北大路機関

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【防衛情報】45型防空駆逐艦弾道ミサイル防衛艦改修と沿海域戦闘艦SuW強化武装モジュール,ブラウンシュヴァイク級コルベットRBS-15

2022-08-29 20:00:09 | インポート
■週報:世界の防衛最新論点
 今週は空母から強襲揚陸艦にフリゲイトからコルベットに潜水艦と哨戒艦や沿海域戦闘艦まで海軍関係の話題を。

 イギリス国防省は海軍の45型防空駆逐艦を弾道ミサイル防衛艦へ改修する計画を発表しました、現在ヨーロッパには弾道ミサイル防衛に対応する水上戦闘艦は存在しません、スペイン海軍のアルバロデバサン級とノルウェー海軍のフリチョフナンセン級というイージス艦は存在しますが、イージスミサイル防衛システムへの対応改修は行われていません。

 弾道ミサイル防衛能力付与はイギリス国防省のMAWS海上対空兵器システム開発室とMBDA社が共同し実施されるもので、ミサイル迎撃にはアスター30block1NTミサイルが用いられます、アスター30block1は地上発射型の防空システムとしてイタリアとフランスに採用されていますが、このシステムを水上戦闘艦へ搭載する計画で、欧州初となります。

 45型防空駆逐艦はデアリング級とも呼ばれる艦隊防空艦で6隻が建造されました、満載排水量は7350t、A50-VLSにアスター30かアスター15ミサイルを48発搭載可能です。今回付与されるミサイル防衛能力は、近年新しい脅威として認識されている対艦弾道弾を視野に入れたもので、海軍のクイーンエリザベス級航空母艦を防衛する上で重要な改修です。
■SuW強化武装モジュール
 ヘルファイアミサイルをVLSから発射するようです。

 アメリカ海軍は沿海域戦闘艦として初めてのAGM-114Lミサイルによる対地攻撃試験を実施しました、これは沿海域戦闘艦モンゴメリーにより5月12日に実施されたもので、3発のAGM-114Lロングボウヘルファイアミサイルを発射、陸上目標を正確に破壊したとのこと。この試験は沿海域戦闘艦による対地攻撃という新しい任務を視野に実施されました。

 AGM-114LロングボウヘルファイアはSuW強化武装モジュールに24発が搭載、今回の私見ではMQ-8Cファイアスカウト無人ヘリコプターが索敵等を支援しています。軽武装が問題視されている沿海域戦闘艦ですが、海軍によれば2023年度予算からは対潜任務モジュールの追加が構想されており、沿海域戦闘艦は重武装へ大きく転換期を迎えようとしている。
■改サンジュースト級
 全通飛行甲板型艦艇というのは一昔は中堅海軍国でもなかなか手が出せなかったものですが。

 カタール海軍が導入する強襲揚陸艦改サンジュースト級の起工式がパレルモで挙行されました、カタール海軍では本型をドック型揚陸艦として導入します。サンジュースト級はイタリア海軍が導入したサンジョルジオ級強襲揚陸艦の3番艦で上部構造物が改良、満載排水量は8000tとコンパクトですが全通飛行甲板構造を採用、航空機運用能力を重視する。

 イタリアのフィンカンティエリ社は戦力投射能力強化を望む中小国へ本型を提示しており、2014年にはアルジェリアも採用しています。改サンジュースト級は全長143mで艦内にはウェルドックを有していて揚陸艇1隻を収容しダビット部分には上陸用舟艇3隻を搭載、飛行甲板はNH-90多用途ヘリコプターの発着が可能、揚陸部隊550名を輸送可能です。

 全通飛行甲板型の揚陸艦は2000年代までは空母型として、いわゆる外洋海軍の装備という印象が強いものでしたが、ミストラル級強襲揚陸艦へのロシア輸出がクリミア侵攻になり破綻した事を受けエジプト海軍が導入、こうした潮流を受け低速で建造費を抑えたものを防衛造船各社が提示することとなっており、カタール海軍もこの潮流にのった構図という。
■ジョージワシントン騒音騒動
 アメリカ空母の居住性はともかく寄港できない為に休みの少なさは昔から常識の様になっていましたが。

 アメリカ海軍原子力ジョージワシントンで乗員の厳しい勤務環境が問題に。これはアメリカヴァージニア州のニューポートニューズ造船所にて原子炉炉心交換工事を行っているジョージワシントン艦内において、炉心交換という建設現場のような艦内に居住を余儀なくされる乗員が次々と自殺、精神衛生上の問題から乗員200名以上が一時退艦したという。

 炉心交換中は艦内が24時間堪えがたい騒音に曝されると共に、提供される食事についても質の低下がみられ、海軍上層部はこうした現状を無視していると艦内では不満が高まっている、CNNなどの取材で判明した。炉心交換工事は2017年より当初4年の計画で開始されたが、COVID-19影響等を受け早くとも2023年7月まで掛かる見通しとなっている。

