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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦場報道とシリア内戦取材,大手報道機関に求められる使命の自覚と安全取材費用増大の覚悟

2018-11-05 20:01:11 | 国際・政治
■現状フリージャーナリスト頼り
 今回が本論一応の完結編です。戦場報道の重要性は高くとも安全管理を経験の自己過大評価で置き換えて危険な第一線に飛び込む方法は下の下という時代です。

 戦場報道の重要性は高い、だからこそ戦場ジャーナリストという職業と報道方法を否定する事は絶対にしない訳です。しかし、だからこそ慎重な姿勢が求められる。そしてイラクシリアにおいては事実を知られたくない状況がありジャーナリストは敵視される、この中に在って、経験があるからと単身現地へ飛び込む方法以外の施策、模索されるべきです。

 日本の報道機関で忘れられないのはISILが成立当時に評価していた事例があった点です。評価していた、とは言い過ぎかもしれませんが、国家を目指しているという旨の報道、日曜日の報道バラエティ番組の中ではありましたが。なんでも自らの価値観と教育機関に地方自治機構と徴税システムを有していた点を、これは一つの国である、と評価していたものでした。何しろ実態が不明であった為、プロパガンダ報道を真に受けていた、という実態があるのでしょう。勢力過大評価にも繋がった。

 戦場取材は、何しろ平和憲法の国ですので重要です。しかし、戦場取材は費用が膨大である、だから東京から記者を送りには限界があると共に危険性が大きすぎる、戦場保険に加入していないフリージャーナリストの戦場報道は買わない、こうした施策を示す事は所謂“特落ち”リスクもあるのですが、ジャーナリスト被害を回避する必要な施策と考えます。

 社会部偏重の日本報道体系に問題があるのではないか、とも。ニューヨークタイムズはイラクでのISIL武装勢力攻勢が激しかった当時、バクダッドでの取材コストを一日一万ドル、と見積もりを出した話は幾度も示しましたが、この経費、特派員一人で年間365万ドル、取材費年間四億円というのは、ちょっとした全国紙地方局に匹敵する取材費用でしょう。国際報道を展開するには、外電を鵜呑みにするか、覚悟を決め取材費用を考える必要があるでしょう。

 取材費用を考えますと国際報道は高くつく、例えば分りやすい事例、今年の北朝鮮地下核実験施設爆破取材は北朝鮮がメディア一人当たり3万ドルの移動経費と取材経費を要求しました。警察詰の事件記者は基本的にそこまで費用を要しません、すると、国際部だけが一つの紛争地にニューヨークタイムズ並の年間365万ドルの経費をそれぞれ出す、という事は現状難しいという事も理解できるのですが、それこそ第二次大戦中の破甲地雷一つで戦車に向う挺身攻撃ではないのですから、危険に見合った報道体制を組む必要があるのではないか。

 猛省を促す、といいますか、ISILの徴税システムとは何しろ外国人戦闘員が行う荒っぽいものですので、ATMで現金を引き出す住民からその場で一割を差し引き、ATMへ現金補充が無くなると今度は直接爆薬で金庫を狙う、という、日本赤軍のM作戦をもう少し酷くしたような方式でしたが、実態を知らずにISILは国家、と日本の一部報道機関は伝えた。

 現場を知らなければ、という視点は今回拘束された安田さんの言葉にもありましたが、ISILに限ればその教育機関も酷いもので、自爆攻撃を行うための宗教的価値観植えつけを行う洗脳機関、オウム真理教の独自教育施設を過激化させたようなものであったのですね。当たり前ですが教員資格のない戦闘員が教えられる教育とは不良の舎弟植付、それが限界だ。

 国際報道とは、日本全体の取材費用よりも遥かに高くつくものですが、この取材費用というものを理解していない、私が日本から出ないように日本の記者は海外に出ない傾向があるようにも、社会部と国際部の人員構成をみるとよく分かるでしょう。現場を知らず公式発表を信じるからこそ、その発表媒体の母体への価値観が定まらない際には、こうした洗脳操作を教育、銀行強盗を徴税、と言い換える構図を、検証出来ない状況に相まって鵜呑みに報道せざるを得ない状況が醸成されてゆくのかもしれません。そして、この危険性が示すのは、外国人戦闘員に応募する若者を増やしてしまう、ということ。

 AFP通信が行っている現地記者方式、安全な紛争地取材という方法論を考えた場合、日本の報道でも参考とする点が多いのではないかと考えます。AFP通信の方法は、AFPがシリア領内に元々支局を有していましたので、時事通信や共同通信の現地支局を元に、知人友人と枠を増やしてゆく方式での現地記者、という方法、この他に安全な第三国へ離脱できた難民に取材する事を通じて、という選択肢も。

