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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える⑥ 邦人輸送時の共同交戦能力行使

2014-07-10 23:48:28 | 国際・政治

◆データリンクとゾーンディフェンス

 グレーゾーン事態を考える、この最たるものは政府が幾度か提示している邦人救出任務があげられるところ。

Img_4550  政府は邦人救出に際し、紛争地から脱出する邦人を輸送支援する米軍艦艇の警護任務、特に米軍艦艇が攻撃を受けた際、どう対応するのか、という部分について。代表的な事例ですのでこれまでに六月十日に掲載しました第三回“榛名防衛備忘録:グレーゾーン事態を考える③ 邦人救出任務は一概に判断不能”において扱った内容ですが、重ねて。

Img_3656f 紛争地からの邦人輸送時、ここで議論されている内容に米軍艦艇を利用して邦人救出が行われる可能性は低いのではないか、という指摘がありましたし、自衛隊が護衛する状況も考えにくい、という指摘がありました。この部分の根幹の部分については、これまでに邦人脱出がイランイラク戦争期におけるトルコ航空の航空機により、政府要請で飛行する機体はシカゴ条約により政府用機扱いとなるためですが、実施された事例がありますので、改めてその可能性能ウを図る必要はないでしょう。

Mimg_6600 まず、海上自衛隊は専守防衛を国是とした防衛力整備を継続しているため、輸送艦艇の数に全く余裕がありません。したがって、邦人救出任務が大規模なものとなればなるほど、海上自衛隊が今後輸送艦艇を大幅に増強しない限り、輸送力が不足するという状況は十分考えられるものです。

Eimg_7760 そこで、海上自衛隊が支援に当たる、という可能性は挙げられるところなのでしょうが、米軍艦艇を護衛する、という状況がどの程度考えられるのか、と能力面から考えてゆくところとしましょう。まう、米軍艦艇が充分な護衛を加えず第一線に展開する状況は考えにくい、この点については論理として説得力はあるかもしれません。

Img_0282 一方で、海上自衛隊が邦人救出において日米やその他の友好国との間で作戦調整所を構築して対応する際、海上自衛隊は米軍艦艇に直接の護衛を行うのではなく、その他の国民を各国艦艇や船舶が救出に当たる際の航路の防衛、所謂安全地帯構築に責任を有するゾーンディフェンスを要請される可能性は十分現実的です。

88img_1292 そして、例えば自衛艦による邦人救出が政治的に難しい、例えば朝鮮半島有事や台湾海峡有事において事前協定を経ずして海上自衛隊の艦艇が韓国や台湾の主要港に入港できるかと問われれば、少なくとも韓国や中華民国とは我が国は友好国ではありますが同盟国ではなく、この部分で米軍との関係が重要となる可能性がある、ということ。

Jimg_6377 アメリカは中華民国との間で米華相互防衛条約の機能を引き継いだ台湾関係法を、韓国との間には米韓相互防衛条約を結んでおり、同盟国として機能しています。このため、日本が直接交渉するよりは、同盟国や事実上の同盟国との関係をもつアメリカに当該国領域内での集合を要請し、我が国艦艇はその支援にあたる、これは現実的選択肢と言えます。

Img_0608 理想としては主体的に我が国がソウルや台北との間で事前協議を行うか、十分な準備を独力で構築し、即応艦艇として輸送艦艇を待機させることですが、短期間で実現することは容易ではありませんし、泥縄式に状況悪化後に対応するとしても、両国間が緒戦の混乱下での合意に至るまでの段階での支援を我が国として同盟国の善意を期待する、ということは、必ずしも選外の論とはならないでしょう。

Mimg_2450_1 そもそも、日米の艦艇はデータリンクにより彼我の情報を共有しているため、広義の、つまり軍事的な意味での情報共有は、索敵能力の一端を供しているわけですので、情報共有下での一方の戦闘加入は広義には自衛権の行使を共有、つまり言うところの集団的自衛権の行使に他なりません。ただ、我が国では情報共有の軍事的意味の評価を低く見る趨勢があるため、行使にならない、と抗弁することも出来るかもしれないところ。

Pimg_7607 このあたりをどう考えるかは、我が国の場合、データリンクや共同交戦能力の行使という部分の理解が、自衛隊や防衛問題に関する識者の間では共有されていても、政治的な問題を討議する主体の当事者間では共有されていない、という部分が散見され、このあたり、齟齬を挟む背景となるのでしょうか。

北大路機関:はるな

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