◆大空に炸裂する焔!巻き上がる海面の白煙
訓練展示は機動航行展示に続いてIRフレアの発射展示へと転換してゆきます。舞鶴展示訓練詳報第八回は、IRフレアが海から、空から、投射される展示です。
IRフレア、赤外線誘導方式の誘導弾やFLIRカメラなどによる照準から回避する自衛手段で、レーダーを乱反射させるチャフ弾と共に、ミサイルの命中を妨害するソフトキルの方法として知られるのですが、同時に見栄えが良い展示でもありますので、撮影位置が右舷か左舷か、見極めて撮影位置を考えねばならない。
ミサイル艇はやぶさ、より投射されるIRフレア、上空で炸裂すると同時に添加剤付酸化マグネシウムが激しく燃焼し、多量の赤外線を放出、白煙とともに放物線を描きつつ海面へ落下する中を、はやぶさ型ミサイル艇が二隻並んで全力で高速航行してゆくところ。
発射薬で100mの上空へ投射され炸裂するIRフレア。赤外線誘導方式の誘導弾、そして艦艇に搭載されている熱画像方式の照準器にミサイル艇が照準された場合、搭載する前甲板の76mm砲で反撃すると共に、ミサイル艇は小型であり小型ミサイルや砲弾一発の被弾が致命傷となりかねないため、良く残るためには、まず自らが受けている照準から逃れなければなりません。
ミサイル艇うみたか、既にIRフレアは海上に落下し、激しく燃焼を続けています。このIRフレアはソフトキルと呼ばれるのは前述の通りですが、攻撃を受けた場合、例えばミサイルが接近する場合に対処する方法は二つあります、一つは妨害電波や金属片に赤外線を放出してミサイルを逸らすソフトキル、もう一つがミサイルそのものに艦対空ミサイルや砲弾か大量の機関砲弾を集中させ破壊する、これがハードキルというもの。
ハードキルを行うには、シースパローやESSMといった短射程ミサイルを用いるのですが、この為には重量のある発射装置に複数の目標を感知する一定以上の索敵力を持つ対空レーダ、これらの情報から最優先目標を選定し迎撃する射撃指揮装置を搭載する必要があり、これを搭載するのは駆逐艦やフリゲイトのような、つまり護衛艦規模でなければならず、ミサイル艇には搭載できない。
こうした理由からミサイル艇はソフトキル手段を重視しているわけです。IRフレアは、テルミット効果にて激しく燃焼する酸化マグネシウムへ、ミサイル艇のエンジンと同じ赤外線特性を発する添加剤が加えられており、これを連続投射することで赤外線を追尾する照準装置や追尾装置はどれが囮でどれがミサイル艇か判別できなくなる。
照準には赤外線と共にレーダーによりミサイル艇を狙うものがありますが、ミサイル艇にはIRフレアとともにチャフ弾として金属片を上空に散布し、レーダーの光点を霞掛ったように妨害する装備が搭載されています。そして電子線装置による妨害電波により、対艦ミサイルを攻撃することなく回避することが可能、となるはず。
かなりの白煙を棚引かせるIRフレアにより、満載排水量4800tの護衛艦あまぎり、も隠れてしまうほど。ソフトキルはミサイルを撃破するのではなく回避するので、一見非力な印象がありますが、例えば1973年の第四次中東戦争のラタキア沖海戦ではイスラエル海軍ミサイル艇隊がエジプト海軍ミサイル艇隊と交戦した際、ソフトキルによりエジプト側が発射したソ連製対艦ミサイルを尽く逸れさせ、逆にイスラエル側の対艦ミサイル攻撃によりエジプト海軍ミサイル艇隊を全滅させたことがあります。
