北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

あの日から十年,3.11東日本大震災追悼【3】原子力事故対策,事故自体禁忌の対策は変らず

2021-03-09 20:11:52 | 防災・災害派遣
■福島第一原子力発電所事故
 福島第一原子力発電所事故は東日本大震災の性格を根底から覆した巨大な原子力事故でした。あれから十年が。

 福島第一原発事故。当時の事故を回顧する書籍や報道特集番組等を観ていますと、事故は発生させないという電力会社の姿勢について、政治が仮に重大事故につながる事態が発生した場合に放射性物質漏えいに至らないダメージコントロールの在り方を責任を以て検証してこなかった事、これは現状を含めてですが、姿勢は問題であったのかもしれない、と。

 バビロン作戦、1981年にイスラエル空軍が実施したイラク原子力発電所爆撃作戦です。事故は起きえない、という電力会社の主張には、しかし日本周辺には友好的でない諸国によるミサイル実験が繰り返されていますし、原子力施設は聖域か、と問われれば、隣国はそうは考えていないからこそ、寧辺核施設周辺を重点警備していました。リスクはあった。

 勿論、自衛隊に原子炉の専門家を養成しろと主張するつもりはありません、原子炉のどの部分を制御すれば冷温停止に至るかの研究は何処を叩けば暴走させるかの研究に応用出来るのだから策源地攻撃の観点から保持すべき、と反論があるのかもしれませんが、これは慎重であるべきです。しかし、国としては電力会社の事故対処能力を検証すべきだった。

 原子力災害と国の関係、この問題は結局この十年間なにも進歩しなかった、という課題があります。もちろん国は監督官庁を有していますので原子力発電所の新設や廃止の認可という視点で大きな責任と権限を有しています。しかし、ひとたび事故が発生した際には原子炉冷却や冷却材の投入といった実任務へ対応するのは電力会社である状況はそのまま。

 福島第一原発事故の際には自衛隊は原子力事故対処要領は既に存在したのですが、自衛隊の任務は主として避難誘導と住民輸送など、支援的な任務であり、メルトダウンのような危険な状況は想定されていたものの、ここに第一線を自衛隊が対応するというものは想定されていませんでした。当たり前ですが、自衛隊は原子炉を有していませんから、ね。

 アメリカ軍であれば、海軍や空軍と陸軍および海兵隊については原子力事故に関する専門部隊が存在します、それは万一アメリカ国内原発事故に備えるものでは必ずしも無く、海軍が原子力空母や原子力潜水艦を装備していますので原子炉を管理する必要がありますし、空軍と海兵隊及び陸軍は核兵器を管理していますので万一の危険を想定する必要はある。

 実は自衛隊の東日本大震災対処に関する日米間の取り組みをみますと、アメリカ国務省が震災下での福島第一原発制御に関する日本政府の情報不足から在日アメリカ人保護の必要な情報を得られないが、外務省は日本政府のもつ情報のみしか有していないとして、アメリカ太平洋軍、現在のインド太平洋軍を通じて防衛省へ要請があった、という事例も。

 しかし、この一点については当時情報要請を受けた防衛省自衛隊が、もっと前面にたって主導権を執るべきとのアメリカ側連絡士官意見を、自衛隊が原子炉冷却の前面に立つべきとの意見と誤解し、自衛隊に原子炉制御能力を有していると勘違いしているのではないかとの齟齬もあったようです。実際、当然ですが自衛隊の任務に原子炉制御はありません。

 仮に自衛隊が独自の戦術核兵器を保有するとか、原子力潜水艦でも保有して事故を経験したならば、核兵器保全部隊や原子力非常対処部隊はありえたかもしれません、陸上配備イージスシステムが原子力動力であったならば、あり得たかもしれませんが、そんなものは計画含め存在しません。具体的には総務省か経済産業省、もしくは電力会社に必要だ、と。

 もっと原子力事故を経験していれば変わった、とは考えません。例えばイギリスをみますと豊富な経験があります、2000年から2016年までに原子力潜水艦は少なくとも三回の原理路や冷却系統の小規模な事故を起こしていますし、イギリスは世界初の原子炉火災事故、発電用とともに原爆用原子炉で、引き起こしています、故に事故対処部隊が出来ている。

 しかし、日本の場合はこの方式は当て嵌まらないように思うのですよね、日本は事故を禁忌とした。故に核事故を重ねて経験を積むという方式ではなく、事故が起これば原子力そのものが禁忌となっていた可能性がありますし、現に現在の全国原子力発電所現状がそれを物語っています。しかし、事故そのものを想定外とし、対処能力の欠如は、問題でした。