 ジョージワシントンは、アメリカ空母運用の空母数縮小を背景とした激務という問題を浮き彫りとしている、冷戦時代には15隻が運用され半数が通常動力空母であった、しかし現在は11隻であり、全てが定期的に数年間の炉心交換工事が必要となっている原子力空母である、稼働空母の負担と定期整備空母への福利厚生のしわ寄せはいよいよ深刻といえる。
■シーキングミサイル搭載
 フランスのピューマヘリコプター等は昔からエクゾセミサイルを搭載出来る点を強調していましたが。

 インド海軍はシーキングヘリコプターからの新型空対艦ミサイル発射実験を成功させました、これはDRDOインド防衛研究開発機構とR&Dインド防衛研究開発機構が開発した国産ミサイルで、5月18日にインドのオリッサ沖に設定されたチャンディプールミサイル試験海域で実施、ミサイルはシースキマー軌道により低空から目標に命中したとのこと。

 シーキングヘリコプターはかつて海上自衛隊でもHSS-2シリーズとして運用されていたヘリコプターで、インド海軍において運用される哨戒ヘリコプターの中でも最大の機体であり、ミサイルの射程や速度といった性能などについては開示されていませんが、航空機としては設計が古いシーキングヘリコプターを当面インド海軍は運用を継続するのでしょう。
■コルベットからのRBS-15
 コルベットのミサイル運用能力が地上目標にも向くようです。

 ドイツ海軍はコルベット艦上からのRBS-15ミサイルによる艦対地射撃実験を実施しました。この実験には海軍のブラウンシュヴァイク級コルベットのオルデンブルクがRBS-15試験を担当しています、ブラウンシュヴァイク級コルベットは水上戦闘艦としては小型ながらゲパルト級ミサイル艇の後継として装備されており、水上打撃に特化した小型艦です。

 RBS-15は対艦ミサイルですが今回発射されたものは対地攻撃に対応するMk3であり、射程は200km以上となっています。試験はノルウェー沖で実施、ドイツ海軍の規模は海上自衛隊やイギリス海軍と比較した場合は限られていますが、バルト海における水上打撃能力は比較的高く、一定数が配備されるコルベットに艦対地攻撃能力は大きな転換点です。
■テマナ延命改修完了
 水上戦闘艦任務も担う哨戒艦という印象でしたが延命され更に長期間運用されるもよう。

 ニュージーランド海軍のフリゲイトテマナは6月6日、カナダでの近代化改修を終え出航しました。テマナはニュージーランド海軍がリバー級駆逐艦の代替艦としてオーストラリア海軍と共に導入したMEKO型フリゲイトANZAC級のニュージーランド海軍仕様であり1999年に竣工しました。ANZAC級とは10隻を両国が同時発注に安価に抑えるもの。

 テマナの近代化改修は3年間に及び、マストなどは新型レーダーの搭載に併せラティス構造から塔型に切替えられています。アンザック級は基準排水量3300tで満載排水量3600t、外洋で運用する水上戦闘艦としては比較的小型ですが、哨戒艦的な運用を重視した為です、しかし近年、中国脅威増大を受け水上戦闘艦運用が増大、改修を行う背景となっています。
■ニノックス103UW無人機
 潜水艦の情報収集手段にあたらしいが手軽なものが加わろうとしています。

 イスラエルのスーパーUAV社は潜水艦から発進可能というニノックス103UW無人機を発表しました。これは6月にオランダで行われた海洋防衛技術展示会で発表、潜水艦からカプセルにより発進し45分間の索敵が可能、水中には電波は届きませんが自律飛行により情報を収集しリアルタイムで送信が可能、同社によれば潜水艦用無人機は世界初とのこと。

 潜水艦から発進させると対潜ヘリコプターや水上戦闘艦の潜望鏡探知レーダーに探知される危険がありますが、ニノックス103UWはカプセルにて発進後、最大24時間を海中で待機した上で飛行出来る為、発進後潜水艦は充分距離を置く事が可能、ニノックス103UWの行動半径は10km、敵水上戦闘艦の監視の他、特殊部隊潜水艦作戦の支援にも有用という。
■フィリピン外洋哨戒艦6隻
 日本よりも先にフィリピンの方が哨戒艦建造を進めている印象です。

 フィリピン海軍は外洋哨戒艦6隻を韓国の現代重工へ発注しました。これは6月27日に発表されたもので、建造費用は6隻で300億ペソ、邦貨換算741億円の調達計画となります。外洋哨戒艦の概要は76mm艦砲を搭載し船体はステルス性を意識した設計、後部には飛行甲板と航空機運用能力を有するものとなり、また複数の複合高速艇を搭載するもよう。

