北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑱ コストとリスク、輸出論の疑問

2013-03-27 23:55:05 | 国際・政治

◆兵器見本市出展コスト・量産体制拡張リスク

 日本の防衛装備品ですが、輸出して量産数を増やせば安価になる、という意見は様々な方の間であるようですが、輸出に要するコスト負担を誰が担うのかという視点が抜け落ちています。

Iimg_4567 日本の防衛装備品は、例えば一部航空機や誘導弾、車両や火砲に水上戦闘艦や潜水艦、レーダーから暗視装置など、国際競争力に対応できるものは少なからずあると考えています、しかし、海外において装備品が採用され、輸出を行い量産を行うならば、この過程で生じるコストと量産のためのコストを誰が負担するのか、この議論が抜け落ちているのではないでしょうか。

Iimg_6790 輸出に関するコスト、これは海外の装備見本市へ出展する費用です。日本国内では広報行事として様々な式典などが一般に公開されていますが、これは主として自衛隊への理解、予算支出や隊員志願者への広報が目的のものです。対して、海外の識者や軍当事者へ装備を展示する機会は、総合火力演習くらいしか行われていません。

Iimg_2376 装備見本市、世界では各国の新装備や輸出用装備などを一か所に集め、商談を募る装備見本市が行われます。実は防衛装備品とは、国内で先方より商談を持ちかけてくるをの座して待つ商法では、相当特殊な装備でも売れるものではありません、やはり、海外の装備見本市に出展する必要が出てくるでしょう。

Iimg_4236 ただし、海外装備見本市において出展するためには、少なくとも装備を海外まで持ってゆく必要がありますし、装備品を実際に運用する展示には運用経験者を揃えて同行しなければなりません。これには少なくない費用が必要となります。商社の支援も考えられますが、防衛装備品はまず、海外に持ち出すことが難しく、加えて防衛装備品ですので企業の私物ではないという事も忘れてはならないもの。

Iimg_1616 自衛隊の支援を受ければ簡単だろう、と思われる方もいるかもしれませんが、自衛隊員を私企業の営利活動のために派遣する場合は、当然その費用を国費で負担することの正当性が問われますし、販路が確実か否かが不明確な分野に、防衛産業が支出することは、これも難しいのではないでしょうか。

Iimg_4102_1 これだけではなく、水上戦闘艦や潜水艦などは、海外見本市へ模型だけを出展するわけにもいかず、どうしても艦艇派遣を要することとなります。しかし、海上自衛隊の艦艇は稼働率の多くが海賊対処や哨戒任務などの実任務にあたっており、特に新鋭艦を簡単に外せるものではありません。

Iimg_4331 そしてこちらも当然の話ですが、艦艇は私企業の私物ではありません、もちろん、建造中の艦艇は企業のものなのですが、公試を経て防衛省に納入された時点で防衛省の装備品となるのですから、輸出用の展示に一隻海外へ派遣してくれ、という要請は、主体が私企業である限り不可能、国が主体とらなければ不可能です。

Gimg_1601 大量発注への対応、これが防衛産業における輸出コストで忘れられているもう一つの重要なものです。国内需要のみを考えた国産機は、その工場規模から年産数が大きくはありません。工場には規模があり、全体の生産数には上限があります、輸出により量産効果を高めるという視点の方には、この上限を超える発注がある場合にはどうすればよいのでしょうか。

Iimg_4945 もちろん、発注に合わせて工場を拡張する、これが最も考えられる対処法ではあります。しかし、一度に多数を受注しても翌年継続しなければどうなるのか、即ち一回行われる発注と同程度の継続した発注がなければ工場稼働率に影響しますし、工場拡張のコスト負担を回収できなくなる可能性があります。

Iimg_3271 航空機では、例えばスウェーデンのJAS-39戦闘機などは生産ライン維持のためにスウェーデン空軍が最新型のJAS-39グリペンNG生産ライン維持のために、空軍が60機の追加発注を行い、基本は海外へ売却を目指しつつ、達成できなければ開発生産国である自国が引き取る、という苦肉の手法で生産ライン維持を図りました。

