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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新型装甲車/装輪装甲車-改開発中止(考察3)高過ぎる防御要求仕様,不正では無く開発失敗

2018-07-30 20:12:23 | 先端軍事テクノロジー
■小松技術陣,車幅2.5mに挑む
 装輪装甲車-改、試作車を一見して高すぎる車高ではありましたが、開発中止は残念でもあり、しかし装備実験隊の英断であったり、と思う。

 三菱自動車の燃費不正問題や日産自動車不正検査問題が続きますと、新型装甲車も不正か、と思われるかもしれません。ただ、本件は不正も偽装もないといえるかと。論拠はあります、小松は耐弾試験場を持っていません、当たり前ですが戦車砲も機関砲もロケット弾も耐弾試験用とはいえ民間企業が実弾射撃できる環境はありません、不正のしようがない。

 防衛産業にとり難しいのは自前で評価試験を行おうにも実弾を使えない点です。国内で使えないのならば海外に持ち出して重機関銃で売ってみれば良いと思われるかもしれませんが、銃刀法枠外の海外で試験場を確保しても日本国外に持ち出す場合は経産省に武器輸出に当たる持ち出し申請が必要となる、開発中の防衛装備品を持ち出せるとは思えません。

 新型装甲車の受注に当って、勿論、小松製作所としては計算上、爆薬量から爆風と破片被害をシミュレーションし、耐えられると算定した筈で、不正の意図や偽装、そもそも試験出来ないので偽装しようがなく、こうした意図は無かったと思います。逆に防御力に問題があるまま制式化していればそちらが問題、制式化断念は不正に繋がらなかった故とも。

 開発失敗、それでは原因は何か、開発費は税金を投入しているのですから問題は此処です。しかし、今回の要因は防御力の要求が高すぎたのではないか、というものが率直な印象です。ストライカー装甲車は車幅2.7m、フランスのVBCIが2.98m、ドイツのフクスも2.98m、イタリアのフレシアは3.3m、と車幅2.5mの分隊用装甲車は世界的に見て非常に少ない。

 防御能力、実は海兵隊のLAV25は基本能力が7.62×39mm弾の耐弾でして、62式機銃の7.62×51mm弾ですと貫徹するのですよ、一応12.7mm普通弾に耐える要求仕様の96式装輪装甲車の方が防御能力が高く、しかし今回の新型装甲車は同じ車幅で、より高い防御能力を要求しました。この要求は世界的に見ても常識外の高い防御能力要求だった訳ですね。

 新装輪装甲車開発の遅延、耐弾性能が必要値を下回った為、二年間の開発期間延長という理由が示されていますが、新装輪装甲車は従来の96式装輪装甲車よりも車高が1m以上高く、16式機動戦闘車を超えます。当然ですが機動戦闘車との直協を行う際、車高が高ければそれだけ遠距離から位置が暴露するため、敵対戦車火器の餌食になる危険性が高まる。

 車高が高い事は野戦では自車の生存性を脅かすだけではなく、協同する機動戦闘車の位置を暴露するため、できれば離隔距離を置きたい状況となりましょう、が、それでは普戦協同が成り立ちません。車高の問題は頭が痛いものでして、例えばイスラエル軍が長年装甲戦闘車を制式化しない背景には、車高が高く戦車含む機甲部隊の隠密性を損なう為とも。

 ストライカー装甲車、国産車両が駄目ならば海外製装甲車を導入、という試案一つの選択肢となるのでしょうか。米陸軍が2003年より大量配備している装輪装甲車で、もともとはミディアム旅団構想として軽歩兵主体の軽旅団と機甲部隊主体の重旅団の中間を担う装備体系の確立へ選定されたもの。スイスのモワク社製ピラーニャシリーズのLAVⅢが原型だ。

 ピラーニャシリーズの中でも、カナダのGMカナダ社が製造するカナダ軍向けLAVⅢを多数の候補から、多数というのはオーストリア製パンドゥールやキャデラック製四輪装甲車まで含めてですが、選定の上決定しました。12.7m遠隔操作式銃搭を採用しており、近年では下車歩兵支援強化の観点から30mm機関砲無人砲塔搭載の評価試験が進められている。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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