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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

日本造船業は防衛の根幹,LST&LSDを増強せよ【5】日本国内には必要な工業力が"まだ"ある

2021-03-30 20:00:56 | 防衛・安全保障
■舞鶴造船業廃止の衝撃
 舞鶴の造船業が撤退するという衝撃から始まりました特集はこの第五回を当面の最終回としましょう。

 三井造船こと三井E&Sは、防衛用に転用できるような民間船舶をそのまま特許登録し話題となりました。これはランプウェイを用いて車両を搭載揚陸する船舶に関する特許というもので、直接離島の沿岸部に、というわけではないのですが自動車運搬船を埠頭に横付けせず船首からの揚陸を想定し、これにより荷役可能な港湾が大きく広がるという発想です。

 ランプウェイを用いて車両を搭載揚陸する船舶、特許に際しての概略では露天甲板に車輛200両と船倉に車両200両及びコンテナの積載を想定しているもので、船首からの揚陸とともに低重心構造と吃水線の船型を絞ることで凌波性能を向上させ、外洋に面した港湾や荒天下でも運用可能という、実は自衛隊に売り込むのではないか、というものを発案した。

 海上自衛隊に輸送艦、業務輸送に当たる輸送艦を増強させる提案ですが、難しい課題は幾つか考えねばなりません。第一に人員不足に悩む海上自衛隊に運用する余力をどのように捻出するか、という部分が。第二に任務過多に悩む海上自衛隊が貴重な人的資源や予算的資源をさく合理性はあるのか、という事です。官庁では、この2点を避けては通れません。

 業務輸送。海上自衛隊について必要なのはこの能力でして、作戦輸送ではなく、むしろ輸送艦おおすみ型などが展開する輸送拠点へ全国から部隊を展開させる運用が業務輸送というものです。業務輸送の要諦は、戦闘を想定しないものですからその分だけ乗員を省力化することができますし、思い切った発想ですが運用しない場合は、無人とできるのですね。

 海上保安庁の巡視船などが、実際に停泊中には無人としている事例がありますし、海上自衛隊でも水船や油船に曳船などは無人にて停泊しています。もちろん限度がありまして、例えばドック型揚陸艦のような大型の艦艇を無人としてしまいますと出航までに点検要目が多すぎ非効率とななり得ます、が、大きさが2000t前後のものであれば、どうでしょう。

 輸送船ではないか、こう反論がきてしまうかもしれませんが、平時にあっては当直を置かず必要な運用に際し人員を集合させる方式を取れるのであれば、例えば予備自衛官制度を活用する選択肢も考えられます。要するに平時には1当直の短時間運用基盤を構築し、有事の際に2当直、3当直、とする方式ですね。これならば部隊の負担も抑えられます。

 海上自衛隊が運用する意義ですが、実のところその気になれば運用できる任務領域は、特に平時において考えられるものがあるのですね。なにしろ艦艇、国際法上の軍艦としての資格を有しています。それでも人員が足りない場合は、陸上自衛隊輸送部隊に船舶輸送隊を置き、予備海上自衛官の支援を受ける統合運用という選択肢も検討されるべきでしょう。

 輸送艦の作戦運用について。作戦輸送と業務輸送を類型化したうえでは矛盾すると思われるかもしれませんが輸送艦は領域警備任務についても相応に能力を発揮します。もちろん作戦輸送に用いる艦艇が電子装備などで適していることは事実ですが業務輸送に用いる艦艇であってもまったく対応できない、というようなものではなく、柔軟な選択肢はある。

 領域警備はショーザフラッグという、我此処に在、これを第三国の勢力に対して自国領域にて示すものです。このため電子妨害能力や対空警戒能力は無いよりはあったほうがよいにしても、機関砲を搭載した輸送艦であれば追い払うことは可能です。平時の任務ですので極論で、相手が本格的な水上戦闘を仕掛けた場合までは想定する必要もありません。

 南西諸島を念頭に警戒監視任務を展開する場合、輸送艦は居住空間に余裕がありますので長期間の遊弋が可能となりますし、また悪質な領海侵犯事案などについては輸送艦艇には機関砲とともに搭載艇を有していますので、例えば高速複合艇を搭載し、警備隊とともに発進させ警戒、意志を示し拿捕も辞さない強力な示威を試みることさえ、可能でしょう。

 警備能力の限界を超えて相手が示威行動を行った場合には増援を展開させることとなりますが、グレーゾーン事態に状況が悪化した場合には輸送艦は警備を拡大阻止に切り替え、水陸機動団や即応機動連隊の輸送に方針転換するという運用が考えられます。こういうかたちで、民間船舶建造技術の転用をいくつか考えてみた訳ですが、それも造船業健在ゆえ。

 舞鶴造船業廃止の衝撃、この話題から始まりました本論ですが、需要があれば応じるだけの造船能力は国内に在りまして、その技術面でも価格競争面でも、日本の造船業は非常に高い水準にあります。こうした造船業から、防衛用の特殊艦船に拘らずとも、安価に調達できる必要な装備品というものは案外あるものでして、これを支える必要、感じるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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