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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊が海上輸送力整備検討:統合機動力整備へ即応機動連隊や戦車連隊輸送も視野か

2018-07-02 20:09:03 | 防衛・安全保障
■戦車揚陸艦型等新大綱へ盛込み
 陸上自衛隊の最精鋭、空挺団は機動運用へ輸送機で世界中どこにでも展開します。それでは統合機動防衛力整備事業で創設の精鋭はどう機動するか。

 7月2日本日付の産経新聞報道によれば陸上自衛隊独自の輸送船について“陸自駐屯地を置く南西諸島の離島間輸送を円滑にすることが目的”として年内にも改訂予定となっている防衛計画の大綱へ盛り込まれる方針である事を複数の政府関係者からの情報として報じました。現在陸上自衛隊は沖縄県と鹿児島県島嶼部への警備隊新編等の施策を推進中です。

 報道を視る限りでは、機動力を重視した小型輸送艦を検討している他、LST型の戦車揚陸艦の必要性が部内で提唱されている点を示しており、この事から陸上自衛隊はアメリカ陸軍の輸送揚陸艦を念頭に検討している点が窺えます。現在防衛省では民間フェリー長期チャーター契約を結び海上輸送力強化を進めていますが、これより作戦輸送を想定している。

 多用途防衛型空母、として自民党安全保障調査会が四月に政府提言として海上自衛隊へ現在のヘリコプター搭載護衛艦いずも型の延長線上に当たる洋上防衛の中枢艦整備の必要性を提示していますが、今回報じられている陸上自衛隊独自の輸送艦整備はこれよりも小型で、海上自衛隊の将来輸送艦、おおすみ型輸送艦3隻の後継艦とは別の計画となります。

 陸上自衛隊が検討する海上輸送能力、その整備の目的は単に水陸機動団機動力整備に留まらず、もう少し広い視野で進められているとも考えられます。広い視野とは、第8師団と第14旅団の即応機動連隊緊急展開や、北海道に集約される戦車部隊主力の南西方面への緊急展開を期する統合機動防衛力整備という陸上自衛隊の一大防衛力整備事業とも兼ねて。

 第15即応機動連隊や第42即応機動連隊は、有事の際に南西方面防衛省縁へ緊急展開する、これは第15即応機動連隊改編行事に際し編成官が繰り返し強調していた点ですが、海上自衛隊の輸送艦おおすみ型は即応機動連隊を輸送する十分な能力がありません。おおすみ型は1隻で戦車小隊を含む機械化された増強普通科中隊を輸送する能力しか有していません。

 おおすみ型輸送艦は1998年より就役開始、1992年のカンボジアPKO任務を受け自衛隊の国際貢献任務増大を背景に、当時の輸送艦みうら型、あつみ型の輸送能力では不十分であるとして建造されたもので、冷戦終結直後の当時は陸上自衛隊水陸両用戦部隊の団規模での新編と南西方面における自衛隊の本格的な水陸両用作戦は想定されていませんでした。

 LCACエアクッション揚陸艇、海上自衛隊には最高速度40ノット、96浬の沖合から輸送艦を発進し90式戦車等を揚陸し往復できる性能を有していますが、アメリカからの有償軍事供与の費用は高性能の分、90億円と高く、LCAC1隻で縮小編成の1個戦車中隊を取得できるほどの取得費用を要し、海上自衛隊も輸送艦定数以上の大量取得は行っていません。

 戦車を縮小し予算を節約しても、戦車を運ぶ費用の方が戦車そのものの取得費用よりも遥かに高くつく。この他にも1機400億円程でC-17輸送機を取得可能です、C-17は90式戦車1両か96式装輪装甲車6両を空輸可能ですが、それにしても1機だけでも取得費用は非現実的な水準となっています。結果、北海道の戦車をどう統合機動させるかは大課題です。

 南西方面への緊急展開を掲げつつ、しかし輸送する艦船は無い、南西方面は離島であり鉄道輸送は不可能であり、しかも鉄道は狭軌である為に90式戦車や10式戦車を輸送出来ない。現状では、民間フェリー等を武力攻撃事態法指定協力企業から強力、つまり実質徴用ですが、受ける他ないという状況ですが、それにしても最前線まで輸送は不可能でしょう。

 舟艇部隊を陸上自衛隊が検討するのはこれが初めてではありません、1960年代後半に奄美返還や続く沖縄返還を念頭に、南西諸島防衛へ舟艇部隊での機動を基本とする混成団を創設する構想がありました。特に南西諸島防衛は第1混成団新編で一段落しましたが、当初は南九州と沖縄に空中機動混成団と水陸機動混成団、との先進的な検討が為されています。

 あきつ丸として陸上自衛隊の先輩に当たる旧帝国陸軍は陸軍丙型特種船という全通飛行甲板を有し九七式戦闘機13機を搭載可能な輸送艦を戦前に建造しています。帝国陸軍は上陸用舟艇母艦となる神州丸等も建造しており、実はアメリカ海兵隊が本格的な水陸両用強襲能力を1930年代に整備した背景に、帝国陸軍への対抗という部分が一部あったりするほど。

 現時点で陸上自衛隊に船舶運用の経験はありません。この為、LSVにしてもL-CATにしても陸上自衛隊が導入し運用するには能力整備に時間を要するでしょう。電子戦装備の有無や個艦防空能力をどうするのか、海上自衛隊との協同はどうか、そもそも陸上自衛隊は船舶の停留港を持たず、桟橋を取得するところから始めねばなりませんが、必要な能力整備です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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