北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南海トラフ地震政府被害想定は最大被害で220兆円規模、東日本大震災の10倍

2013-03-19 12:12:26 | 防災・災害派遣

◆死者32万3000名、全壊・焼失238万6000棟

 政府の南海トラフ地震対策検討有識者会議は、南海トラフ地震が最大規模のM9.1で発生した場合での被害想定を220兆円と算出しました。

Img_4493 地震被害の想定は出されましたので、この最大規模の想定に基づき、防災計画を構築してゆけば、少なくとも今後我が国を千年単位で襲う巨大地震に対しても十分な対応を行うことが可能、という意味を持っており、いわば想定外の事態を起こさせない、という観点から受け止める必要があるでしょう。

Aimg_3277 既に南海トラフ地震は、昨年までの政府被害予想で、最大規模の発生の場合、現状の防災体制の下では、死者32万3000名、建造物全壊及び焼失が238万6000棟と算出されていますが、避難体制を完璧なものとすれば死者数は3万2300名まで減り、家屋全壊及び焼失も耐震補強により半分の119万棟程度まで減らすことが出来る、とのこと。

Bimg_3178 現状の防災対策は、緊急物資輸送は道路が完全に使えるという前提で民間トラック輸送体制が有事を想定、遠隔地の港湾施設の損耗を考えず物流体制の復旧を想定、航空管制の破綻を想定せずに航空緊急搬送が考えられるなど、大規模災害は複合的に社会インフラを破壊するという前提に立っていないものと言わざるを得ません。

Img_0334 今回の政府被害想定は、我が国では東海地方68.8兆円、近畿地方48.4兆円、四国32.4兆円、九州沖縄地方8.31兆円、中国地方7.1兆円、関東地方2.15兆円、北陸甲信越地方1.72兆円と算出され、交通寸断の影響は6.1兆円、製造業やサービス業の業務不能に伴う被害が44.7兆円、と算出されました。

Img_09_84 これらの被害は、ダメージコントロールにより大きく縮小することが出来ますから、この数字は現在の防災体制に手をこまねいていた場合の想定という事を理解するべきなのですが、例えば、東北地方と北海道以外の地域が大きく被害を受けるため、不足する物資の事前搬送体制や被災地域の山間部で山岳崩壊の可能性が低い地域への物資事前集積などは大きな意味があります。

Iimg_2029 また、物資の不足は派生語一週間で食糧9600万色、飲料水1億4500?の不足が現時点で見込まれています。前述のとおり、沿岸部の防災倉庫は津波で全損し、かなり内陸部まで、大阪では梅田や難波までが被害を受ける想定ですので、内陸部の防災拠点からどれだけの物資を運べばよいのか、ようやく数字が算定されました。

Img_0833 道路復旧は、ブルドーザーやホイールローダーに燃料などをヘリコプターで空輸し、孤立地域からも復旧工事を行えば物流を早く立ち直らせることが出来、具体的に不足する食糧を、最も必要とする都市部へもヘリコプターの空輸は震災関連犠牲者を少しでも少なくすることに寄与するでしょう。

Img_5777 空港機能は、中部国際空港、関西国際空港、高知空港、大分空港、宮崎空港が津波浸水、これは羽田空港と神戸空港や北九州空港が含まれていないため、沿岸部の自衛隊基地でも木更津駐屯地や築城基地が、現在松島基地で行われているような防災対策により生き残れる可能性を示唆しています。

Img_2865 上記観点から、防災予算の一部を防衛予算に上乗せする、もしくは他の省庁予算で導入する航空機を自衛隊が管理する、文科省予算で建造される砕氷艦のような方式が期待されるところです。防災予算の大義名分と共に軍拡をしようとしているのではないか、という批判もあるやもしれませんが、どちらも有事に代わり在りません。

Mimg_2478 むろん、ヘリコプター空輸能力に防災予算を用いて大型ヘリコプターを造成することが出来たならば、南西諸島有事において沖縄へ九州から展開できる普通科中隊の数が多少は増えることでしょう。水陸両用装甲車は震災の孤立地域救援へも役立ちますが、防衛にも役立つこと間違いありません。

Img_6037 施設科部隊の機動力向上は普通科の機械化とともに自衛隊の新しい課題となりましたが、震災においても民間建築会社が入れない地域で任務を遂行する上では必要です。東日本大震災では多数の救援へ展開したヘリコプターの航空管制に早期警戒管制機が初めてその威力を災害において発揮しましたが、これを造成するという事は有事の際にも役立ちます。

Img_2231 衛生科部隊の野戦医療や搬送以外の医師法で行動を禁じられ、救急車両は応急処置も殆ど制限されている現状において、各国軍が導入するような一定の医療行為を行い野戦病院までの命の時間を稼ぐ装備も震災対策を念頭に導入することが出来れば、これも有事に大きな威力を発揮できるでしょう。

Iimg_2726 通信も東日本大震災では各部隊の情報が十分把握できず、指揮系統の立ち直りに若干の時間を要しましたし、通信帯域の確保と野戦通信能力は震災対策として高めても国民の利益という観点からは損は少なく、小型無人機は一部普通科連隊で装備が始まりましたが、災害対策を念頭に防災予算を利用することも大局的に国民の生命を守るという観点からは同じことです。

Img_1961 実際問題として、東日本大震災では当然ながら機能として有事への対応を求められなかった平時の機能が有事に頑張りを見せたものの、限界が大きすぎました。例えば孤立地区の病院患者搬送にドクターヘリが使用されたものの三機で丸一日奮闘しても小型で半分以下しか搬送できず、夜間飛行できないため搬送を打ち切ったのち、自衛隊が夜間搬送に出動、数時間で残り全員を搬送完了した、という実績があります。

Img_3936 自衛隊のヘリコプターは全天候での運用を考え、大型でエンジン出力にも余裕があり、加えて夜間においても飛行することを想定しています。その分整備は煩雑で、取得費用も民間のドクターヘリよりもはるかに大きいのですが、緊急時の極限状態で飛べて任務を遂行することが出来る。

Iimg_1549 問題は、我が国が此処まで大きな有事という極限状態を想定できていなかったことから数に限界があり、自治体や警察消防では総力が大きいもののインフラが機能する前提での組織であるため、道路ひとつ寸断するだけで展開できず、浸水しているだけで通過できないという問題があるということ。

Iimg_4406 現在の防災体制は、日本の水準で世界最高水準のものが整備されている一方、現在の枠ぐみでもこれだけの被害が想定されるという事は、危機管理の枠組みが根本から再構築を迫られているという事に他なりません。もちろん、自衛隊に出来る事、自治体に出来る事の棲み分けも必要で、このあたりも含め、危機管理の在り方を再考する重要な時期を迎えている、こういうことが言えるでしょう。

北大路機関:はるな

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コメント (3)
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