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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

NATO首脳会議2018,波乱の展開-米トランプ大統領が加盟各国国防費GDP比4%拡大要請

2018-07-12 20:07:37 | 国際・政治
■日本も防衛費拡大要請の可能性
 現在日本の防衛費はGDP比1%、NATOは加盟国へGDP比2%を義務付けています、ただNATOについては1.5%台の加盟国が多い中、11日行われたNATO首脳会議は波乱の展開となりました。

 ブリュッセルのNATO本部にて開催されたNATO首脳会議はアメリカのトランプ大統領がNATO加盟国各国にGDP比4%の支出を要求、NATO創設以来の波乱の展開となりました。NATOは創設当時にアメリカを含む全欧防衛機構を期して創設され、第二次世界大戦後、ソ連の軍事圧力が年々強まる当時、ここにアメリカを第二次大戦以前の孤立主義に回帰させず欧州へ関与させる枠組み構築が大きな課題となっています。そしてNATO創設から69年に当たる本年、この古典的命題が再論されることとなった。

 日米安全保障条約によりアメリカと同盟関係にある我が国ですが、トランプ大統領は大統領就任後に様々な知己を得て主張を一旦保留しているものの、大統領選挙当時には、日本、ドイツ、韓国、以上三カ国を、アメリカの防衛力に過度に依存している、として防衛努力の低さを名指しで批判されています。我が国はGNP比1%枠という周辺国へ脅威を及ぼさない防衛予算上限を暗黙の了解として維持、1980年代の中曽根内閣当時を例外としてほぼこの枠組みを維持してきましたが、今後の風当たりは予断を許しません。

 アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領、NATOには大統領選挙当時から懐疑的姿勢を示唆し続けていますが、ブリュッセルでもこの点が課題に。アメリカ第一主義とは世界におけるパクスアメリカーナの盟主として自由と民主主義の国際公序化を目指すのか、アメリカさえ繁栄を約束できるならばアメリカ以外は全て無関心を意味する伝統的モンロー主義に基づく孤立主義に回帰するのか、その外交姿勢は判然としていません。

 米ロ首脳会談、16日に控えるトランプ大統領とプーチン大統領の初の首脳会談では、NATOがロシアのクリミア併合を契機として深刻な対立関係にあり、ロシアによるウクライナ東部紛争介入、そして飛び地カリーニングラードへのロシア軍増強、米ロ関係では大統領選挙介入疑惑があり、その会談は注目されていますが、政治経験豊富と外交経験に長けたプーチン大統領とビジネス界出身のトランプ大統領は、例えば東欧ミサイル防衛施設撤去や在欧米軍の更なる、即ち2005年に大規模削減を行った上での重ねての、削減を公言しないかが危惧されています。

 在韓米軍撤退を示唆したトランプ大統領、六月の米朝首脳初会談において北朝鮮との間で緊張緩和で合意、北朝鮮が将来的に核武装を解除するときがきたならば北朝鮮独自の核武装の方向性を最終的に決意しなくもない、という発言を前に、米韓合同軍事演習の中止が決定、北朝鮮は2020年までに核廃棄を行うのか、2030年まで要するのか、3000年まで待たねばならないのかも未知数のなか、その後発言された在韓米軍撤収示唆が一人歩きしてしまいました。

 最前線国家に日本は転換するのか、これは在韓米軍撤収示唆により俄に現実味を帯びつつある我が国防衛上の問題で、そもそも日本国憲法が非武装さえも念頭とする平和主義を明示した背景には、日本が武装せずともアメリカ軍が駐留するとの日米安全保障条約と日本国憲法九条の連関がありますので、在韓米軍撤収が仮に現実的な意味で前進するので在れば、選択肢として日本には防衛力強化という道のほか選べません。しかし、これは最前線国家の現実味という視点から既に幾度か論述してきました。しかし、それだけではない。

 韓国にとっても在韓米軍撤退は、北朝鮮との南北統一が北朝鮮の軍事力を背景に行われる、つまり韓国を北朝鮮が武力併合する、という危惧に直結します。選択肢としては韓国もやむを得ず暫定的に核武装を行うという選択肢、これを行いますと日本や台湾においても核武装の機運を世論が喚起する危険な核のドミノという状況が醸成されてしまいますが、喫緊の課題としては韓国が国防努力を重ね、国防費を増額することで努力を数値化し、トランプ大統領へ在韓米軍を引き留める施策を採ることが、少なくとも核武装よりは現実的です。

 NATOに要求したような防衛費増額を日本へも要求、これが韓国により為される可能性が、ここで生じてくる。在韓米軍は戦闘部隊が主体であり、在日米軍は米軍の巨大な後方基地としての機能を有しており、在韓米軍と在日米軍は一体的に機能します。だからこそ、在日米軍は日本有事に際し自衛隊とともに沿岸部で敵上陸を迎え撃つものではありません。在韓米軍が維持されたとしても在日米軍が撤収しては意味がない訳です。

 日本への影響について。勿論、トランプ大統領が安倍総理へGDP比4%の防衛費負担を要求、つまり自衛隊の予算を年額19兆円まで増額する要求は考えられます。ただ、中期防衛力整備計画当たり95兆円となれば護衛艦を全部イージス艦とヘリコプター搭載護衛艦に切り替えて100隻そろえたり、普通科部隊全てに89式装甲戦闘車を装備したり、F-35戦闘機300機を調達したり国産戦闘機開発など必要な装備は全て揃いますが、恐らく財政が保ちません。

 不可能な水準の防衛費要求を突き付けられた場合、その背景がポピュリズム的手法に基づくならば、こちらも同じ水準の要求を提示する他なくなります。一例として、台湾への海兵隊や在韓米軍移転、ポーランドへの陸軍移転、と。国防努力をGDP比へ置き換えた場合、数字をもとにこうした言質を外交によりトランプ大統領から引き出す事が、日本や欧州外交には求められます。考えようによってはアメリカの同盟国、米華相互防衛条約が台湾関係法となった時点で同盟国と扱うかは微妙なところですが、台湾などはGDP比3%台の国防費を支出していますのでこちらに移転する、というポピュリズム的手法にてトランプ政権は、ロシアや中国へ首脳会談での宥和的発言の裏側に劇薬を仕込む選択肢は考えられるでしょう。実現するかどうかではなく示唆するということ。

 海兵隊台湾移転は、規模は少ないものの実は少しだけ現実味がある変革が進められています。米国在台湾協会AIT,米中国交正常化後に中華民国との外交関係を維持するために台北に設置した代表部ですが、CNN報道1日付によればアメリカ国務省は国防総省にAIT警護へ海兵隊派遣を要請しました。アメリカ在外公館の警備は伝統的に陸海空軍海兵隊のなかでもっとも長い歴史を有する海兵隊が担っていますが、AITには海兵隊は駐留していません。ここに少人数では在っても海兵隊を派遣する要請があったという構図です。

 東欧への在欧米軍移駐、ロシアの軍事脅威を間近に直面する東欧諸国は近年、装備のNATO標準装備への転換に尽力しており、トランプ流に表現するならば国防努力に熱心な中小国、となります。そして、イタリアやドイツの駐留米軍は冷戦時代のソ連軍へ対抗する部隊配置を踏襲していますが、ロシアへの抑止力を念頭に置けば東欧配備の方が理に叶っている、もちろん劇薬ですので、在韓米軍撤退やNATO撤退という選択肢と秤に掛ける瀬戸際外交ということになってしまいますが、こうした劇薬でも示唆しなければ、前述のGDP比4%の要求というものは、超長期的ではなく中長期的にみた場合、少々現実的ではありません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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