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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上防衛作戦部隊論(第三九回):装甲機動旅団編制案の概要 飛行隊と航空機動旅団

2015-11-29 22:38:05 | 防衛・安全保障
■航空火力と多用途任務
装甲機動旅団編制案の概要について、飛行隊と航空機動旅団の関係と航空火力と多用途任務という視点から。

装甲機動旅団、そもそも陸上自衛隊の戦車定数削減を受け、戦車を持つ旅団と持たない旅団に分けるとの視座からの提案で始まりましたが、その戦車を持つ旅団の編成は、普通科連隊、普通科連隊、普通科連隊、戦車大隊、偵察隊、特科連隊、特殊武器防護隊、高射特科大隊、施設大隊、通信大隊、飛行隊、後方支援隊、という編成で、普通科連隊が三個普通科中隊基幹の編成であり、二個中隊が装甲戦闘車を装備し一個中隊が軽装甲機動車を運用、装甲戦闘車化中隊二個と戦車中隊を以て機械化大隊を編成し、機動打撃の骨幹とする運用体系を構想しました。

前回までに装甲機動旅団は隷下の機械化大隊、普通科連隊戦闘団と戦車大隊を維持する旅団故の打撃力を担保するべく、立体協同の観点から戦闘ヘリコプターの配備は極めて重要な課題である、としています。特にAH-64D戦闘ヘリコプターのロングボウレーダーは情報優位と共同交戦能力の中核となり得るため、我が方の機械化部隊が攻撃前進する上での全法の状況などを戦車にデータリンクにより伝送し必要な火力と対処行動の全般状況を指揮官へ提示することがでkます、AH-64D戦闘ヘリコプターは非常に高価な航空機なので買うを揃えるのは財政上難しいのですが、それを考慮した上でも、やはり装備数に余裕があれば配備が望ましい。

しかし、装甲機動旅団と航空機動旅団は広域師団という一つの戦略単位に加入させていますので、統合任務運用の観点から航空機動旅団からの装甲機動旅団への管理替えは可能性として皆無ではありませんし、情報優位獲得の任務を航空機動旅団が隷下部隊を機甲部隊が必要な大規模武力攻撃に際し、軽量装備故の機動力を活かす緊要地形先制確保と前地戦闘任務を担い、航空部隊を活用する協同運用の在り方が見えてきます。

ただ、この航空機動旅団の実に戦闘ヘリコプターを配備するという方式は、あくまで、航空機動旅団の編成を既存の軽装備の旅団に方面隊隷下の方面航空隊を移管することで航空機動旅団とする、との原則を元にしていますので現在の対戦車ヘリコプター装備計画に準じて、AH-64D戦闘ヘリコプターが教育所要を含め約60機装備される、という前提で示しています。

これを言い換えるならば、AH-1S対戦車ヘリコプターの配備数、96機と同等のAH-64D戦闘ヘリコプターを調達できるならば、装甲機動旅団へも飛行班を配置し、上空からの戦車を掩護する機能が期待できるかもしれません。戦闘ヘリコプターは対空砲火への脆弱性が、特にイラク戦争以降の対空火器普及により顕著となっていることから、陸と空の協同が重要です、特に湾岸戦争では一方的な対戦車攻撃能力を示した戦闘ヘリコプターが十二年後に同じ場所で戦われたイラク戦争において単体で投入された際に大きな損害を被りまして、あくまで地上部隊との連携が不可欠であることを示しました。その上で今後の航空火力投射能力をどのように考えるかにより、60機とする原案を見直すか否か、左右されるでしょう。

こうしてみますと、航空機動旅団に全ての航空機を集約し飛行隊も不要に見えますが、指揮官連絡と情報伝送等の諸任務までもを航空機動旅団からの支援に依存する事は管理上現実的ではなく、装甲機動旅団にあっても自隊として必要最低限の飛行任務を果たすべく、現在の旅団飛行隊程度の規模の部隊をそのまま維持する、という選択肢が妥当であるとの結論に達しました。