Iimg_0818 特にミサイルなどの消耗品は、短期間に多数の発注が考えられます。この発注は数千発単位で、我が国では少数多年度調達が基本となっているため一見現実味がありませんが、一括調達を行う国では戦時備蓄を含め一括調達するため、どうしても数千発という日本では考えにくい数になってしまう。

Iimg_0166 そして一括契約となるので、為替変動や物価上昇率を慎重に見極めねばなりませんし、量産を開始した後でも引渡し前に政治情勢などによっては、もしくは性能面や仕様面などで、調達が中止となることもあり得ます。自衛隊が引き取り素直に数千発の戦時備蓄が出来た、と喜びたいところですが、予算面でいきなり負担できるものではありません。

Iimg_0657 量産ラインの維持にも費用を要しますし、いわゆるドタキャン、というような量産開始後の契約破綻は、どうしても国際契約では少なからず起こっており、要因に財政破たんによる調達不可能、大災害による復興予算捻出で契約無期限凍結、こういったものもありますので、安易に賠償金を要求、という構図も出来ない。

Himg_7055 大量の発注に対応するための生産ライン拡張コスト、発注後の情勢変化による納入不可能、これらリスクがありますので、安易に輸出すれば大丈夫、というはなしは成り立たないばかりではなく、私企業なので自己責任で、と政府が責任を回避するにも結局は国産装備品の質や費用に反映するものですので、誰かが、結局は国民の負担を介して担わなければならず、この視点を忘れないようにしたいところ。

Img_0833 そして輸出した装備品の場合は、定期整備などの面で関与し続ける必要があり、事業部設置や整備支援業務を行う場合、某欧州共通戦闘機の中東輸出に際して実際に生じたことですが、サービスマンがテロの標的となり犠牲になったこともあり、このリスクも考慮すべきものの一つ。

Img_8143 リスクは色々とあり、海外へ輸出することで、防衛機密となっている秘指定情報が海外の諜報機関に曝される危険は当然高くなりますし、輸出された装備品が第三国を通じて思わぬ国に譲渡される可能性もあります。アメリカなどは装備品輸出に際し、輸出対象国の防諜水準などを法改正などを条件として実施する場合がありますが、流石に防衛産業が私企業の立場から他国へ法改正の圧力をかけることはできません。

Img_4683 特に第三国への転売は、見極めが難しく、冷戦時代にはアメリカ製のヘリコプターで韓国軍や自衛隊でも使用されている機種が西ドイツのダミー会社を介して北朝鮮に200機もの数が渡り、北朝鮮では韓国軍塗装として攪乱作戦用に運用された事例があり、こうしたリスクを回避するためにはどうすべきかも必要となるでしょう。

Fimg_8012 こうしたリスクは私企業の手に余るものであり、国が主体とならなければできるものではありません。一方で費用が生じるものであることから、輸出としたことで却って日本国内の装備品調達費用が大きくなること、生産基盤が逆に維持できなくなってしまうことも当然考えられるわけです。

Bimg_1372 唯一の例外といえるものは、米軍装備品と自衛隊装備品を共同生産することくらいでしょうか、例えば弾道ミサイル防衛用装備品などは大量の需要が継続しますし、これならば、第三国移転で日本の敵対国への譲渡や生産に伴うリスクはある程度現実的な面で回避できるといえるかもしれません。

Img_2129 そしてF-35なども、後発参加国である日本が実際に今言われている条件を合意させたことが驚きなのですが、日本国内で生産するのですから、もちろん流動的なものはありますが、日本が調達するよりははるかに大きな数量が生産されることだけは間違いなく、調達費用圧縮という視点からは意義は大きいだろうと考えます。

Img_1377a このほか、アメリカで生産終了となったアメリカ製航空機のライセンス生産が日本で継続していた際に、日本から軍用を含め輸出された事例がありますので、アメリカが採用し自衛隊も運用している装備については輸出という手段が防衛装備品の調達費を低減する可能性は残っています。しかし、これ以外の条件では、どうしても生じるリスクや必要なコストをだれが負担するのか、結論を出さねば話を進めることはできません。

北大路機関:はるな

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コメント (3)
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