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パネッタ国防長官、海兵隊フィリピン駐留構想を発表 海兵隊部隊のローテーション配備

2012-02-15 23:45:23 | 国際・政治

◆普天間飛行場をフィリピンに移設できる訳ではない

 パネッタ国防長官が14日のアメリカ連邦議会上院公聴会において、海兵隊のフィリピン駐留構想を表明しました。

Img_0697fこの提案、一見普天間飛行場のフィリピン移設の可能性を残すような印象があるのですが、パネッタ国防長官が提示したのはローテーションで駐留する案、これで海外移転だ、という誤解が出てくる前に現時点の範疇では可能性は皆無、と記載しておきましょう。こういうのも、実はフィリピンを海兵隊基地として運用するには避けられない問題点が二つほどあるのです。勿論、後述する問題点を解決したならば可能性はあるのですが、現状の提案、海兵隊部隊のローテーションという範囲内ではありえない、という点をご理解ください。

Img_1598fこういうのも北大路機関では2010-01-18日付記事”普天間移設問題、グアム島の人口では現行案以上の米軍は引き受けられない”や2010-12-20日付記事”普天間飛行場名護市移設問題 菅総理、沖縄訪問するも具体的進展なし”という記事にて海外に移転するならばグアムやテニアンの可能性よりはフィリピンの方が高い、という記事を作成しているので、こちらの補足という意味です。基本的に沖縄県しかないのだけれども、移設先をどうしても考えるならばフィリピンか台湾国内のほうが九州よりは現実的、ということ。

Img_1431f まず第一に、フィリピン国内では海兵隊を輸送する揚陸艦の前方展開拠点佐世保基地から余りに距離があるということです。かつてフィリピンには空母二隻の母港としてスービック海軍基地がありましたが、ピナトゥボ火山が90年代の大噴火を起こし、この結果大量の火山灰により基地機能が維持不能となり放棄された歴史があります。仮に普天間を移転するならば、同時にスービック基地のフィリピンからの委譲が必要になるのですが、再開発が進み、別の港湾が必要、そしてその費用は日本側が要望するのだから全て日本持ちとして考えねばなりません。

Img_3656f 加えて、フィリピンの新基地へ揚陸艦を移駐させる費用を日本が捻出したとして、このポテンシャルを海上自衛隊が埋めなければなりません。そういうのも、アメリカ海軍の揚陸艦輸送能力は東日本大震災において陸上自衛隊の輸送支援に大きな力となり、この移転は次の大規模災害を考えるならば当然埋めなければならないからです。ホイットビーアイランド級揚陸艦三隻、ワスプ級強襲揚陸艦エセックス、少なくとも海上自衛隊おおすみ型5隻分に相当、特にエセックスは満載排水量40000tを超える大型艦ですので、比較できないほど有力です。

Img_3837f 元々海上自衛隊の輸送艦は現在大型輸送艦では満載排水量14000tおおすみ型が3隻、最低でも8隻程度なければ常時2隻を即応状態におき西日本と東日本で待機させる、というような運用はできません。ここに米揚陸艦のポテンシャルが抜け落ちるならば、おおすみ型輸送艦で10隻以上を増備しなければならないことになります。毎年二隻建造するとして追加で予算は800億円程度、毎年の運用費は艦建造費の一割と言いますし、乗員も地上要員とあわせ2000名の増勢、厳しいでしょう。

Img_0888f そしてもう一つ、嘉手納基地です。普天間や名護であれば嘉手納基地の第18航空団が沖縄周辺の絶対航空優勢を確保することが出来ます。嘉手納基地は有事の際には300機程度の増援を受け収容し整備し運用することが可能な極東の一大拠点、しかし普天間をフィリピンに移設した場合、フィリピン上空の航空優勢を嘉手納から維持するということは、余りに距離が大きすぎます。従って、海兵隊航空部隊と海兵隊地上部隊をフィリピンに移設する場合、空軍部隊と一緒に移設する必要がでてくることになります。

Img_0438o 実はフィリピンには米空軍クラークフィールド空軍基地が冷戦時代には置かれており、嘉手納基地を上回る最大規模の米空軍基地として運用されていました。F-4E二個飛行隊が常駐し、爆撃機や空母艦載機の重整備などを受け入れていたのですが、こちらもピナトゥボ火山の噴火による火山灰被害を受け、放棄されています。火山から35km離れていたのですが、十数km先まで火砕流が到達し、降灰は放棄の時点で基地を50cm近くまで埋めていたとのこと。こちらも返還後再開発が行われていますが、同規模の基地をフィリピンへ建設せねばなりません。

Img_3136o 佐世保の揚陸艦と嘉手納基地に匹敵する部隊の基地が連動して普天間飛行場を機能させているのですから、県外移設国外移設は問題が大きいのです。しかし仮に、第18航空団と同程度の航空自衛隊部隊を、例えば日比相互防衛条約というような条約を結び、新たに航空自衛隊が二個飛行隊を基幹とし、早期警戒機と空中給油機を運用する第9航空団、というような部隊を編成し、フィリピンに航空自衛隊北比基地、というような基地を構築して航空優勢を確保し、この基盤に乗じて米軍の移設をお願いする、ということは可能でしょう。

Img_0490もしくは航空自衛隊の戦闘機部隊を大幅増強して、嘉手納基地に匹敵する航空団と収容能力に見合った予備部隊の創設という手も、もはや空想の域の話ですが。ううむ、なにしろフィリピンの防空を担うなんて第二次大戦以来、集団的自衛権や軍事同盟を日米安保以外に締結するということ、憲法上の問題を全部無視しても、そしてフィリピン政府を納得させたとしても、航空自衛隊に南西方面航空混成団のほかに南方航空方面隊を創設しなければならないことに、もはや現実味を通り越してロマンの響きですね。

Img_1034 逆に言えば、そのくらい難しい、ということです。フィリピンは、空軍力が稼働戦闘機皆無で米軍から中古のF-16を購入しようとしており、海軍は第二次大戦中の駆逐艦に最近漸く米沿岸警備隊の大型巡視船を中古で導入し近代化している実情、海兵隊だけはゲリラ討伐に成果を上げているという程度です。ヴェトナム戦争を支えた拠点の一つは在比米軍でしたが冷戦終結にピナトゥボ火山噴火が重なり撤退した米軍という構図が中国軍の進出と共にここが軍事的空白地帯となることを受けての海兵隊ローテーション、ですから普天間基地の移設先の海外候補地になるわけでは全くありません。

Img_8934しかし、日本が主体となりフィリピン政府を説得し、数兆円規模の投資を行ってスービック海軍基地とクラークフィールド空軍基地の再生、自衛隊のフィリピン支援を行えば話は違う、というところ。どちらも辺野古移設や普天間維持と比べ非常に現実味がない話、ということになるわけです。もう一回バブルでも来なければ予算的に不可能な案。・・・、まあ、フィリピン移設を書いた記事に、いっそ台湾移設か中国本土に移設を社民党は頑張ってみては、とか書いています。社民党の福島さん、連立与党からは外れてしまいますが実現するために北京を説得してみてはどうかな、なんて過去の記事にも書いていますが、ね。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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