すると、多用途ヘリコプターへ遠隔監視器材を搭載した機体を運用し、空からの監視の目、情報優位への装備は無人機と偵察隊や情報小隊との協同に頼る事となるのですが、併せて多用途ヘリコプターには砲弾の空輸等の後方支援を行う段列、基本的には輸送車両を用いるのですが、喫緊の状況に際しては、空中機動による迅速な空輸を行う選択肢も必要です。

少数であっても戦闘優位に必要な資材を緊急に搬送しなければならない状況があります、輸送任務と云いますとどうしても大量の物資や装甲車両までもを空輸する能力がある、しかしその分高価であり、一機の消耗、例えば整備での飛行不能も含めてですが、影響が大きな機種である輸送ヘリコプターを連想されるかもしれませんが、多用途ヘリコプターでも用途によっては個別機材は意外と他種に上るのです、機動運用に際し、部隊同士の情報連携による離隔距離の強化など現代戦はその展開と移動が素早く展開するため、陸上からの補給にはどうしても限界が生じます、ここに多用途ヘリコプターの用途があるわけで、今後は無人輸送車両などの管制装備を導入すれば段列と第一線の不通化等の危惧は徐々に払しょくされる事となりましょうが、現状ではまだ早い。

必要となる多用途ヘリコプターですが、一定水準の機体規模が必要であり、現在富士重工が開発を進める新多用途ヘリコプターUH-X,これはベル412を原型として改良する新型機となるようですが、このUH-Xで充分対応出来ます、無理により大型の航空機を導入する必要は無く、整備負担や取得費用の面から現行のUH-1と同程度の機体にて対応は出来るでしょう。

遠隔監視には光学監視装置を搭載したもの、現在報道用に既に40km程度先の状況を把握する機材が大量に運用されており、陸上自衛隊の映像伝送装置等を搭載した運用でも対応可能です。可能であれば、ハイドラ70ロケットに代表される70mmロケット弾程度の運用性能が付与されたならば、運用の柔軟性が高まる事は確かではあります、が、この点は予算との均衡によります。

第12ヘリコプター隊や第15ヘリコプター隊程度の空輸能力、輸送ヘリコプターと構成ぬな多用途ヘリコプターを運用する飛行隊、即ち旅団にヘリコプター隊を配置する事は、理想ではあるのですが、現実には予算面で不可能ですから、広域師団の編成を師団司令部群に装甲機動旅団と航空機動旅団、との編成案を提示しており、師団の旅団間による相互支援が必要、それにより代替せざるを得ないといえます。

北大路機関:はるな くらま
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4 コメント

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Unknown (PAN)
2015-11-30 08:32:24
はるな様

記事中ではAH-64Dの増勢を前提にされているようですが、まず現状でAH-64Dの生産は終了しており、増勢は事実上不可能なこと。また、AH-64Eガーディアンに置き換えるとすれば、さらに予算が跳ね上がることを踏まえるべきでしょう。

現状、陸自での戦闘ヘリのプライオリティは全体の予算バランスから低くならざるを得ない状況ですが(UH-Xのほうが優先度が高いですね)、その部分を無視して戦闘ヘリ部隊の増勢に着手するとしても、果たしてAH-64系に固執する必要があるのでしょうか。

例えばUH-Xはベル系の機体に決まったわけですから、そう考えれば同じベルの手によるAH-1Zを導入したほうが、整備や運用を考えても有利。また島嶼部での運用や、いずも型での運用を考えても、米海兵隊による海上運用のノウハウが施されたAH-1Zのほうが日本には向いていると考えます。

ロングボーレーダーによる偵察索敵能力についていうなら、むしろ部隊に随伴して運用できる中~小型のUAV導入のほうが、コストも含めメリットが大きい(もちろん、デメリットもありますが)。
例えばMQ-8あたりの規模のヘリタイプUAVを、トラック2~3台で運用できるようなシステムを導入し、はるな様が想定されている装甲機動旅団の目として2~3ユニットを随伴させるほうが、現実的ではないでしょうか?