 シリア難民の方々は欧州やアメリカにも多数居まして、勿論この人たちにカメラを持たせて母国へ帰れ、というわけではなく、母国に残る知人友人から、直接契約ではなく間接契約の形で情報をもらう現地記者、という制度を構築する方法です。勿論、繰り返す通り事実を敵視する地域からの報道は写真などを通じ撮影者本人を特定されない配慮が必要です。

 報道機関の配慮、という視点では、大量に送られてくる写真から報道機関として公平公正を維持できるように撮影がプロパガンダ的なものではないのかの真贋判定、一人の取材者への過度な依存ではなく多くの写真と情報を得られるように情報網を構築する基盤構築、必要となります。勿論費用が嵩みますし時間もかかり、基盤構築には年単位の時間が要る。逆に言うならば、ロクな検証も無しに個人用BLOGやSNSに“どこそこの報道部のものですが写真を使わせてください”との無関係な写真選定を行う事例がありまして、報道ではなく単なる視聴率稼ぎのチャーナリズム、塑像乱造記事の温床になっている印象が。

 スクープ投稿、日本国内で広がるお手軽大衆報道と云いますか、これとは対極のものですね。兎に角現地へ電話を掛けて投稿写真を漁り安価に取材支局の代わりを行う、こんな方法では真贋判定は出来ませんし、現地記者の価値観や作風というものを理解できなければ、喩えで無記名の記名記事を作成するという様な手法でなければ現地報道は成り立ちません。

 最後の手段として現地に入る必要はある可能性について、現地報道を現地記者に依存する場合、真贋判定と云いますか、一度は面通しを行って、取材というよりも記者の面接に近い現地入り、という事でしょうか、必要となるかもしれません。現地記者も本社採用と同じ報酬を支払うならば、この種の面接は絶対に必要となり、これを省けば素人投稿集です、現状は安田氏の行動の無謀云々を討議する現状となっていますが、その前により資金力のある大手報道機関が役割を果たしていない現状の問題が大きい。

 フリージャーナリストに依存する戦争報道、買い叩いた安価な報道で平和の問題や憲法問題を語る現状の我が国報道機関、しかし取材の方法はありますし、記者を現地に赴かせるならば戦場保険人質特約は、こうした状況下でも戦場ジャーナリズムを行う上で身代金交渉を含め、生きて帰ってくる、という目的に特化した保険です。しかし繰り返しますが、フリージャーナリストには資金面で厳しい、掛け捨てであり、掛け金は極めて高額、一か月間で一千万円程度の費用は想定しなければなりません。一日当たりで数十万円の掛け金を必要とする。だから入れないという理由はどうか。

 戦場取材を行うのであれば、大手報道機関が責任を以て資金を負担し自社が選定した記者を派遣するというような、戦場保険人質特約の掛け金に対応するようなスポンサーを確保していくべきである、先にニューヨークタイムズがバクダッドでの取材費用が一日一万ドル、という数字を紹介しましたが、要するにこれだけの経費が認められないのであれば戦場取材を行うべきではない、との視点に帰結する。戦場は誰でも行けるところではない。

 メディアスクラムといいますか、特ダネ合戦、といいますか、戦場取材は安全に行うならば非常に費用を要するために、2001年アフガニスタン空爆や2003年イラク戦争では現地からの電話中継が一秒十万円以上の価値を有していたという背景があります。自社の記者を送るよりもその数十分の一で安価に切り取ったフリー記事を買っておけば体裁だけは整う。すると、高く売れる為に戦場保険の無保険状態で現地入りするフリー記者が、実際いたと伝わります。

 ただ、イラク戦争の大規模作戦時とアフガニスタン空爆の時点では、まだ、有志連合従軍取材というものが成り立っていました、少なくとも有志連合は便宜供与を行っていましたので、戦場報道は、この報道を元に考える方が多いのでしょうか。もっとも、人間の盾としての独自取材などでは結果的に戦況に併せて徐々に状況が悪化する事となっていますが。

 現地記者、AFP通信がシリア取材で行っているような手法も検討するべきでしょう、勿論日本の報道機関は海外に向けて情報配信を行うよりも国内向けの需要の方が大きいので日本人の価値観を記事に盛り込みたいとの思慮もあるのかもしれませんが、それでも危険性を考えれば、日本人だけの記事で全ての紛争取材を行う必然性は無い。どうしても日本人の視点が、と必要ならば上記の通り、戦場保険人質特約等の経費に見合う高い手腕の記者を自社で養成して、現地記者の記事と報道体系を構築すればよい。時代に応じた方式があって然るべきです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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