北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑰ 装備統一化と更新の両立

2013-03-15 23:52:51 | 国際・政治

◆難しい非効率と効率の均衡点

 防衛装備品について、事業評価の観点から効率化が求められますが、そもそも軍隊は有意という究極の非効率への対処を行う、此処に両立の難しさがあります。

Simg_3698 旧式装備と新型装備、軍隊の装備体系は日々技術革新の連続で、十数年程度か装備によっては十年前後で世代の交代を迎えてしまいます。ここで、調達体系の効率化や弾薬などの共通化の面から画一化してしまうことが望ましいことは確かですが、画一化しようにもすべての部隊の更新は一挙に行えません。

Simg_5547 旧式装備であっても近代化改修によっては一世代程度ならば越えられる性能、部隊同士の連携により不足を補う共同交戦能力などの手段はありますが、それにしても限度というものがります。そして新しい装備を年々開発しなければなりませんので、更新頻度が遅れて行けば同一装備体系に複数の装備が混在してしまう。

Simg_4076 戦車で、例えば61式戦車に90mm砲ではなく105mm砲を搭載していれば74式戦車は必要なかったかもしれない、90式戦車をもっと研究し防御力を維持しつつ一割軽い45tに抑えていれば本土への大規模配備も、という仮定を行うことは正しいですが、しかし、当時の技術水準を考えれば実行すれば十年単位の制式化の遅れが出てしまう、事例背景を考えれば非現実的なものも多い。

Simg_2584 例えば、弾薬効率化を期して対戦車誘導弾の統一を行うにも、最初に制式化された64式対戦車誘導弾を半世紀改修し使い続けることは不可能ですし、79式対舟艇対戦車誘導弾の用途を半分の射程で弾頭重量も半分程度の87式対戦車誘導弾に補わせることは不可能です。

Simg_4477 もちろん、肩に担げて、射程が4km以上あり、追加弾頭で洋上の大型目標も一撃で破壊でき、という夢のような誘導弾が早い時期に開発されたならば、他の装備を調達する必要が無くなり、一挙に効率化を図れるのですが、なかなかそうした装備は開発できるものではありません。

Bimg_6146 例えば誘導弾共通化の事例として1971年に米軍で制式化されたTOWを挙げ、効率化の頂点のように考えられる方もいますが、米軍はそれまで大量に配備していたフランス製ライセンス生産のSS-11やSS-10対戦車ミサイルを全てNATOに供与することで装備を効率化しました。

Simg_6368_2 この方式は米軍の兵站系統を効率化することが出来たように見えますが、それまで大量に備蓄していたものを欧州に供与した訳ですので、例えば自衛隊が79式対舟艇対戦車誘導弾を大量に備蓄し、これを一挙に更新するためにさらに大量の新誘導弾を調達し、余った分を海外に用良する、とした場合、結局生産するミサイルは膨大なものとなるのですから、予算面では効率的となるのでしょうか。

Bimg_6026_2 即ち、現用の79式対舟艇対戦車誘導弾と87式対戦車誘導弾の共通後継装備は中距離多目的誘導弾です。二世代と三世代の誘導弾を師団・旅団対戦車隊と普通科中隊対戦車小隊にこの中距離多目的誘導弾が配備されることで統一化するのですが、仮に現有の79式対舟艇対戦車誘導弾と87式対戦車誘導弾、79式だけで150セットはありますが、中距離多目的誘導弾を一挙に400セット調達し、余った従来誘導弾を海外へ輸出する、こうした米軍が採ったような手段は、日本で受け入れられるのか、日本の予算でできるのか、ということ。

Bimg_0787 そして欧州では各国が第二世代誘導弾としてTOWを相次いで制式化したのですが、可搬性に限界がある各国は第三世代誘導弾としてもう少し持ち運びやすいミラン対戦車ミサイルを制式化、日本も担いで運べる87式対戦車誘導弾を開発しています。第二世代対戦車誘導弾が最初から軽量で運びやすい物ならば新型を開発せず済んだのですが、技術的にできないことを求めるのは酷でしょう。

Bimg_5596 そして対戦車誘導弾の種類を増やしたとされる96式多目的誘導弾システムは、光ファイヴァー間接誘導方式のこれまで異なる運用体系に或る、いわば戦術ミサイルシステムですので、これが増えた、という事は批判されるべきなのか、という気はしないでもありません。もともと普通科連隊の一部に或る対戦車中隊へは全国配備成った際にも96式の配備は考えられていない、師団対戦車隊が師団長最後の手札といわれた運用構想に依拠するものですので、これは対戦車用にも威力を発揮する多目的誘導弾、という認識が必要なのでしょう。