 事故を起こさない原子力監督行政からダメージコントロールへの行政へ転換することは事故から10年を経ても選択肢にさえ載らず、政治は電力会社に有限責任ではなく事故の無限責任を負わせた場合でも民生被害を抑えられないことから、事故を起こさない対策に収斂し続けることで、原子炉を動かすことができない、日本全体の電力不足傾向はいまも続く。

 東海村臨海事故、2000年に日本ではウラン燃料をバケツで濃縮作業を行う簡略化作業を行ったことで臨界状態となり、日本初の死者が出る事故が発生しましたが、この際に自衛隊は初の原子力災害は件を実施したものの、臨海事故対処は事故を起こした日本原燃の所管で、実施命令のみ政府が行うものでした。ここは福島第一原発事故対処でも同じでした。

 原子力事故について、福島第一原発では東京電力と関連企業による炉心冷却作業が行われていますが、結果的に監督官庁を含め主導権が非常に曖昧であり、その曖昧さが政府の原子力事故対処という政策への不明確さに直結していました。重要な点は工場火災や化学事故とことなり原子力事故は被害が広域化する点で、絶対に敷地内に被害は収まりません。

 CH-47を電力会社が各5機程度装備してもらい、全体でヘリコプターを融通しあい事故の際には冷却作業から、そういう選択肢もあるのかもしれませんが、これではハード面を揃える事は出来たとしても、電力会社の対処能力が十分機能するかを第三社が検討する事は出来ません、実際福島第一原発事故も事前検証が役に立たなかった点を忘れてはならない。

 原子力事故の特性は被害の広域化です、どれだけ電力会社が広い敷地を確保しようとも、東北地方全域を買う事は出来ません、すると必ず被害は民有地まで及ぶ、被害の広域化は責任を電力会社に無限責任を負わせて国が監督に特化する制度には限界もあります。すると実働部隊として総務省消防庁か経済産業省に原発事故にのみ対応する組織が必要だ、と。

 自衛隊と原子力事故の関係ですが、主導権を得る構図は必要とは考えていません、特に費用が必要な分野が多い割には、自衛隊の主任務と関係する部分は少なく、防衛費を過度に空費する為です。しかし、住民避難や必要物資空輸に除染支援、可能な範囲において協力する体制は必要であり、なによりも事故が起きた際を想定した総合演習に参画すべきです。

 具体的には。東日本大震災については、防衛省自衛隊は早い時期に福島第一原子力発電所へ部隊を派遣していますが、これは原子力事故に対応する中央即応集団ではなく、原発を隊区とする郡山駐屯地の第6特科連隊を中心とする部隊でした。中央特殊武器防護隊先遣のが到着したその瞬間に、三号炉水蒸気爆発が発生している、という蚊帳の外と云うべき対応だったのですね。

 自衛隊の出動は遅れたのか、と問われれば、そもそも東京電力から全電源喪失の報が内閣危機管理センターに寄せられたのが津波到達から数時間後、しかし同時に東京電力より、八時間程度で復旧の見込み、と報告された事で、自衛隊の災害派遣は原子力災害派遣ではなく、巨大な津波被害による膨大な人命の危機への対策に重点が置かれていた背景がある。

 当時の自衛隊としても、原発内に火災は発生するという、新潟中越地震柏崎刈羽原発ディーゼル発電装置火災のような認識があったものの、電源喪失は回復の見込みという以上は自衛隊自身も東京電力からの情報を無視する選択肢は無く、また、報道以上に情報を得られなかった、という実情がありました。事態対処に参画できない以上、正確な情報も無い。

 事故対処に電力会社からの責任を分散させる目的での参画を行う、というものではなく、被害が広域化する以上、その被害を管理する為の情報手段と、電力会社の事故対処能力を評価し、またメルトダウンのような状況となった場合に放射性物質のプルームが人口密集地域に及ばないよう対処する能力の保持を評価するという形で、国は関与すべきです。

 逆に言うならば、この部分で明確な施策を執らなければ電力高騰のまま、という状況からは脱却できないのですね。大事故は起こり得る、この認識とともに安全神話という概念から大事故は有り得るという認識に転換、ダメージコントロールというものを想定、ダメージコントロールに必要な技術と訓練に視野を充てねば、あの事故を直視したとは言えない。

 東日本大震災以降、計画停電こそ終了はしていますが電気料金は高騰したままです。しかしその原因が原油高騰などの要素ではなく、再生エネルギー買い取り制度により原発代替電源に高いエネルギーを採用したためであり、ここが結果的に製造業に必要な電力費用を肥大化、工業製品が国際競争力を失い、周り回って復興にも影響する状況が続きます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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