北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アフリカ中近東船団護衛 高まる脅威と任務増大へ“船団護衛P-3C航空隊”再編成の必要性

2012-02-28 23:23:06 | 防衛・安全保障

◆ホルムズ海峡危機ペルシャ湾船団護衛任務の想定

アフリカ及び中東地域での海上護衛任務増大に対し、海上自衛隊の哨戒機部隊に冷戦後廃止された船団護衛任務用の航空隊を再度編成してはどうか、と考えます。
Img_9535_1p 現在海上自衛隊は、100機を導入したP-3C哨戒機を東西冷戦構造の終焉に伴い、実運用機を80機程度とし、20機を待機状態として運用しています。冷戦時代には北方を睨む八戸航空基地、首都圏と太平洋正面の対潜哨戒を担う厚木航空基地、九州周辺海域と太平洋を警戒する鹿屋航空基地、そして南西諸島の警戒監視を一手に任された那覇航空基地に二個航空隊を配置、この四基地に八個航空隊を展開させると同時に、有事の際に我が国へ向かう船団を直接潜水艦脅威より護るべく船団護衛任務に充てる二個航空隊を配置していました。
Img_6654p これが上記の通り冷戦構造終結後、船団護衛にあたる航空隊が削減されたわけです。これは決して船団護衛任務が軽視された、ということではなく、それまでに運用していたP-2J哨戒機やS-2哨戒機と比較してP-3C哨戒機の対潜哨戒能力は非常に大きく、各航空基地へ展開する20機の哨戒機を以てその周辺の潜水艦の行動をほぼ制圧できる見込みが立ったため、船団護衛として上空に張り付ける必要がなくなった、という事情はあります。上空から潜水艦を探知するソノブイを散布し、音響情報を上空から収集、同時に機体の磁気探知装置による潜水艦の行動による僅かな磁気の異常や合成開口レーダーによる潜望鏡深度を進む潜水艦の兆候など精密と複合的に分析することで、よく表現された内容では一機で四国と同程度の海域を哨戒可能、とまで言われていたほどですから。
Img_9566_1p しかし、今日、哨戒機の行動範囲は日本の四か所の航空基地を大きく超えています。ジブチ共和国に現在海上自衛隊は航空施設を完成させ、ソマリア沖海賊対処任務へ3機のP-3C哨戒機を派遣しています。欧州全域から派遣できる哨戒機を掻き集め海賊への対処へNATOが取り組んだものの総数は3~5機程度、ここに確実に3機のP-3C、世界の基準では最も高性能な航空機を常時配置した、ということは大きな意味がありました。ソマリア沖海賊対処任務に加えてジブチ航空拠点から遠く離れたホルムズ海峡での船団護衛任務、海上自衛隊のP-3C哨戒機部隊は転換期を迎えつつあります。いや、既にソマリア沖における紹介任務を実施している時点で一つには迎えた、と言えるのかもしれませんが。
Img_1361p 80機のP-3C哨戒機、これでも一応膨大な規模とはいうことができます。アメリカは現在運用しているのが165機、アルゼンチン4機、オーストラリア18機、ブラジル9機、カナダ20機、チリ3機、ドイツ8機、ギリシャ6機、イラン2機、韓国8機、ニュージーランド6機、ノルウェー4機、パキスタン10機、ポルトガル5機、スペイン7機、タイ3機。アメリカと比較した場合にのみ、80と165ですから一見海上自衛隊は少なくも見えるのですが、全世界を相手に165機なのですから海上自衛隊としては世界の半分程度は哨戒出来る、と言えるやもしれません。
Img_6052p このほかに世界には何種類か対潜哨戒が可能な哨戒機があります、アメリカ製S-2,ロシア製Il-38,ロシア製Tu-142,フランス製アトランティック、イギリス製ニムロット等。しかしS-2は空母艦載用の小型機でアルゼンチン4機、ブラジル3機、空母には載せていませんが台湾が24機、ウルグアイ1機。イリューシンのIl-38はP-3Cに対抗してソ連が導入した航空機でインド5機とロシア30機。爆撃機ベアを改造したTu-142はインド4機、ロシア33機。ダッソーアトランチックではフランス22機、イタリア18機、パキスタン2機。そして世界最初のジェット旅客機コメットを改造したイギリスのBAEニムロッドMRA4は9機。あとは中国が対潜哨戒飛行艇としてSH-5というのを4機保有しているくらい。
Img_1148p 欧州全体でP-3Cは30機、他の機体が49機ですので合計79機と海上自衛隊の80機をやや下回ります。ロシアは爆撃機改造の航続距離が大きなものがありますが63機、中国に至っては一応国産の新型を開発しているとも言われますが現状では4機と、物凄く少ない実情。なにぶん、P-3Cは2~3機の取得費用で4000t級大型水上戦闘艦と同程度の取得費用になり、物凄く高価ですので、日本のように第二次世界大戦中に潜水艦により海上交通路を徹底して破壊され、餓死寸前まで追いやられたという血の滲む経験が無ければなかなか100機、という数字は為し得なかった、と言えるでしょう。
Img_2284p 100機あったP-3Cについて、20機が削減されましたが6機が電子偵察機や特殊用途用の機体に改造され94機が配備、このうち80機を運用し、残る14機を休止状態としているのが現在の海上自衛隊です。この意味は、まず運用に必要な要員を別の任務に充てることで人員不足の中での充足率の完結をめざし、加えて休止する14機分の運用費用や定期整備にかかる費用を削減することが出来るほか、休止状態の機体を順次実任務の飛行時間が大きな機体と入れ替え続けることで飛行耐用時間を節減し長期間運用が可能となる、こういった利点があります。
Img_5987p しかし、この14機のなか、10機を以て一個航空隊を再度編成し、アフリカ沖での船団護衛任務に充ててはどうか、ということは艦が和えとして自然ではないでしょうか。現在はジブチへのP-3C哨戒機派遣は全国の部隊からP-3C哨戒機を集め、実施しています。現状の派遣規模であれば、対応できるのですが海賊対処任務に加えてホルムズ海峡での船団護衛任務の可能性が出ているため、特にホルムズ海峡はジブチ航空拠点からかなりの距離があり、実質厚木航空基地から沖縄南西諸島を警戒監視するようなものとなりますので、2~3機の増強では対応することが出来ません。ところが、ジブチ航空基地に新しく海上自衛隊航空隊を配置したならば、10機のP-3C哨戒機が配備されれば話はかなり変わってくるでしょう。
Img_4341p もちろん、ソマリア沖海賊対処任務であれば万一の事故に際しては護衛艦からの救難を受けることが出来ますが、ホルムズ海峡となれば話は変わってきますので、新たに救難ヘリコプターを増強しジブチ救難隊、というような部隊を置かなければならなくなるやもしれません。派遣する航空機が多くなれば必然的に補給物資の日本からの空輸にも問題は出てくる。ただ、船団護衛の任務について、その重要性がかなり大きい、ということもまた事実、こうしますと冷戦後、船団護衛任務に充てる航空隊を廃止しているのですが、既存の航空哨戒体制からは一歩進んだ船団護衛任務が、冷戦時代全く考えられなかったアフリカおよび中東において発生しているという現状、何らかの手を打たねばならないともいえるわけです。

北大路機関:はるな

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コメント (2)
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