北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

二方面作戦の陸上自衛隊国際任務 ハイチ派遣部隊長期化と南スーダン派遣緊迫化

2012-02-06 22:43:57 | 防衛・安全保障

◆南スーダン情勢悪化でロシア軍撤退方針

防衛省によればハイチ派遣国際救援隊の指揮官に新しく第25普通科連隊長の野村悟1佐が就くとのことです。
Img_9756国際連合ハイチ安定化ミッション:MINUSTAH、自衛隊の参加は当初2010年11月30日まで、という計画の上で部隊派遣が行われましたが、2010年11月に期間を2012年1月31日まで延長することが閣議決定されました。このため、もう間もなく帰国行事が行われるのだ、と思っていたところ、今年1月20日に新しい閣議決定が為され、2013年1月31日までの派遣期間延長が決まりました。
Img_4627自衛隊ハイチ派遣は人員規模で350名ではありますが、本部管理中隊150名、派遣隊本部30名、施設器材中隊90名、施設中隊80名。交代要員の訓練や待機を考えたならば、実質一個普通科連隊に匹敵する人員が必要な任務であり、何故ハイチ安定化がここまで長期間に及んでいるのか、見通しの甘さはもう少し事後検証されるべきではないでしょうか。
Img_4555南スーダン派遣、国連南スーダン共和国ミッション:UNMISSへ自衛隊の派遣が開始されました。南スーダン派遣へは施設大隊330名、支援調整所要員40名、加えて海上自衛隊から支援へ輸送艦一隻と人員170名、航空自衛隊より補給へ輸送機部隊が派遣され170名、こちらの派遣規模もかなりの規模と言え、南スーダン派遣とハイチ派遣、人員規模もさることながら補給支援の負担が過去の派遣任務と比較し大きいといえるでしょう。
Img_4557他方で、ハイチPKOとともに実施される南スーダンPKOは安全面の問題がかなり深刻です。南スーダンUNMISSへは、現在ロシア軍が輸送ヘリコプター8機と兵員120名を派遣し空輸支援任務を行っていますが昨年11月にヘリ部隊が攻撃を受け、この攻撃は南スーダン治安部隊からのものであったため、再発防止措置が徹底されない限りロシア軍は撤退する、と公言していました。
Img_0313そして1月17日にロシアのガディエフ外務次官はヘリコプター部隊の撤退を決定、ロシア軍であっても安全確保が難しく撤退せざるを得ないという実情が浮き彫りになっています。派遣されている8機のヘリコプターはMi-8/Mi-17で、自衛隊のCH-47よりも一回り小さいですが乗員24名と機外吊下能力4t、特筆すべきは57mmロケット弾発射機を搭載し戦闘輸送任務にも対応する生産数10000以上の傑作多目的ヘリコプターです。
Img_0885実は国連は南スーダンへ自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターの派遣を何度も要請してきています。防衛省が派遣に反対している理由は、ヘリコプターをアフリカへ展開させ、整備基盤を構築すると共に運用基盤を維持する、という任務は専守防衛を念頭に海外派遣を基本的に考えなかった自衛隊では不可能であるとの判断からでしたが、今回のロシア撤退決定を機に、更に強い要請が行われるのでしょうか。
Img_8285こうしたなか、実はスーダン派遣は非常な軽武装で行われる、ということが発表されています。スーダンでは昨年末から部族衝突が繰り返し発生しており、既に十万以上の国内難民が発生、更に国境を接するスーダンでも食糧危機が進行中であり、難民の発生が新しい国境地域の緊張要素になっています。
Img_6746この問題については国連は速やかな支援策が行われなければ20万以上の飢餓難民が発生するとして警告しています。治安の回復と難民支援が望まれるところですが、その能力が無いから日本がわざわざアフリカまで行くのでして、しかも独立間もない南スーダンでは神の抵抗軍をはじめ武装勢力が多数潜伏しており、極めつけは南スーダン軍の訓練が不十分で国連部隊であっても攻撃を仕掛けてくる事例があり、このあたりも不安要素として大きいですね。
Img_6789_2南スーダンUNMISS派遣部隊、9mm拳銃84、89式小銃297、MINIMI分隊機銃5、軽装甲機動車若干と車両計160両。ハイチ安定化ミッションMINUSTAH派遣部隊、9mm拳銃54、89式小銃305、MINIMI分隊機銃7、軽装甲機動車20を含む車両150、こういった定数が出されていました。
Img_4534もちろん、軽装甲機動車を除けば装甲車両は皆無で、南スーダン派遣部隊がどの程度軽武装であるのかを示す数ですが、住民暴動程度の脅威であるハイチ派遣部隊よりも武装勢力が存在し隣国が有力な機甲部隊にて圧力をかけてくるスーダン派遣の方が、若干火力が小さくなっている、というところをご覧ください。
Img_4424防衛省では南スーダン派遣部隊の警護はルワンダ軍が実施するとして安全性を強調しましたが、ルワンダ軍は自衛隊がPKOに展開し難民支援を行ったところ、続いてカンボジア軍が担当するという話になり、しかしカンボジアは日本がPKOで建国支援したところではないか、と不安になっていたところ。
Img_5285現在は田中防衛大臣の答弁によればバングラディシュ軍が担当するとのこと。ううむ、装甲化された一個普通科中隊や戦車小隊を派遣したほうがもう少しいいのでは、とも。同時に、発表が二転三転する、ということは緊急時の自衛隊警護について明確に決まっていないのではないか、という不安に帰結します。
File0845更に不安なのは、緊急時以外の警護部隊は決定していても暫時変更され、実際の緊急事態に際しては自衛隊の警護部隊が居なくなってしまうのではないか、という状況、特にロシア軍の撤退などとともに俯瞰するとこうした危惧は捨てきれず、しれならば自衛隊から戦車を派遣するか、むしろ陸上部隊派遣の見合わせと自衛隊機に加えチャーター機による物資空輸支援を行った方が、とも。
Img_7982しかし、最大の不安は現状の厳しい現状を政策決定者である首相が正しく認識しているのか、防衛大臣が緊急時に転じた場合の必要な措置を取れるのか、ということでもあり、こちらの方は現場が免職覚悟の政治判断を行わなければならないような状況にならないことを切に祈る次第としかいえません。
Img_0437ここまでの二方面国際任務、しかもアフリカと中米という遠隔地での任務が拡大し、今後も継続するならば、輸送艦と輸送機による支援体制の拡充、輸送艦8隻程度と輸送機についても大きく拡張する必要がありますし、緊急時に派遣部隊が最悪の状況に陥らないように、と考えますと、やはりAH-64D戦闘ヘリコプターを当初計画の60機程度、中央即応集団所要と教育所要を含め72機程度調達してもいいのでは、とも考えてしまうところです。
Img_0805ともあれ、自衛官の生命がかかっている問題です。海外派遣の広域化を行うならば部隊編制と人員充足率とともに展開能力を見直し、危険な地域への派遣を行うならば装備密度と近代化の前進と共に武器使用、特に火力行使の面での見直しを行うことは急務である、と考えますがどうでしょうか。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする