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対領空侵犯措置緊急発進!中国H-6爆撃機8機など11機が相次いで南西諸島を通過し太平洋へ

2015-11-28 22:54:04 | 防衛・安全保障
■H-6,目標は九州沖縄グアム!
 防衛省によれば昨日27日金曜日、中国大陸からのH-6爆撃機編隊が我が国防空識別圏へ侵入する事案があり、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進しました。

 中国からの防空識別圏への侵入は年間数百件発生しており、これ自体は今や日常となっているのですが、年々八政権すが増大し昨年度は冷戦期最盛期と並んでいます、こうしたなかにあって、今回の事案は、機種と編隊の規模、そして経路に非常に特色があり、注目すべき事例となりました。なお、領空侵犯事案には至っていません。

 H-6型爆撃機8機、TU-154型情報収集機1機、Y-8型情報収集機1機、Y-8型早期警戒機1機、合計11機で、H-6爆撃機8機という編隊の規模は特筆すべきものでした。その経路を見ますと、編隊は上海方面から沖縄県の沖縄本島と宮古諸島の中間海域へ向け飛行、尖閣諸島北方空域においてこのうちH-6爆撃機4機が北方へ変針、残る7機が太平洋をグアム方面へ飛行しました。航空自衛隊は緊急発進にて対応しています、当初経路は大陸側から沖縄本島南部、つまり那覇基地へほぼ直線で飛行する経路を採り、那覇基地からF-15戦闘機が緊急発進したようです。そして沖縄本島西方300km地点にて九州へ向かう編隊と太平洋へ向かう編隊へ分離、ここで恐らく新田原基地のF-4戦闘機が緊急発進したのでしょう。

 H-6爆撃機はソ連製Tu-16爆撃機を1957年に中国がライセンス生産した経験をもとに開発された航空機で、元々は核爆弾投射手段として運用されていましたが休止とはいえその能力は無視できず、現在ではCJ-10A巡航ミサイル、KD-63巡航ミサイルやYJ-85巡航ミサイルの発射母機、つまりミサイルキャリアーとして運用されています、H-6そのものの爆弾搭載量は最大9t、我が国のF-2支援戦闘機が最大8tですのでやや大きい程度ですが、装備するミサイルは最新です。

 特にCJ-10A巡航ミサイルは射程2500kmとされ、H-6爆撃機の戦闘行動半径が3000kmを越え非常に大きいことから、防空側が想定しない方角からの巡航ミサイル飽和攻撃等に寄与すると考えられています。この基本性能をもとに今回の経路を俯瞰しますと、沖縄本島と九州南部及びグアムへの爆撃進路と一致する事に気付かされます。これは弾道ミサイルでも達成可能な手段ですが、有事の際に弾道ミサイルを使用しますと目標によっては弾道が核弾頭と通常弾頭が同じ経路を飛行する事から、例えば在日米軍基地などを狙う場合、米本土からのミニットマン大陸間弾道弾による反撃を受けかねず、巡航ミサイルの運用にはこうした意味もあるのです。

 加えて、今回の編隊にはY-8早期警戒型が参加しており、爆撃機を護衛するSu-27戦闘機など戦闘行動半径の大きな護衛戦闘機を管制し、例えば有事の際の想定では、我が方の対領空侵犯措置任務緊急発進を迅速に排除し、爆撃機を巡航ミサイル発射地点へ展開させる上での航空作戦全般を指揮統制する運用も想定されているのでしょう。第一撃の混乱に常時、例えば台湾本土侵攻やフィリピン本土侵攻、沖縄諸島攻略等を強行し、我が方が日米協同で防衛体制を構築するまでに既成事実を構築する、日本のシーレーンを掌握し武力を背景に善隣条約を締結させ平和的に軍事占領と同等の成果を果たし、西太平洋全域の優勢に繋げる、日米にとっての悪夢です。

 ただ、我が国としても打つ手はうっています、第一に那覇基地の戦闘機部隊を今年度末の三月には九種から一個飛行隊引き抜き二倍の二個飛行隊に増勢し、自衛隊第83航空隊を第9航空団へ拡張、アメリカ空軍も嘉手納基地へ第18航空団が2個飛行隊のF-15戦闘機を展開させている為、日米90機のF-15戦闘機が沖縄本島に集中されます。第二に、那覇基地へ現在配備されている第603飛行隊のE-2C早期警戒機に加えレーダー索敵範囲の大きなE-2D早期警戒機の配備が行われます、早期警戒機はレーダーを搭載した空中からの監視の目で陸上のレーダーサイトと異なり超低空から敵が侵入した場合でも捕捉でき、沖縄本島上空に位置した場合でもE-2Dは中国大陸内陸部までを捜索範囲に含め、奇襲を許しません。

 更に来年度予算には、九州の戦闘機部隊増勢が盛り込まれていまして、具体的には首都圏防空に当たる茨城県百里基地からF-15戦闘機の飛行隊を南九州新田原基地の旧式化したF-4戦闘機の交代に配置します。もちろん、交代するのですから首都防空が手薄になる事を意味し、首都東京と首都圏2500万の国民を空の脅威から守るのは旧式化したF-4戦闘機50機となります、東京へは、今日も定期的にロシア機の東京急行、北海道沖から爆撃機の編隊が一気に三陸沖を東京に向かう経路を東京急行というのですが、この爆撃機の東京接近が冷戦後で21世紀の今日にも定期的に発生しており、不安は残るところではあります。

 航空自衛隊の戦闘機数は明らかに不足しているのではないか、一連の施策を見ますとどうしてもこの印象が拭えません、が、喫緊の課題である南西諸島防空については那覇基地への戦闘機増強と南九州への機種転換により、ある程度対応できているのですが、現在教育用として転用している飛行隊が航空自衛隊には二個飛行隊あり、考えさせられるところが無いでもありません。

 もちろん、H-6爆撃機8機の編隊飛行は平時の訓練に過ぎないものであり、F-15転用とE-2D導入により対応できる目途はたってゆくのでしょうが、忘れてはならないことがあります、それは、冷戦時代、日本がソ連機による対領空侵犯措置任務へ忙殺されていた時代の極東地域における国際関係は、中ソ対立という基盤があり、日本への軍事圧力が北方からかけられる状況下において南方からの圧力を考慮する必要性は必ずしも大きくありませんでした。しかし現代は冷戦期の中ソ対立が払拭され、冷戦期には1950年代以降停滞していたロシア製最新装備の中国供与が可能となるほどに関係が再構築されているため、現在の我が国防衛計画の大綱画定においての戦闘機定数産出への脅威見積に差異が生じている事を認識すべきでしょう。

 唯一の楽観視点は、航空自衛隊にはかなりの数の早期警戒機と警戒監視網が構築されているほか、地対空ミサイルの防空密度も比較的高い点で、戦闘機定数も今日的に視て欧米諸国、米国を含めると話が違ってきますが欧州諸国と比較すれば質と量ともに少なくはありません、ただ、脅威見積に変化が生じているのですから、稼動率向上への搭乗員と運用基盤拡充の取り組みや、場合によっては例えば比較的早い時期に導入できる機体、一例としてF-16戦闘機2個から3個飛行隊程度の増強なども検討しなければならない時期が来るのではないか、爆撃機の飛行が今後恒常化すれば、考える必要が出てくるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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