北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】ドイツのJFS-M共同火力支援ミサイルとブラジルアストロスⅡMk6輸出,韓国K-239天武ロケット

2022-08-30 20:01:08 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛最新論点
 今回はロケットシステムの最新話題を中心にお伝えしますが、冷戦時代におそれられたMLRSが新しい装備を備えて新たな悪夢へ敵に引きづり込むようです。

 ドイツ連邦軍ははMLRSに499kmの精密誘導弾を搭載するJFS-M共同火力支援ミサイル計画を発表しました。これは7月のベルリン航空ショーにおいて発表されたもので、これまでにMLRS用に開発されているロケット弾をGPS誘導するという精密誘導弾薬よりも、射程が改善されると共に多数を搭載可能で、加えて秘匿性が高いものとなっています。

 MLRSにミサイルを搭載する、この計画にはMBDAドイツ社とクラウスマッファイヴェクマン社及びESGエレクトロシステムズ社が担当しています。射程499kmの装備はMLRSから投射できる装備としてアメリカ陸軍がATACMS陸軍戦術ミサイルを射程延伸させ開発している陸軍プレジションミサイルがありますが、これはMLRSに2発しか積めません。

 JFS-M共同火力支援ミサイルはMLRSの場合は12発、HIMARS高機動ロケットシステムで6発を搭載可能、また発射後は上昇する事無く低空を巡航ミサイルのように飛翔する為にレーダー等で感知されるリスクを抑えています。この新型弾薬は既に開発されたMBDA社製RC100無人機の技術が応用されており、開発リスクの低さも特色といえるでしょう。
■JFS-M火力支援ミサイル
 ドイツの防衛計画はロシア軍のウクライナ侵攻を受け一挙に冷戦時代に戻ったような緊張感です。

 ドイツが発表したMLRSのJFS-M共同火力支援ミサイル計画についてですが、ミサイルは未だ概念段階のものとなています、ただ、開発にはMBDA社製RC100無人機の技術が応用され、これは全長1.8m、重量は120kgとなっているもの。ロケット弾は発射後上昇する為に即座に対砲レーダ装置に射撃位置が暴露しますがJFS-Mにその心配はありません。

 MLRSには12発が搭載可能で、特色の一つとして発射されたミサイル同士が連携し、特に空中衝突を避ける衝突防止機能を採用、飽和攻撃を可能としています。これは従来のATACMSには無い特色であり、データリンクにより発射後の目標変更が可能とされている。発射されるとその後に主翼を展開し低空を飛行、ロケット弾ではなく完全にミサイルです。

 冷戦時代に開発されたMLRSはM-26やM-30といったクラスター弾により面制圧を行い、戦車に対しても一定以上有効という撃たれる側には悪夢の装備でしたが、クラスター弾使用への国際的批判を受けGPS誘導型など新しい運用が模索されていました、しかしJFS-Mは長距離精密誘導弾の飽和攻撃という新しい悪夢を侵略者に突き付ける事となりましょう。
■アストロスⅡMk6
 ロケット弾はやはり射程なのだと再確認させられました。

 エジプト軍はブラジル製アストロスⅡMk6多連装ロケットシステムの導入交渉を進めています。アストロスⅡMk6多連装ロケットシステムはトラック搭載型のロケット砲ですが、1990年代に開発され、当時世界的に評価が高かったアメリカ製MLRSを意識し、無誘導型でも射程60kmと、MLRSのM-30/M-31開発前では世界最長の射程を謳っていました。

 アストロスⅡMk6多連装ロケットシステムとともにエジプト軍ではMk6から射撃可能となるAV-TM300マタドール地対地ミサイルを合せて導入を希望しており、これは射程が300kmに達します。なおエジプト軍仕様の車体にはメルセデスベンツ2028トラックが用いられています。エジプトではこれらのライセンス生産を希望しているとされています。

 アストロスはブラジルで1983年に開発されたもので、弾薬モジュール方式を採用、127mmで32連装型で射程30kmのSS-30、180mm口径で16連装型で射程45kmのSS-40,また300mm口径のものには4連装ですが射程60kmで弾頭威力を高めたSS-60と射程を重視した90km射程のSS-80などが開発、改良型から対地ミサイル発射が可能となりました。
■K-239天武ロケット砲
 HIMARSよりも高性能と主張する当たりはこの種の装備の基準点がHIMARSなのだと認識させられる。

