する雪崩の音も聞こえる。
そういったもの全てを第三者に伝えることは不可能だ。
こういう場所に自分の身を置く。
これが自分の生きている証であり、僕がニュージーランドに住む理由なのである。
というようなことを考えていたら、全く同じ事がタイの口から出た。
心の奥で繋がっている人と行動を共にするとこうなるのだ。









まだまだ続く。
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1 コメント

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同期してる (かな)
2013-05-19 18:19:13
タイ君もちょうど同じ内容をあげていて
読んでいてとても面白かった♪

羨ましいったらありゃしない(笑)
ほんと「すごい」しか口からでない
圧倒される場所!行ってみたいよぉ~氷河の上の山小屋!

続き早々によろしくです^^
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