北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】早期警戒機特集,アメリカE-3後継E-7A導入の論争とE-6Bマーキュリー通信指揮機blockⅡ

2022-08-23 20:01:17 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛最新論点
 今回は早期警戒機の話題を集めてみましたが航空自衛隊はE-2Cの後継機と増強に同程度のE-2Dを導入した一方でアメリカは当時自衛隊が断念したE-7をE-3の後継に決定しています。

 アメリカ議会上院公聴会ではE-3早期警戒管制機のE-7A早期警戒機への転換計画への問題点が議論されています、これは5月17日に開かれた議会上院公聴会において上院航空武装小委員会でトップ上院議員が示したもので、空軍はE-3早期警戒管制機半数を退役させE-7A早期警戒機に切り替える方針だが、重要な任務遂行能力低下に繋がると警告しました。

 E-3早期警戒管制機は31機が運用中ですが、空軍は2023会計年度に15機の退役を計画しています、ただ、後継機となるE-7A早期警戒機は初号機納入が早くとも2027年となる見通しで、更に空中警戒管制要員を訓練し初度作戦能力を獲得するまでには、2027年の配備開始からさらに数年かかる事を問題視しています。ただ、他の選択肢も限られるとのこと。

 空軍の装備計画副部長であるデビットナホム中将は、上院での問題について、今回退役する15機のE-3は1970年代に納入され、老朽化は深刻、機体維持費をE-7導入計画に再投資する事で結果的に任務遂行能力維持に繋がるとしています。見方を変えれば、2007年にE-3後継機のE-10計画を中止させたしわ寄せが、2022年に顕在化したともいえましょう。
■いずも型護衛艦とAWACS
 海上自衛隊の護衛艦でのF-35B戦闘機運用に関する話題です。

 護衛艦かがF-35B戦闘機発着対応改修が2022年3月より開始され艦首部分の形状を大幅に改修する本格的な工事となります、防衛省は護衛艦艦上からのF-35B戦闘機運用に際し、F-35B戦闘機支援へ陸上基地からのE-767早期警戒管制機を支援に飛行させる方針です。この方針は日刊工業新聞が既に2018年12月25日に、関係者の話として報道している。

 防衛省ではこのほかの選択肢も検討するとの事でしたが、具体的な施策は2022年に至るも提示されていません、防空作戦には早期警戒機が必須であるものの、海上自衛隊最大の護衛艦でも搭載できる固定翼早期警戒機はありません。ただ、航続距離の大きなE-767早期警戒管制機は4機しか保有せず、この数的問題がF-35B運用を左右するかもしれません。
■グローバルアイ
 航続距離の大きなビジネスジェットの早期警戒機への改修は静かに運用国を増やしています。

 スウェーデン国防省は7月1日、サーブ社へグローバルアイ早期警戒機2機を発注しました。これはスウェーデン国防装備庁FMVとの正式な契約です。グローバルアイ早期警戒機はビジネスジェットと空中警戒レーダ装置を一体化させた早期警戒機で早期警戒管制機程の機体規模はありませんが、空母艦載機であるE-2Cよりも機内容積に余裕があります。

 エリアイエクステンデットレンジレーダーを搭載、このレーダーは高度30000フィートで飛行した場合は450km半径の、最大運用高度である35000フィートで運用した場合は550kmの範囲を警戒監視可能で、従来のエリアイレーダーと比較した場合で70%探知能力が強化されているとのこと。システムの構成要素重量は全体で1tにまとめられています。

 ボンバルディア社製グローバル6000にシステムは搭載されており、航続距離の大きなビジネスジェットである為、実に11時間の連続警戒監視飛行が可能となっています。グローバルアイ早期警戒機2機の契約は73億スウェーデンクローネ、邦貨換算では962億8700万円、一機当で481億円です。2機は2027年までにスウェーデン軍へ引き渡されるとのこと。
■E-6BマーキュリーblockⅡ
 こちらは早期警戒機というよりは通信中継機の話題ですが。

 アメリカ海軍はE-6Bマーキュリー通信指揮機のblockⅡ改修を開始しました。これはルイジアナ州にあるノースロップグラマン社のレイクチャールズ工場へ改修に向けた最初の機体が到着したもので、2022年2月に成約となったIMMC統合修正保守契約に基づく改修となっています。E-6Bマーキュリー通信指揮機は海軍には現在16機配備されています。

 blockⅡ改修は通信能力の改善と通信中継に関する所要時間の短縮、そして通信衛星が使えない状況においても戦略ミサイル原潜以外の部隊に対しても通信中継が可能となり、空軍のミニットマン大陸間弾道ミサイル部隊との通信も補完するとのこと。なお、機体は1989年から製造されていますが、その原型機は旧式化が進むボーイング707型機のままです。