 韓国国防省はK-239天武多連装ロケット砲の射程延伸を計画中です。K-239天武多連装ロケット砲は韓国版HIMARSを目指して2015年に開発されたもので、量産により取得費用はHIMARSの六割程度に抑えられ、また、射撃統制装置を新型としておりHIMARSよりも陣地進入から射撃までを10秒以上短縮、アラブ首長国連邦へ輸出実績もあります。

 K-239天武多連装ロケット砲は現在、その射程は85kmとなっていますが、韓国軍では北朝鮮の射程の大きな超大型ロケット弾射程延伸を深刻な脅威とみなし、ロケット弾に燃焼時間を延長させ射程を200kmまで延伸する事が可能かを検討中です。その手法としてロケット弾に吸気口を追加、ダクトロケット推進装置に切替える方法が検討されています。

 K-239天武多連装ロケット砲の利点は様々な弾薬を運用可能である点で、130mmロケット弾や230mmロケット弾と239mm型誘導ロケット弾が開発されています。韓国版HIMARSと呼ばれるK-239ですが、HIMARSはロケット弾6発コンテナを一基搭載するのに対して、K-239は6発コンテナ2基の12発を投射可能で、一両当たりの投射能力も高い装備です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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IAEA国際原子力機関査察団ザポリージャ原発へ,ロシア軍の原発搬入重装備は"BM-21多連装ロケット砲"か?

2022-08-30 07:00:04 | 防災・災害派遣
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ロシア軍がウクライナの原子力施設を盾として重装備を搬入、周辺地域を攻撃しているという状況ですが持ち込まれた装備について報道から推測してみました。

 IAEA国際原子力機関の原発査察団がグロッシ事務局長を団長として出発しました、目的は原発の現状を把握し原発所員等に不当な圧力がかけられていないかを確認する為です。ザポリージャ原発、戦闘地域の占領下という原発施設へのIAEA査察、特にIAEAに無局長自らの査察は異例中の異例で過去に例は無い、しかし事故の懸念を受けての緊急措置です。

 ロシア軍が占領しているザポリージャ原発では、ロシア軍重装備が配備され周辺をウクライナ軍が反撃できない原子力施設からの攻撃拠点として利用していと考えられています。BBCによればこの根拠として、ドニエプル河畔にあるザポリージャ原発、対岸はウクライナ軍が維持しているのですが此処への攻撃を挙げた。しかし、配備されている重火器とは。

 ドニプロペトロウシク州ニコポリ、ウクライナが維持するウクライナ本土のドニエプル川西岸地域はロシア軍の継続的なロケット弾攻撃に曝されていて、これもBBC報道によるものですが一晩で120発のロケット弾が撃ち込まれるという、このロケット弾はザポリージャ原発のある南東部エネルホダルから飛来しているのが、ロシア軍陣地化の根拠という。

 タービン建屋内に複数のロシア軍車両、原発タービン建屋内の映像としてSNSに18日頃から投稿された画像には、CNNがザポリージャ原発タービン建屋内であるとのファクトチェックを行った映像としてロシア軍の輸送車両と判別不能の車両などが少なくとも5両と天幕の様なものが確認されています。ロシア軍陣地化の可能性をどうみるべきでしょうか。

 BM-21多連装ロケット、考えられるのはニコポリへのロケット弾攻撃の規模で、“多い時で一晩120発”というものです。この120発、ロシア軍がソ連時代の1960年代から標準的なロケット砲として使用しているBM-21,これはトラックに発射筒を搭載したものですが、122mmロケット弾を40連装している、仮にBM-21が一両あれば一晩で120発は可能だ。

 衛星写真では確認が難しいザポリージャ原発のロシア軍基地化についてですが、要塞化のような無限の電力を悪用した砲兵旅団という大それたものではなく、またそれほど深い事を計画する程度でも無く、実際にはロケット砲兵中隊規模の部隊が駐屯し、しかし反撃を受けない原子力施設のいわば核の盾の中で攻撃している、こうした状況が考えられるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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