北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

あの日から十年,3.11東日本大震災追悼【2】震災十年,大きく減った災害派遣活躍自衛隊装備

2021-03-08 20:10:52 | 防災・災害派遣
■偵察機全廃,ヘリコプター激減
 3.11の巨大地震を前に空前の規模で実施されたものが自衛隊災害派遣でした。やりきったといえるのですが使い切ってしまった装備も多い。

 東日本大震災以降、テレビ番組では自衛隊を持ち上げる特集が増えたように印象がありますが、演習映像や感動秘話を紹介するものが多く、視聴率も簡単に採れるとか制作費が掛からないという理由もあるのかもしれませんが、東日本大震災後、災害派遣に活躍した様々な装備品が縮小され、かつての様な活動が出来なくなった点を紹介する番組はありません。

 東日本大震災で自衛隊への評価は大きく変わった、こう世論調査の結果を散見するのですが、震災から十年、自衛隊の装備はしかし老朽化されたものを置き換えることなく財政難という錦の御旗とともに削減されています。偵察機全廃、輸送艦は数の上では四割削減、観測ヘリコプターは八割削減、多用途ヘリコプターも老朽機除籍にて三割縮小しました。

 南海トラフ巨大地震。東日本大震災以降政府は過去の歴史地震の再来を現実的な脅威と認識し、防災計画を一部変更していますが、現状の自衛隊装備では東日本大震災の規模であっても自衛隊に同等の派遣を望むことはできません。そして財政難はなにも政府と自衛隊に限ったものではなく、自治体財政も逼迫し、防災ヘリコプターは実質増えていません。

 RF-4偵察機。航空自衛隊は東日本大震災に際しては、旧式ではありましたがRF-4を多数活用し被災地全容の把握に務めました。旧式というのはRF-4は撮影にフィルムを用いており、撮影した画像を百里基地へ一旦戻り現像、写真を入間基地へ空輸し、入間から首相官邸へヘリコプターで空輸していたのです。しかし立体写真など高精細な写真を届けた。

 RF-4はリアルタイムで被災地画像を提供できたアメリカのRQ-4グローバルホークと比較し、画像伝達への即応性に欠けた点は指摘されていますが、結局RQ-4の導入は東日本大震災後十年を経ても実現せず、2020年にRF-4退役を迎えています。陸上自衛隊に小型のスキャンイーグル無人機はありますが、防災ヘリコプターと運用高度が同じ難点があります。

 ゆら型輸送艦、満載排水量710tの小型輸送艦ではありますが、東日本大震災では、ゆら、のと、とともに小型ながら北海道と東北の輸送に活躍しています。海上自衛隊は2000年ごろに後継として1700t型輸送艇を計画していたのですが財政難により実現せず、震災後、のと、ゆら、ともに後継艦もなく用途廃止となっています。震災当時,輸送艦は5隻だ。

 おおすみ型輸送艦3隻、ゆら型輸送艦2隻、この前者が満載排水量14000tと充実した輸送力を有しますので、小型輸送艦が全廃されたとしてそれほど大きな輸送力低下とは言えないのかもしれませんが、海岸線に揚陸できる小型輸送艦の削減は現実です。政府傭船はくおう、高速フェリーがチャーターされましたが、港湾が破壊された場合、接岸できません。

 OH-6D観測ヘリコプター全廃、最盛期180機の勢力を誇った小型の、乗用車六台分の駐車スペースがあれば発着できる、軽快なヘリコプターは後継機が選定されることなく、全廃されています。観測能力は高くはありませんが、災害時にいち早く離陸し情報収集にあたる航空機が無くなり、現在は情報収集に多用途ヘリコプターを輸送から外して用いている。

 OH-1観測ヘリコプターが31機ありますが、元々250機量産される計画を大幅に縮小し31機、そして小型のスキャンイーグル無人機は導入されているのですが、巡航高度は4000m程度、小型で小回りは利くのですが防災ヘリコプターの飛行高度と重なってしまい、自動回避機能は一応あるものの、防衛出動以外では使いにくい状況があるといわざるをえない。

