◆JAS-39-NG/AV-8Bを少数機調達する
現在尖閣諸島を含めた南西諸島の防空は沖縄本島の那覇基地より展開していますが、この本島以南に戦闘機を配備する方式を再検討してみましょう。
冒頭に私見を示しますと、基本的に沖縄本島以南に戦闘機部隊基地を置くことは不用であるという前提で、航空自衛隊のレーダーサイトが置かれる宮古島か、陸上自衛隊の駐屯の実現へ調整が開始された石垣島へ、航空救難団の救難隊を一個増勢し配置、UH-60J救難ヘリコプターとU-125救難機を展開させ、必要に応じ、補助飛行場、例えば救難隊の展開する新潟分屯基地や陸上自衛隊別海駐屯地に隣接する航空自衛隊毛根別補助飛行場や八雲分屯基地補助飛行場のように、緊急着陸の基地として使う方が現実的と考えるところ。
しかし、それでも必要性が事業評価により認められるならば、置く場合は、2~3機の前線運用に適した戦闘機を簡易掩体に収容する、基地機能が大型化する弾薬庫や燃料庫は配置せず、弾薬は緊急発進用の定数を最小限の再発進用装備とともに車両搭載し燃料は可搬式車両により輸送、基地機能を極力最小限規模のものとしつつ、必要であれば基地機能が即座に自走もしくは輸送艦や輸送機の支援により、予備飛行施設へ転換できる体制を構築する、基地は小規模でも警備小隊を置きコマンドー部隊への準備を確実とする。
島嶼部への配置部隊は、入間基地の航空総隊司令部飛行隊を拡大し、航空総隊司令部航空団として、戦略予備部隊としての位置づけを受ける。同部隊は前線運用に適した一個飛行隊を基幹とし、2~3機からなる分遣隊を3~5隊編成、第一線航空基地の補完勢力として補助飛行場を中心にローテーション運用を行う。補助飛行場とは、南西諸島については先島諸島既設飛行場及び在沖米軍既設基地、小笠原諸島においては硫黄島基地及び南鳥島基地、北方については丘珠駐屯地、八雲分屯基地補助飛行場、何れかの緊張度に応じて配置する。
分遣隊は、戦闘機2~3機からなる飛行班、機動野整備小隊、機動警備小隊、機動補給班、通信班、以上60名から編制し、必要に応じ当該管区航空方面隊施設隊の支援を受け移動式掩体等の架設支援を受けると共に、航空管制については既設飛行場の航空管制設備の支援を受け、これらが機能不随状態に陥った場合においては早期警戒管制機からの空中官制を受ける。任務は既存航空基地の補完であり、常設ではなく必要に応じ暫時展開を大前提とする。と、まあ、考えると、こんなところでしょうか。
沖縄本島以南、今回戦闘機の前方展開を考える島嶼部は、中国が多数を揃える短距離弾道弾の射程圏内にあります。前提条件として、F-15,F-2,F-4EJといった現在航空自衛隊が運用する戦闘機は本島以南の、例えば先島諸島などでの運用を行うことは不可能です。こういますのも先島諸島は中国の短距離弾道弾射程圏内にあり、短距離弾道弾は数が多いことから容易に基地が使用不能となり最悪飛行隊ごと地上で無力化、こうした理由から、高性能であるものの、大きな運用支援が必要な大型戦闘機を運用する基盤が維持できないのです。
すると、この方式を考える上で実現するために不可欠な選択肢には、航空自衛隊が保有していない、前線運用可能な航空機を新たに配備する、具体的にはAV-8攻撃機やJAS-39戦闘機を少数導入し、配備する、こうしたものが入ってきます。弾道ミサイルが着弾しても復旧可能な滑走路と補修設備に戦闘機の地下格納庫を増設、という案もあるでしょうが、これではその予算だけで戦闘機数機分必要となってしまい、本島防空に穴が開くこととなり、もちろん先島諸島を見捨てるわけではないのですが、全体の運用体系を考えれば、承服できません。
JAS-39,ここで考えられるのは、JAS-39です。最新のJAS-39-NGは小型ながらPS-05A+レーダーにより120kmの索敵能力を有し、AMRAAM空対空ミサイルの運用能力を有し、将来脅威に対し、圧倒は出来ないものの対抗が出来る戦闘機です。しかし最大の利点は整備器材が少ないことで、一機分の整備器材はC-130一機で輸送可能、中型トラック三台程度に分散搭載可能で、再発進までの整備は十数名で対応できる、手間のかからない戦闘機であり、変な話、地方のコンビニ程度の地上設備と駐車場の面積で少数運用が可能というほど。
ただ、取得費用の大きさがかなりのものとなるのが悩みどころで、この点考えなければなりません。JAS-39,確かに軽量戦闘機ではありますが、取得費用は一定以上のものとなっていて、F-16EやF/A-18E,F-35やEF-2000と比べれても最新型のグリペンNGでは2012年のスイス空軍導入契約で22機が31億スイスフラン、当時のレートが1スイスフラン86円ですが、それなりの金額が掛かっています。タイとの契約でも2008年に締結した6機の第一次契約は合計610億円、一機当たり、100億円程度はします。
