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衛生自衛隊が必要だ:3.11東日本大震災追悼【4】化学剤攻撃や原子力災害にも資する私案

2020-02-15 20:16:37 | 防災・災害派遣
■大規模災害専任ではなく
 衛生自衛隊の任務は3.11に併せて掲載している特集ですけれども、必ずしも災害対処専任ではなく自衛隊の本来任務である防衛とも合致します。

 対特殊武器衛生隊。自衛隊には大宮駐屯地に大規模な化学兵器攻撃や核攻撃を想定し、通常の衛生部隊では治療が難しい専門対処を念頭とした部隊が存在します、2個中隊基幹で、この部隊を大宮に置く背景には1995年地下鉄サリン事件という戦訓があることは間違いありません、実際化学科部隊の特殊武器防護隊改編は大都市近郊が優先されてきました。

 師団規模の策源地に対して化学剤が大規模に使用された場合でも部隊の自己防護能力や除染能力を加えて整備していることから、この対特殊武器衛生隊により対処できる幅は大きいでしょう、その能力を応用するならば化学剤を用いたテロに対してもかなりの幅で対処できるでしょう、が、軍事攻撃として都市部に大規模な化学剤散布が行われた場合、は。

 東京や大阪等の大都市を想定しますと、いや地方都市であっても、150名の対特殊武器衛生隊だけで対処可能でしょうか。中国と北朝鮮にロシア、化学剤や核兵器を保有する諸国が我が国周辺に多く、北朝鮮は第三国での暗殺にVX剤を使用しましたし、ロシアは諜報機関によるイギリス国内での新神経剤ノビチョック使用へ関与したことが強く疑われています。

 VX剤やノビチョック、この二例はあくまで平時の非正規戦ですが有事の際には補給倉庫群等に対し使用される懸念はありますし、弾道ミサイルによる投射という懸念も払拭できません、軍事的な側面から考えた場合にも、こうした大規模な都市部攻撃への特殊武器防護への衛生部隊は必要性が大きいのですね。しかし自衛隊本来任務に文民保護は含まれない。

 ただ、特に平時枠組みを念頭に、こうした事態に対処できる組織は民間にはありません。いや、本来任務に含まれていないからこそ、所管事項を越権してまでの能力整備には予算がつかない現状が当然なのですが、しかし所管官庁がこうした最悪の状況を提示しますと、恐らくそうした特殊事例は想定外、若しくは将来研究対象、と一蹴されてしまうでしょう。

 福島第一原子力発電所事故、3.11鎮魂とともにこの巨大災害を回顧しますと、原子力非常事態宣言とともに警戒区域に指定された地域の病院を緊急避難させる際に大量の入院患者を放射性降下物の直中に担架で、待機という名の放置を行ったこと、この簡単なつい最近の怒るべき事態を思い出しても、衛生自衛隊を創設する一大論拠となるようにおもいます。

 原子力非常事態とともに警戒区域へ指定された地域の病院は入院患者を、兎に角移せとの政府指示、原子力警戒区域指定への不退去には罰則がある、この指示のために転院先はもちろん、移動させる救急車さえ確保できないまま、病院前にストレッチャー上で並べられ、当時は風向きが内陸に向かっており被爆、これが新しい問題を引き起こしてしまいます。

 被爆線量が高まったことで除染必要有無の判断が生じ、さらに警戒区域外の受け入れ病院が除染施設の準備がないことを理由に受け入れ判断に時間を要し、一つの手遅れが次の手遅れにつながっています。反省はないのか、と声を強めたいのはその直後です、観光バスなどかき集めた車両で長時間入院患者を移動させたことで、疲労が人命にかかわりました。

 災害関連死、という状態に追い込んだのですね。この点一つとっても、安易な原子力非常事態宣言と待避計画無き警戒区域指定を行った当時の政府を許すことはできません。だからこそ、次に備える義務が、と。衛生自衛隊、例えば原子力事故を想定するならば、NBC防護能力のある救急車を原子力防災の観点から準備する必要があったように思います。

 政府も東日本大震災当時、装甲車を可能な限り集めてでも、移送する手続きが求められました。次の巨大災害に伴う原子力事故を想定するならば、96式装輪装甲車や82式指揮通信車と僅かに残る73式装甲車、そして期待の将来装甲車、担架を設置して緊急搬送に用いる。その上で対特殊武器衛生隊は警戒区域外の病院に核救護分遣隊する必要があるでしょう。

 福島第一原発事故当時は、福島県内の病院に突如被ばく患者受け入れの要請が為され、研修会一回二回の際に配布された程度の資料を手元に持つ医師が中心となり、手探りの治療をしつつ、日本国内の一般病院に専門家が一人もいない事を知らず、専門家への引継までの暫定措置と信じて治療準備を行った、という。こうした教訓がありながら現在はどうか。

 対特殊武器衛生隊に求められるのは、被爆緊急治療の準備のない民間病院へ被爆救護教導支援を実施、福島第一原子力発電所事故の際に求められた専門集団の創設ですね。更にもう一つ、転院先を確保できない入院患者を受け入れる施設を国が準備するのが望ましい、その一つの提案が対特殊武器衛生隊の所管をも含めた衛生自衛隊新編、という提案です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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3 コメント

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Unknown (ねこまんま)
2020-02-16 15:22:05
自衛隊と言うよりも、消防が地方自治体組織で完結している点に問題無いですか?
実行組織は地方自治体としても、国レベルの防災対策や予算は総務省からかな?と思います。
勿論、自衛隊は強化強化で参加すべきと思います。
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クルーズ船でも (北極熊)
2020-02-17 14:16:21
横浜港のクルーズ船ダイアモンド・プリンセスでの新型コロナウイルス対策でも、乗客は各部屋で隔離できても船員は船内を巡回しなければいけないのだから、そうした船員は下船させて全員検査し、代わりの交代要員を自衛隊や海上保安庁、消防などから送り込み、更にそのチームを後退させた方が良かったのではと言われ始めましたね。そういう時には、衛生兵部隊は正に出番ですね。
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Unknown (流線形)
2020-02-20 07:49:04
自衛隊員が他国籍の船に乗り込むということを前提にした議論は、国際公法の観点から難しいと思います。
英国船籍なので、英国の領土に等しい訳です。
そこに厚生労働省の人間が入り込んでも、”指示(Order)”は出来ないのです。あくまで”提案(Recommend)”できるだけですね。
入港を受け入れる側の国には、入港拒否、入港に際しての条件を付す権利があり、今回は、入港に際しての条件として”防疫”を要求しているものと思われます。
その”防疫”活動の一端として、船内に入り込んで日本国として条件が守られているのか”確認”を行っている段階だろうと思われます。
繰り返しますが、英国船籍の船内での活動について、日本政府が行政権を行使して”命令”、”指示”を行うことは国際公法の観点から難しいでしょう。
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