 自衛隊の装備、もちろん東日本大震災と比較し増えた装備もあります、例えば水陸機動団のAAV-7両用強襲車、次の津波災害時には沿岸部での機能が期待できる。例えば政府傭船はくおう、被災地は無理でも太平洋側の災害に際し日本海側に輸送することは可能だ。例えばC-2輸送機、前型C-1輸送機よりも輸送能力は増えた。しかし、減ったものも多い。

 勿論、今更OH-1観測を大量生産させる事は不可能ではあります、しかしアグスタA-109やエアバスTH-135派生型のような観測機としても軽対戦車用としても連絡機としても用いられる機体を第一線の師団や旅団へ配備できる中央の体制はあって良いと思いますし、有事の際には電子戦機として用いるとしてEA-18Gを導入し偵察ポッドを積んでも良い。

 EA-18G,例えば偵察航空隊のように総隊司令部飛行隊に配備し電子戦と偵察に充てる方法が考えられる。輸送艦についても新規に輸送艦を建造するのが難しいのであれば、例えば既存輸送艦を支援する大型揚陸艇、フランスのCDIC揚陸艇のように単独で輸送艇として用いられる750t程度の輸送艇を地方隊に輸送隊単位で装備させる選択肢も考えられます。

 財政再建は必要ではありますが、同時に国は次の大規模災害が発生する蓋然性を、少なくとも震災直後の菅(かん)内閣時代に南海トラフ連動型地震というかたちで示唆しているのですから、もちろん財政難故に自衛隊装備を増勢する事への風あたりの厳しさは理解するのですが、必要な装備品を揃える努力は政治の責任、為政者の責務ではないでしょうか。

 勿論、無際限に防衛装備の調達を認めろというものではありません、そんな事を行えばそれら装備が老朽化した際に後継装備を必要とする時代となれば、防衛費は破綻してしまいます。しかし同時に、例えば多用途ヘリコプター、例えば戦術偵察機、例えば観測ヘリコプター、例えば水陸両用車、これらは“次の巨大災害”を考えるならば、必要な装備です。

 オペレーションリサーチを行う必要がある。自衛隊の任務は防衛であり災害派遣院無は第一の任務ではない、こう自衛隊からは説明されるものです。これは単なる災害派遣への価値観ではなく、災害派遣をどの程度見積、対応能力を構築するかというオペレーションリサーチを行う難しさがある為です。すると、この能力構築は政治主導が求められるという。

 自衛隊の災害派遣、どの程度必要か、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震を想定し、京阪神中京同時被災と九州から京浜地区までの津波災害に十分対応できる能力を政治が自衛隊に求めたならば、防衛省は高度経済成長期の要求、V-107輸送ヘリコプター600機構想のような、大幅な装備拡張が出来なければ任務遂行は不可能である、と応じる事でしょう。

 政治主導が求められるのは、ここです。政治主導、具体的には自治体の保有する航空機材や協力企業と土木系公務員の災害対応能力をどの程度有しているかを、防衛力整備のように“防災力整備計画”として数値化、その上で具体的な自衛隊に求める能力を数値化する。その為に必要な輸送力や工兵能力を元に防衛力整備へ自衛隊が反映し、予算を政治が、と。

 輸送艦は3隻で良いのか、ローテーションを考えれば重整備入渠時や派米訓練と災害が重なる可能性がある。戦術偵察機を無人偵察機に切替える長期計画は理解できるが、いつまでその能力整備に要するのか、RQ-4はアメリカ軍が東日本大震災に際し情報を提供しましたが、同時に偵察ポッドを積んだF/A-18Fも活躍している、本当に戦術偵察機は不要か。

 こういったものは、オペレーションリサーチを行わなければ、シナリオに発災から大団円までが明記されている形だけの防災訓練では分らないものがあります。訓練はしているし備えている、こういう反論が政治から為されるとするならば、その能力構築の土台は大丈夫なのかとの視点を持たねば、次の大災害に東日本大震災の教訓は、活かせないでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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