そんなにしない、中古はもっと安い、という反論もあるでしょうが、中古は耐用年数が迫っており、購入に際しての近代化改修で機体価格の五割程度の費用が必要になり、十年単位でみればこれも安くはない。安く中古機を取得出来ても高い近代化改修予算と、数年おきに新しい機体を入れる事を考えると結局は高くつく。ただ、JAS-39は前線運用を元から考慮した航空機ですので、整備支援に必要な機材が非常に少なく纏められており、数機毎の分散運用も元から考えられているため、付随器材が少なくて済む、これが大きな利点といえるでしょう。
6機から最大で14機、JAS-39-NGを導入する場合、この規模が上限でしょう。いっそF-35の代わりに大量配備しては、という意見があるでしょうが、JAS-39は戦闘行動半径が小さく、現状の自衛隊基地に配備しては要撃体制が維持できません。また、F-35であれば2050年代の脅威にも十分対抗できる第五世代戦闘機としての性能を有していますがJAS-39ではこうした運用はできません。一機100億円前後のJAS-39-NG、しかし同時にF-35も必要で、ほかにも必要そうな優先度の高いものあるため、この機数でも厳しいのですが。
もしくはAV-8Bのような垂直離着陸機、正確には実用化されている垂直離着陸可能な戦闘攻撃機はハリアーしかないので、必然的にこのハリアー一択なのですけれども、この機体であれば、元々イギリス軍が欧州のソ連軍大規模侵攻に際し前線基地での運用を行うべく開発された機体ですし、米海兵隊がA-4攻撃機の後継として滑走路が使えない第一線での航空支援用に採用した航空機ですので、前線運用となる南西諸島での運用では、滑走路が破壊された場合でも運用が継続可能で、理想的な機体です。
ただ、生産が完全に終了しているため、イギリス空軍が国防予算削減のため早期退役させたハリアーGR7,その近代化改修型であるハリアーGR9について、中古機として部品取用に取得している米海兵隊との交渉が必要となります。部品扱いの航空機の形をしたものを作戦気にするのか、と色々な方に呆れられそうですが、このハリアーGR9ですが、製造元のBAEシステムズが当初2018年までの運用を契約していたもので、一部の機体は早期運用終了の僅か数年前に胴体換装改修を受けているので、一部は飛行可能なものもあるとのこと。
正直なところ、自衛隊には未経験の航空機で、制空戦闘を前提とした航空優勢確保を最大の任務として勤めてきた自衛隊、基地が破壊される危惧の産物で誕生したこのハリアー、全く運用基盤の無い航空機ではありますが、ハリアーは軽空母からの運用を念頭にスペインとイタリアへ、初期型はインドと、中古機がタイへ輸出され、少数機であっても運用が可能となっています。もっとも、タイへ輸出された7機のハリアーは予算不足で保管状態となっており、整備及び搭乗員といった要員の訓練が継続できていないようですけれども。
他方、ハリアーは既に性能的に過去のものとなりつつある機体ですので、将来のF-35Bへの置き換えを前提として海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦に搭載し、機動運用したほうが現実的ではないか、とも考えます。第一線機へAPG-65レーダとAMRAAMのみで対抗は、かつてハリアー艦上運用に求められた爆撃機の洋上迎撃という任務と比べ厳しいですが、艦載機は艦対空ミサイルが警告か撃墜かという狭まった選択肢しか無い部分に警告という運用の柔軟性を付与出来ます。もっとも、那覇基地のF-15戦闘行動半径圏内では不用ですが。
ただ、航空機そのものの運用基盤構築と併せ、例えば6機程度の少数機導入でも整備費用は1000億円に迫るものとなります。これにより、例えば弾道ミサイル防衛体制の整備延期、基地防衛装備の取得延期、新輸送機の取得数削減、次期練習機の導入計画延期、様々な弊害があるでしょう。加えて、南西諸島に飛行基地を創設する場合、既存飛行場の利用であっても、航空機整備施設の新設に既設飛行場の誘導路工事、騒音対策の住宅工事や周辺環境整備事業等に少なくない予算が必要となります。
多くの方は、予算の問題は十分配慮しなければ防衛計画そのものが破綻してしまうとの認識を持っています。無理な国防費の支出を続けてきた米軍が歳出強制削減措置の勧告を2012年1月に受けていたのですが、これをもととした五年間で4900億ドルの削減措置でも不十分であり、今年3月に予算均衡法に基づく1兆2000億ドルの強制削減措置を強いられ、大打撃を受けました。国防は何事にも優先されるべきとの視点から、必要な予算は必要なだけじゃぶじゃぶ使えると夢を見られている方がいますが、アメリカは上記の通りになりました。
現状の防衛費では、一割程度増額しても既存装備を定数代替することが難しくなってきています。必要な装備が不十分である現状で、新しい装備体系を少数とはいえ導入することは、果たして事業評価の面でどうなのか、特に那覇基地からのF-15で対応できる部分も大きいことから、そこまで先島諸島に部隊を配置させるよりは、那覇基地の能力を高め、併せて新戦闘機として調達されるF-35の配備数を造成することや、F-15の近代化改修の強化などを優先してすすめるべきではないのでしょうか。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)