◆沿岸監視隊100名の駐屯地に26ヘクタール
防衛省の小野寺大臣は与那国町が要請する自衛隊駐屯に関し、用地借用の費用の面で折り合いがつかず、駐屯地設置への見直しもあり得る事を26日の記者会見にて表明しました。
与那国島は日本列島の最西端、台湾に近く、仮に台湾有事となれば最も影響を受ける可能性がある離島で、この与那国町は予てより自衛隊の駐屯を求めてきました。このため、防衛省でも2015年度末までに100名の隊員から成る沿岸監視隊を与那国島へ配置、警戒強化を行う方針を固めてきたわけです。
南西諸島も守りは、第15旅団や沖縄基地、南西方面航空混成団と沖縄本島に集中しており、これまでは宮古島にレーダーサイトとして宮古島分屯基地が置かれているのみでした。このため、先島諸島へ自衛隊の配置は長く課題となっていましたが、主としてその中心にある石垣島や既に分屯基地が置かれる宮古島への配置が念頭に置かれ、与那国島は求めがあったからこそ検討の筆頭に登ったといえるでしょう。
しかし、借地料を巡り与那国町と防衛省の調整がうまくいきません。防衛省によれば、与那国町より26ヘクタールの用地借用に際し、当初年間500万円の借地料を検討し、併せて敷地造成費用と施設設計費用に移転補償費を加え10億円の予算を計上しているのですが、与那国町は年間1200万円の借地料に加えて10億円の迷惑料を要求しており、このため妥結点が見いだせない状況となりました。
迷惑料10億円というのは、誘致した側が求めるのに少々理解が難しいところで、10億円はUH-1一機分となり、これを毎年計上するとなってしまっては、とてもではないですが予算が持ちません、その10億円でUH-1を毎年一機購入して那覇駐屯地へ配備するか、掃海艇を数隻取得し勝連の沖縄基地に掃海隊を配置、一隻を与那国沖に遊弋させた方が効果的でしょう。
ただその一方で、防衛省が借用する26ヘクタールの用地は100名規模の沿岸監視隊用地としては少々広すぎるのではないか、と考えます。第3師団司令部が置かれる千僧駐屯地が16ヘクタール、第10師団司令部の置かれる守山駐屯地が18ヘクタールですので、26ヘクタールとは1000名規模の部隊が駐屯する敷地に匹敵する規模なのです。
この26ヘクタールですが、広くなった背景にはどういったものがあるのでしょうか、小口の借地が自治体により認められなかった可能性、または、防衛省が広めの駐屯地として広い用地を求めた可能性、考えられるのはこの二つ、ほかには本来別の工場やホテルの誘致計画があり、この代替として用地を一括して提示した、というところでしょうが、現時点ではどういった背景かはわかりません。
防衛省では、航空自衛隊の移動警戒隊、レーダーサイトが機能不随になった際供えての車載式レーダーサイトを展開させる用地を含めて26ヘクタールを借用する構想のようですが、現時点の100名の駐屯を見込む駐屯地でも、26ヘクタールでは警衛に10名程度、一割が常時警備に必要になってしまいます。
ここで疑問なのは、将来的に与那国島の駐屯部隊を増勢する計画がどの程度あるか、ということです。26ヘクタールですが、情勢悪化により移動監視隊を展開させるよりは常設の防空監視所を置いた方が理想的ですし、基地防空隊や、高射隊を配置する構想、陸上自衛隊は沿岸監視隊を将来、与那国警備隊へ格上げする意図あるのか、ということ。
実際問題として、与那国島は過疎に悩む自治体であり、与那国町としては自衛隊駐留を経済の起爆剤としての効果を期待しており、自衛隊からの迷惑料10億円を以て離島医療や学校教育の給食代無料化など様々な施策の財源としたい要望を提示しています。ただ、防衛省側が過度な負担を行うことはできません。
当然の話ですが、100名規模の駐屯地に対して10億円の迷惑料を負担する前例等行ってしまえば、全国の自治体の中で財政に悩む自治体が同等、もしくはそれ以上の迷惑料、もしくは理解料などを要求してくる口実ともなり、そもそも理解がある地域だからこそ駐屯するという大義名分も失われてしまうでしょう。
他方で、離島侵攻への備えを行う一方で、離島振興の重要性も理解しなければなりません。限界集落のような状態となっては離島は人が住むことこそ一つの防衛ともなるわけですから、この点は重要でしょう。ただし、離島振興は政府の責務であっても、防衛省の任務ではない、という事を認識する必要がありますが。
離島防衛はりけんではありません、防衛政策です。離島振興を目的とした口実のために自衛隊の駐屯地をもめる、というのでしたら、防衛省はお帰り下さいと自治体の方に丁重にお願いするほかはないでしょう、ただ、自衛隊が駐留することによる経済波及効果が地元に恩恵をもたらす、という事でしたらば、これを回避する理由はありません。
少々下世話な話ではありますが、自衛隊の駐屯は給食業務への納品を始め、一定の経済波及効果があり、特に家族と共に駐屯する場合、官舎からの地元商店街への需要拡大なども考えられますし、補給の船舶の接岸に伴う港湾使用料や空港の着陸料など、波及効果について、実のところ少なくないというのが実情です。
与那国町としては、実利をあからさまに求めるのではなく、長期的な視野に基づいて、駐屯部隊規模の将来可能性についても含め、考えてほしいところですが、現時点の法外ともいえる金額の要求が続くのであれば、沖縄本島の部隊の緊急展開能力強化、艦艇の増勢等の手段を採り、予算に見合った範囲内で防衛得揖斐を強化するべきだ、と考えるものです。
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