 外洋哨戒艦は満載排水量2400t、全長94.4mで最高速力22ノット、航続距離は15ノットで5500浬となっています。フィリピン海軍では近代化を進めているものの、同時に第二次大戦中の護衛駆逐艦などが現役であり、流石に延命改修にも限界を超えている状況があり、6隻の哨戒艦はこれら第二次大戦中の艦艇などを一気に置換える事が期待されています。
■沿海域戦闘艦オーガスタ
 沿海域戦闘艦という区分は今後どのように展開するのでしょうか。

 アメリカ海軍向けに建造されるインディペンデンス級沿海域戦闘艦オーガスタが5月23日、オースタル社にて進水式を挙行しました。この進水式は浮きドックから艀に載せてタグボートにより進水式用浮きドックに移送し、ここで浮きドックへ注水して進水式を行うという特殊な方法が採られました、本艦はインディペンデンス級では17番艦となります。

 オーガスタ、インディペンデンス級沿海域戦闘艦は特徴的な三胴船体を採用した水上戦闘艦で満載排水量は3104t、8万3406hpというガスタービンエンジンとディーゼルエンジンの出力により最高速力40ノットを発揮しますが、当初は武装が57mm艦砲とSEA-RAMのみという軽武装が問題視され、ミサイル用のSuW強化武装モジュールが開発されました。
■エジプトエルファテ型
 エジプト海軍のここ二十年間お海軍力増強は驚くべきものがありますね。

 エジプト海軍向けに建造されるコルベットのエルモエズが初の海上公試を完了させました。もがみ型を小型化したようなもので、これは2014年にフランスのナーバルグループとの間で10億ドルにて契約された4隻のエルファテ型コルベットの3番艦です。ナーバルグループとの契約では4隻の建造に加え2隻のオプション建造も見込まれているとのこと。

 エルファテは満載排水量2500t、ナーバル社が輸出用に建造するゴーウィンド2500型コルベットのエジプト仕様で、76mm艦砲やエクゾセ対艦ミサイル8発とVL-MICA艦対空ミサイル用VLSを16セル、そしてヘリコプターや無人航空機運用能力を持っています。ゴーウィンド型はマレーシアやアルゼンチンとアラブ首長国連邦にも採用されています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ザポリージャ原発が何故危険なのか,誰が事故を止めるのか-ロシア軍占領下で着々と進む核の大参事への階段

2022-08-29 07:01:16 | 防災・災害派遣
■臨時情報-ウクライナ情勢
 フクシマ50という映画が有りまして事故を止めた50名の英雄たちの苦悩と決断を描いた作品で、彼らがいなければ事故はより大惨事になっていただろうという。

 ザポリージャ原発が何故危険なのか。それは軽水炉が六基あることですが、仮に現在の状況で一基でも全電源喪失となれば確実にメルトダウンを引き起し残る五基も短時間で連鎖的に事故を引き起こします。そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが理由は簡単、福島第一原発やチェルノブイリ原発のような事故対処を行う要員が不在で近づけない為です。

 外部電源喪失、先日一時ザポリージャ原発は外部電源喪失となりましたが、送電網をロシア軍が盗電しようとした際の事故が原因であり、29日時点では一系統の外部電源が確保されています。ただ、原発の原子炉は六基すべてが停止中、原発は発電できない状況ですが崩壊熱を放出する原子炉と使用済核燃料の冷却には絶対に電力が必要な状況に代わり無い。

 懸念されるのが外部電源喪失状態に陥った場合、非常用ディーゼル発電機により冷却を維持する事となりますが、発電用燃料の円滑な供給が妨げられた場合、福島第一原発のような事故に直結します、核燃料被膜のジルコニウム溶融から始まり解け落ちた核燃料は炉心底部を高熱で溶かし破壊するメルトダウンが発生する、そして事故対処要員は出動不能だ。

 六基の原子炉が全て、というのは一基の原子炉が制御不能となる事で致死量の放射性物質拡散が始り、隣接する他の原子炉にも原発職員が残る事が出来ないのです。恐らく与圧の管理棟は生存可能でしょうが、非常用ディーゼル発電機への燃料補給は大量被ばくが伴い、ロシア軍が身を挺し原発事故を止めるという確証は有りません、寧ろ非常に低いでしょう。

 ロシア軍は核戦場での対処能力を持つRHM-6化学防護車などを装備していますが、ザポリージャ原発占拠部隊にはRHM-6は確認できず、核事故を想定した装備ではありません。すると、核物質漏洩が発生したとしても対処どころか検知する能力があるのかさえ疑問なのです。そして事故発生時、ウクライナ当局の事故対処支援を行う可能性も難しいでしょう。

 ザポリージャ原発が何故危険なのか。それは過去の原発事故では原発所員と官民一致となった事故対処が被害拡大を防いだのに対して、今回はロシア軍が事故対処を妨害し、しかも原発事故の危険性を充分認識せず事故拡大を傍観する可能性が高い事です。そして国際社会はロシアを非難するでしょうが、非難に応じる国であればこの戦争さえ起きていなかった、ということです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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