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ホルムズ海峡緊張,米トランプ大統領イラン核合意破棄と石油禁輸要求にイラン高官が封鎖示唆

2018-07-23 20:08:55 | 国際・政治
■ペルシャ湾タンカー遮断懸念
 イラン高官がトランプ大統領の核合意破棄と経済制裁再開、中でも各国へのイラン産原油全面禁輸要求に対しホルムズ海峡封鎖を示唆、7月12日付ロイター報道があり驚かされました。

 アメリカイラン制裁再開、トランプ大統領がイラン革命防衛隊によるイエメン内戦支援やシリア内戦介入への制裁に、イラン核合意に基づく経済制裁解除、オバマ政権時代に1979年イラン革命を契機としてアメリカ大使館をウィーン外交関係条約に違反しての占拠や大使館員拘束、人権問題やテロ容疑から始まる制裁解除を撤回し再開させようとしています。

 ホルムズ海峡封鎖、イランは核合意のアメリカによる一方的破棄の宣言に反発し、核開発再開示唆等を行うと共に、イラン南部のペルシャ湾とアラビア海を結ぶ重要海峡、ホルムズ海峡封鎖を示唆しています。地図を見れば一目瞭然です、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、クウェート、イラクからの船舶はホルムズ海峡を航行せねば外洋に出れない。

 石油流通への重大な影響、ホルムズ海峡封鎖に伴う最大の問題はこの一点で、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、クウェート、イラク、ペルシャ湾は世界有数の産油国が並び、勿論アラビア半島のサウジアラビアを縦断しパイプラインを建築したらば迂回は不可能ではありませんが、費用面維持技術でネフド砂漠を超えるパイプラインは非現実的だ。

 イラン海軍は現実問題としてホルムズ海峡封鎖を行う可能性はあるのか、こうした問いに対しては残念ながらある、と言わざるを得ません。実際、1980年のイランイラク戦争ではタンカーへの無差別攻撃を行っています。最近を振り返っても2016年の米船員拿捕事件、2015年のシンガポールタンカー砲撃事件、2007年イギリス船員拘束事件、事例はあります。

 タンカー戦争と呼ばれたイランイラク戦争は、イラクに侵攻したイラン軍に対しイラク空軍が海上封鎖を実施、対抗するイラン軍は1984年より戦闘機や哨戒機によるタンカー無差別攻撃で対抗しました。無差別攻撃の意図はイラクを支援する石油輸出国機構加盟国の経済基盤である石油輸出網を遮断するという凶行で、日本向けタンカーも攻撃を受けました。

 中国製地対艦ミサイルシルクワームを取得したイラン軍は、攻撃を繰り返すと共に機雷や武装高速艇を併用しての海峡封鎖を試み、実際1986年までにタンカーを中心に50隻が被害を受け、特に超大型タンカーが多数被害を受けた事で、被害船舶総トン数は第二次世界大戦中に潜水艦や航空機に撃沈された船舶総トン数と比し二割に匹敵するようになります。

 海上保安庁巡視船をタンカー護衛に派遣しようとの機運がイランイラク戦争当時の橋本龍太郎運輸大臣、後の総理が提案する程に被害は深刻で、もちろん電子妨害手段を持たない巡視船はミサイル攻撃に対し無力ですが、当時の自衛隊法では護衛艦をペルシャ湾に派遣しイラン軍から防衛する法整備は無く、苦肉の手段として決死の検討さえも行われたほど。

 楽観論にホルムズ海峡をイラン海軍が封鎖する事は無理ではないか、一部識者にはこうした意見もあるようです。根拠はホルムズ海峡はイラン領海であるとともに南部はオマーン領海であり、イラン海軍はタンカーなどが国際海峡部分のオマーン領海を航海した場合に攻撃できないだろう、というもの。確かに完全閉鎖を行う事は難しいかもしれません、しかしです。

 海峡封鎖は完全閉鎖を行わずとも、例えばタンカーが拿捕されるという状況一つでも自由航行を大きく阻害します。また、タンカーが撃沈された場合は例えそれが一隻でも船会社がその他のタンカーへも攻撃の危惧がある場合、そのリスクを敢えて採って航行を継続するかと問われれば非常に厳しく、船舶保険料の高騰や原油不足に伴う高騰は避けられない。

 ロシア製キロ級潜水艦をイラン海軍は装備しており、懸念されるのは機雷敷設です。イラン海軍はその戦力から水上戦闘艦部隊などによる正面を切っての打撃力は高くはありません。しかし、国籍不明の潜水艦がホルムズ海峡に機雷を敷設した場合、機雷は海の地雷ですが一発で大型艦船を航行不能に陥れますので、可能性だけでも航行を大きく阻害します。

 ソマリア沖海賊対処任務の延長として海上自衛隊に船団護衛任務を実施させられないか、こう簡単に考える方も居られるかもしれませんが実際は難しい、何故ならば小銃などで武装した私人である海賊に対し、今回はイランという国家主体が相手です、すると対水上戦闘や対潜戦闘、対航空戦闘となる可能性が高く、海上警備行動の想定を超える脅威となる。

 掃海艇などを派遣し、万一ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合には派遣する、という想定は安全保障関連法制国会討議に際し繰り返し議論されたものですが、最悪の場合には海上自衛隊が有志連合として多国間共同作戦を、集団的自衛権の行使として、実施しなければならない状況もありえます。イランとアメリカの対立は、こうして世界の耳目を集めています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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