これらの提案はあくまでも考えられるプランの一つで絶対ではありませんが、少なくとも、事実上入手困難な装備=AH-64D増勢には固執すべきではないと考えます。
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陸上防衛作戦部隊論(第十六回):広域師団直轄部隊案、情報優位に直結する師団無人偵察機隊 (はるな)
2015-11-30 22:14:54
PAN 様 こんばんは

AH-64D、としましたが富士重工が部品を取得しているとされるAH-64D,自衛隊仕様の機体はそもそもD型に空対空能力を付与した、D型とE型の過渡的な型ともいえるのですが、これを元にD型を生産できるのか、という視点は必要と考えます

AH-1Zですが、AH-64Dの富士重工ライセンス生産の際にベル社との摩擦が生じていまして、また富士重工と政府の関係上、新たにAH-1Zを自衛隊が導入するとして、ライセンス生産や有償軍事供与の場合でも整備支援を受ける事が可能か、という疑問が生じるわけでして、このため、AH-1ZでもAH-64EでもなくAH-64D,と記したわけです

MQ-8ですが、”陸上防衛作戦部隊論(第十六回):広域師団直轄部隊案、情報優位に直結する師団無人偵察機隊”としまして2015-07-04 日付記事に少し触れていますので、そちらも御読み頂ければ幸いです

AHの位置づけについてですが、航空打撃力は、航空機動旅団の特集で詳しく検証します、ただ、AHを除く陸空協同、という運用は、例えば航空自衛隊がF-2と同等の運用が出来る航空機やA-10攻撃機のような機体を導入するか、もしくは専守防衛を放棄し国土戦以外の攻勢型の改編を行わない限り、防衛には必要な装備と考えますので、航空機動旅団を各方面隊へ1個、合計5個旅団に現行の13機のAH-64Dを2~3機分散配備すれば充分、とは流石に考えられません
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Unknown (PAN)
2015-12-01 00:29:31
はるな様

ベル社と富士重工の確執については僕も考えましたが、今回のUH-X選定で再びタッグを組み、みごと受注していますので、もはや障害はないと考えました。

富士重工とベルの関係が復活したのなら、なおさらAH-64系の追加導入の線は無くなったと思ってもいいのではないでしょうか?
少なくとも富士重工はもうAH-64Dには手を出さないと思います(現行機の保守整備は行うでしょうけど)

もちろん現行のAH-64Dは、分散して配置するのではなく、まとめての配備とすべきでしょうね。
まあ、はるな様が想定された航空機動旅団はともかくとして、現実的には当面は西部方面航空隊配下にとどまり、新設される水陸機動団と連携、もしくは水陸機動団配下に移ることも考えられます。
島嶼防衛には欠かすことのできない装備ですから。
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Unknown (はるな)
2015-12-08 19:42:57
PAN 様 こんばんは

UH-Xについては意外でしたが、ベル社との関係は既に既存のベル412を富士重工が生産しており206系統の機体ならば1957年の協定以来の関係が生きているといえます、ただ、新型機のAH-1Zとなるとどうか、と

相互互換性ですが、UH-Xがベル412原型機ですので仮にAH-1Zを自衛隊が採用する場合、AH-1ZはAH-64Dと同系統のT-700エンジンを採用していますので互換性の問題は残ります、AH-1Wならばトルコ仕様型がベル412と同型のP&WCPT6系統搭載型が提示されていますので違うのでしょうが・・・

一方、AH-XですがAH-64Dの調達縮小初度費351億円の支払いを求めたAH-64D訴訟が現在最高裁に上告され係争中ですので、この351億円が係争中の現状で更に新たにAH-1Zの初度費を富士重工に要請する事は可能なのか、と考えます、防衛省が351億円を気持ちよく支払って和解し、その上で新たにAH-1Zの初度費を支払い、製造する、というならば、なんとか納得できますが

この問題ですが、AH-64Dのライセンス権の問題を防衛省が残る49機分を追加発注する事で丸く収まるのでは、という意図もあります
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