 E-6Bマーキュリー通信指揮機は戦略ミサイル原潜とアメリカ本土の通信を担う航空機で、超長波VLF通信により電波がほぼ届かない海中を航行する戦略ミサイル原潜と通信します、超長波VLFは長大なアンテナが必要で地上に設置した場合は第一撃で破壊される懸念があり、航空機に搭載、E-6Bには7925mと1220mの二種類アンテナが搭載されています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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74式戦車の近代化改修について,遅すぎた74式戦車G型と生産基盤維持を優先した防衛行政と改修停止への疑問

2022-08-23 07:01:41 | 日記
■榛名防衛備忘録
 日曜特集にて第7師団を紹介しました際に興味深うコメント投稿を頂きましてお返事を作成していましたが、長くなりましたので朝の話題として記事に仕上げてみました。

 74式戦車の近代化改修について。74式戦車は4両のみ暗視装置を熱線暗視装置に切替えた改良型が開発された。このところ真剣に考えるのは1993年に完成した改良型試作ですが、評価試験が完了したのは1995年、この時点で戦車1200両体制から900両体制へ転換が決定していた為に、90式戦車の製造を削って74式戦車の改修を行うという選択肢の場合は、“90式戦車の製造が年産20両を下回る状況”で両立しえなかったのでは、と。

 陸上自衛隊は戦車国産基盤を維持する事を留意したからこそ、90式戦車の量産と両立しえないとして、74式戦車改修予算を断念せざるを得なかった、防衛費削減を覆すだけの政治力を背景に持てなかったのでは、と考えてしまいます。実際、74式戦車では三菱重工は“製造ライン”で生産していた、月産5両という規模でしたが、これが90式では難しくなった。これ以上削っては製造基盤が成立たなくなる、改造か新造を選ばねばならない状況を突き付けられたのではないか。

 生産ライン、90式戦車は月産1両2両という状況ではラインを構成できず、工場の中央部に戦車を配置し適宜部品を一両の戦車に組み上げてゆくという、非効率な生産となっている状況なのですから、これ以上削れなかったのではないか、削るならば製造費の高騰に直面するのではないか、という印象を受けるのですね。それならば製造を加速した方が、と。当時の防衛庁と大蔵省のパワーゲームを理解するとこう帰結してしまいます。

 74式戦車が、例えばイスラエルのM-48戦車に対して実施したマガフ改修のような徹底的なものであれば、90式戦車を量産せずとも74式戦車で第三世代戦車水準まで引き上げ得る、こう選択肢は生まれたかもしれません、ただ所謂G型改修では到底及ばず、砲塔の換装や懸架装置更新などが必要となり、90式戦車の量産を優先したという点は理解できるのです。

 74式戦車G型改修は遅すぎたのではないか、わたしが近年考えさせられるのは、1995年に完了した改修で、そもそも生産開始から十年を経た1984年の時点でM-1戦車やレオパルド2戦車が数を揃えるようになっていましたから、そもそもレオパルド2の全体試作は1979年に完了しているのですが、1995年の改修そのものが遅すぎたのではないか、とも。

 84式戦車、こう表現しますと映画“八岐大蛇の逆襲”(DAICONFILM/1984)に出てくる戦車の名前になってしまいますが、制式化から十年を経た1984年の段階で暗視装置や増加装甲を追加した改良型を開発する必要はあったと思う。勿論これはTK-X,90式戦車開発費を食い込む懸念はありますが、第三世代と第二世代の違いを説明してでも行うべきだった。

 赤外線アクティヴ暗視装置についてですが、74式戦車の性能を大きく制約している最大の難点です。しかし、74式戦車改修そのものを見ますと、HEP弾からの切替、初速が遅く現場で“ひょろひょろ玉”とか“海に捨てて発破漁に”と現場で評判の悪かった粘着榴弾HEP弾がAPFDS弾とHEAT-MP弾対応に改修するなど、遣る事はやっている印象があります。

 暗視装置、ただやれる事を全部やったのかと問われれば疑問にも思う、特に、考えてみれば61式戦車などは運用終了前には赤外線アクティヴ照準器を追加していました、61式戦車は開発当時に夜間戦闘能力はありませんでしたが、一応最後の段階で一部だけとはいえ第二世代戦車相当に能力向上していましたので、61式戦車に出来た暗視装置の換装、61の場合は追加ですが、これを何故74式に出来なかったか、と。

 RWS遠隔操作銃搭を追加搭載し、FC系とRWSの暗視装置を連接させる応急改修と、AAV-7に採用されているEAAK追加装甲の装着や一部車両に偵察警戒車の様に85式地上レーダ装置搭載など、やってみるべきだったとも思っています。なにしろ戦車です、防衛出動の際には相手が99G式戦車が相手でもT-90戦車が相手でも向かわねばならないのですから、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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