護衛艦あまぎり。対艦ミサイルを搭載するミサイル艇は、1967年の第三次中東戦争でイスラエル海軍の駆逐艦エイラートがエジプト海軍魚雷艇掃討中に同海軍のミサイル艇よりソ連製ミサイル攻撃を受け、撃沈される事案があり、世界初のミサイルにより水上戦闘艦撃沈、エイラート事件として大きな注目を集めました。この為、現代の水上戦闘艦は、対艦ミサイルと哨戒ヘリコプターによるミサイル艇撃滅手段、ソフトキルとハードキルを備えています。
護衛艦のような水上戦闘艦は、元々駆逐艦、駆逐艦とは魚雷により巡洋艦や戦艦に挺身攻撃を試みる水雷艇を駆逐するもので、水雷艇はその後速力を向上させ魚雷艇となり、武装を魚雷からミサイルに改めミサイル艇に、ミサイルは魚雷艇対処を念頭とした駆逐艦を葬る能力を得ましたが、巡洋艦と駆逐艦は任務を対潜対空対水上に統合させ対抗手段を整備しつつ今日の水上戦闘艦体系を構築、イタチゴッコのように見えるのは当方だけでしょうか。
大型護衛艦に対し、ミサイル艇が挑むのは指揮官が稚拙で不用意に沿岸の入り組んだ地形に近づいた際に奇襲する時くらいですが、輸送艦など上陸を試みる船団に対しては有効ですし、敵の水上戦闘艦に対し、ミサイル艇を我が方が保有していれば、安易に我が沿岸に近づかせないという抑止効果があります。さて、続いてヘリコプターのIRフレア発射展示に向け陣形を組み直し、前へ。
ソフトキルの展示と共に、思い出すのは今年1月31日に中国艦が我が護衛艦ゆうだち、に対し射撃管制レーダを照準した事案です。もしかして、チャフ弾発射などのソフトキル手段を我が方に強いて、ソフトキルとはいえチャフ弾を砲弾と言い換え我が国を貶め、開戦の口実を造る意図があったのでは、ということ。
冷静な海上自衛隊に対し、中国海軍は逆に射撃動作である射撃管制レーダを平時に用いたことを世界に暴露され、過去にも台湾空軍機に対し同様のことを行っていたことを含め世界に危険な国、もしくは中国海軍が前線指揮官が旧帝国陸軍並みに勝手に戦端を開き開戦しかねない無統制集団であることが広く世界に露呈、世論戦は中国が日本に完敗してしまいましたが。
SH-60哨戒ヘリコプターによるIRフレア発射展示、航空機は、短射程空対空ミサイルが基本的に赤外線誘導方式により照準し追尾するため、IRフレアの散布能力は現代戦においてその生存を死活的に左右します。機体に搭載するセンサーはミサイルのような機動性を有する赤外線放射物体が高速接近する兆候を捉えると機内に警報を発し、ソフトキル手段により回避を行う。
閃光と共に発射した瞬間の様子。ヘリコプターにはIRフレアとともにチャフも搭載されており、迅速に連続投射することで攻撃を回避します。一方で、護衛艦などに搭載されるハードキル、つまり接近するミサイルを物理的に破壊する手段は現時点では航空機に搭載することはできないため、この手法で回避するしか生き残る手段はありません。
連続発射されるIRフレア、最近のミサイルは赤外線を一発投射しても誤魔化せません、昔のミサイルなどは航空機の熱源と太陽の熱源を見誤り、太陽に向かって航空機が回避するとミサイルが、どうせ一発きりのミサイル人生、最後に狙うなら大物と太陽に向かって推進剤が尽きるまで飛んでいくこともありましたが、最近のミサイルは一発程度の赤外線妨害では見破るため、連続投射して赤外線囮の面を構成して回避する必要があり、こうして次々と発射する展示が行われます。
こうしてIRフレア発射展示が完了しました。大昔であれば3インチ連装砲の射撃展示で水平線が水柱に包まれたのですが今の3インチ砲は射程が大きく射撃は不可能、ボフォース対潜ロケットが海面を火山の如く弾けさせたのですが現用のアスロック対潜ロケットはこの狭い海域では展示が出来ず、このまま艦隊行動展示となってゆきますが、こちらは次回の紹介としましょう。