Simg_5926 地対空誘導弾についても、方面隊用の03式中距離地対空誘導弾やホークと師団旅団防空用の81式や11式短距離地対空誘導弾を護衛艦に搭載されているスタンダードミサイルSM-1とSM-2程度に中射程型と長射程型を共通性をもて開発できれば、理想的なのですが、どうしても運用体系が広域防空用と野戦防空用では異なります。

Simg_6393 それならば、携帯地対空ミサイルに8km程度の射程を有する程度に、スウェーデンのRBS-70等はまさにこれに当たるのですが、車載型と携帯型で共通化できるのでしょうが、勿論大型化しますので、携帯式とは言いつつも、長射程化は重量増大を意味し、三脚が必要になりとても長距離を携行できないものとなります。

Simg_2522 装甲車などでも、統一すれば量産体系は有利になることは認めるのですが、装甲車をどう使うかという視点から、例えば重装備を搭載するならば懸架装置や駆動系には相当の余裕が必要になり、調達費用も大きくなります。対して、余裕のない設計で行う場合共通化に際し搭載できる装備に上限が出来てしまうため、新型を開発する必要に迫られます。

Simg_1431 それならば、性能を割り切ったものと高性能を盛り込んだものとで、ハイローミックスとして区分したとしても、例えば狭い日本で運用するならば小回りが求められ、併せて防御戦闘で運用するならば車高の低さが求められ、協同する装備、戦車と協同する装甲車ならば泥濘の演習場で随伴できなければ使い物にならず、結局、似たような装甲車が開発されてしまう。

Simg_0073 どうしても一長一短になるならば専用装備を求めたほうが効率的なのではないか、とか、もしくは逆に実物を造り基本方を大量調達したうえで、その汎用性を、つまりどの程度ほかの用途に用いられるかを検討し、この範疇からこぼれてしまった装備を多種少数を専用として開発すればよいかなと、この論題も難しい。

Simg_1691 大量に装備するならば、安くて配備できるもの、という必要性は理解できるのですけれども、日本国内で運用するには、どうしても小回りが必要になります、そして小型さが必要となります。車体を小型化するだけではなく、一定規模以上の車両に小さな旋回半径を付与するには、どうしても足回りが細かくなり、これを無視しては日本国内で使えない装備になってしまうことを忘れてはなりません。

Simg_2001 数さえ揃えても、使えなければ意味がありませんので、効率化して多数を揃えるという行為そのものは、揃えることが目的なのではなく、揃えることで抑止力と防衛力に繋げることが目的、手段の目的化になっていないか、必要な性能を下回らないように注意する必要が出てきます。

Simg_7519 機動戦闘車や近接戦闘車用CTA機関砲に対しても、非効率的で機動戦闘車は従来型装甲戦闘車に置き換えるべきという指摘はありましたが、機動戦闘車が想定する対戦車戦闘に機関砲は通用しませんし、対戦車誘導弾では地形を選べる防御戦闘は別として機動打撃では使いにくいものがあります。

Simg_2983 CTA機関砲についても、歩兵戦闘車用に装備するものと、高射機関砲用に開発しているものですが、こちらは弾薬の共通化が目的で、将来的には偵察警戒車の25mm機関砲と自走高射機関砲用と装甲戦闘車用の35mm機関砲の砲弾を後継装備で共通化させるものです。輸出して量産効果を高める必要性ならば否定はしませんが、元から不要という論理には少々抵抗を感じるところ。

Simg_3976 防衛には様々な装備が必要となります。これを出来る限り共通化させることで量産効果を高めよう、という発想にはそこまで反対するものではありませんが、もともと防衛とは冒頭に記したように非効率であることを宿命づけられています、何故なら防衛、有事、これこそが通常の効率に関する論理がとおらなくなるのですから。

Sfile0599 なんとも、論理を固め終える前に考えつつ議論を展開してしまったところではありますが、防衛という政策の特殊性を考えさせられるところ。他方、そろそろこの特集も17回を数えましたが、まとめに掛かるべき時期ながら様々な論点が指摘され、もう少し続きます、どうかお付き合いください。

北大路機関:はるな

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コメント (11)
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