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陸上防衛作戦部隊論(第四七回):装甲機動旅団編制案の概要 後方支援部隊の衛生部隊

2016-03-09 21:44:13 | 防衛・安全保障
■装甲機動旅団衛生部隊
 装甲機動旅団編制案の概要、今回は後方支援部隊の衛生部隊について。戦闘を展開すれば確実に人的損害が出ますが、この状況下で適切な救命措置を採れる体制の有無は全体の指揮に計り知れない影響を及ぼします。

 後方支援部隊は装甲機動旅団において、現在は第一線部隊の軽装甲機動車等を必要に応じ転用するようですが、専用車両として配備される車両には一定程度の装甲化を必要とします。これは攻撃衝力持続性を重視する装甲機動旅団において、想定する脅威対象も併せて装甲機動力を有する敵機動打撃部隊であり、段列地域への攪乱射撃や補給線連絡線への特殊部隊や軽歩兵遊撃部隊による強襲を当然想定する必要があるためで、今回はその一例として衛生部隊についての視点を挙げて考えました。

 装甲救急車の不備が永らく陸上自衛隊の問題として挙げられ、現在では負傷者後送を第一線部隊の装甲車両を転用し対応する施策を代案としていますが、現状では延命措置すら第一線要員自身による応急処置を越えるものではないものです。これは第一線部隊の装甲車充足率が予備車両を含めて高度に充足されている場合は予備車両の転用を以て対応出来る分野ではあるのですが、残念ながら装甲化普通科部隊は例会的なほどに限られており、我が国は歩兵浸透能力を国土の峻険な隘路及び山間部と都市部に応用する必要上、装甲車配備数の度合いは少ない現状があります。

 ここで数的余裕と取得性の高い軽装甲機動車を旅団衛生隊において活用する施策を示します。第一に、衛生隊の救急車小隊を、前方治療部隊と後方搬送部隊に段列地域衛生部隊とに区分し、この中で前方治療部隊は、最少作戦単位を前方外科組として軽装甲機動車一両を基本とし、車両操縦手と衛生組長に衛生員から構成します。2組もしくは3組をもって1個班を構成、野外での衛生治療は専ら後方搬送への延命と戦力回復を主とし、併せて軽装甲機動車へ車載可能な輸液とレントゲン装備や検査機器を用い、第一線救護を行う。

 一方、96式装輪装甲車に必要な緊急野外外科手術器材と外科手術を行う医官が乗車した前方手術車両を、第一線へ配属し、前方治療部隊が後方搬送部隊へ負傷者搬送移管するまでの短時間での極めて重篤な負傷者延命措置を行う必要性を挙げておきます。具体的には前方治療小隊のうち、小隊本部と直轄班を緊急野外外科手術装甲車両とし、本部機能と緊急野外外科手術を担当、小隊隷下に2個前方治療班乃至3個前方治療班を置く、という編成が理想的でな野外衛生部隊配置です。

 後方搬送部隊は、前方治療部隊が専ら延命に主眼を置いた、しかし第一線要員よりは専門的な応急処置を担当し、段列地域への搬送を担当します、後方搬送部隊の軽装甲機動車は当然ながら乗車戦闘を想定しません、これはジュネーヴ条約に基づく衛生要員が戦闘行動への積極参加を禁じられる為なのですが、同時に軽装甲機動車のルーフ部分へ装甲担架防護区画を追加出来る事を意味します。軽装甲機動車は、後部から助手席部分へ担架設置区画を配置すれば最大で上下2床、独歩負傷者ならば3名から最大4名程度収容可能で、救急車としては軽装甲機動車は既存救急車よりも小型ではありますが、実用性は十分な範疇ともいえる。

 軽装甲機動車を専用の搬送車両として運用する場合、この部分に専用の改造を施すことが可能となります、即ちルーフ部分に並列収容するならば更に2床の担架を設置可能です、もちろん、軽装甲機動車は装輪車両であり、重心を高める事は横転の危険性を意味しますので、車両転倒時等にルーフ部分の搬送者防護に関する設計措置が必要ですが、比較的小型の軽装甲機動車であっても高い搬送能力を付与出来る事が分かるでしょう。

 段列地域での衛生部隊への主たる任務は野外外科手術で、これは野外手術システムを用いた本格的な治療任務が挙げられます。この点について、野外手術システムは実運用、東日本大震災において一定の能力を発揮しており、回復地域の機密テント充実や負傷者状況等への広域多用途無線機による情報共有化や電子カルテ等の装備化をおこなうなど、搭載医療機器の旧式化を更新するという前提において、現在の編成を維持し運用する事が望ましいといえ、病院設備を旅団策源地へ展開する方式は、陸上自衛隊のこれまでの指針として維持するべきと考えます。

北大路機関:はるな くらま
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