北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ホルムズ海峡危機 イラン海峡封鎖時には自衛隊によるタンカー護衛と哨戒機派遣を検討

2012-02-26 23:22:10 | 国際・政治

◆ジブチ⇔ホルムズ海峡=東京⇔尖閣と同距離

 ホルムズ海峡危機ですが、イランが封鎖へ実力行使へ出た場合には自衛隊を派遣すると政府は発表しました。

Img_0714 私事ながら当方、同時多発テロに起因するアメリカの対テロ戦争とともに、日本が明確に指示を表明し、インド洋対テロ海上阻止行動給油支援へ第一次派遣艦隊として佐世保基地を護衛艦くらま以下三隻が出港する報道を思い出しました。そして今回の報道、海上自衛隊が哨戒機と護衛艦を派遣してイランと軍事力で対峙する可能性、大石英司先生のシミュレーション小説”第二次湾岸戦争”は中学のころに読みましたが、まさか湾岸戦争の第一線、自衛隊が本当に参加することになるとは。

Img_7675 政府は海上自衛隊へホルムズ海峡を航行するタンカーへの護衛艦による護衛、そして本日新たにイラン海軍の動向を監視するべく哨戒機P-3Cの派遣を行う検討を行っている、こう発表しています。護衛艦は海賊対処任務により不足気味ではあるのですが、加えて哨戒機となりますと、海賊対処任務へジブチへ航空基地を創設しソマリア沖へ飛行させていますが、ジブチ航空基地からホルムズ海峡へはアラビア半島サウジアラビア上空を経由したとして距離は実に東京と尖閣諸島間に匹敵し、P-3Cの行動半径には含まれているものの、哨戒飛行時間は限られ、これは非常に無茶な要求と言えます。

Img_7941 開発中のP-1哨戒機であれば、行動半径は8000km、巡航高度が非常に高く一機当たりの哨戒範囲が広くなっています。海上自衛隊は日本周辺の哨戒任務、それも台湾海峡周辺を任務範囲に含めるか否かを念頭に航空部隊を編成してきましたが、海賊対処任務によるソマリア沖、そしてこれに加えてホルムズ海峡での航空哨戒任務が任務に加えられる、というのでしたが、防衛計画全般を大きく見直した、海外での任務を念頭とした部隊編制というものも、本土防衛とともに考えてゆかねばならなくなるのでしょうか。

Img_9551 自民党時代ではイランアメリカ関係の悪化に際しては石油開発などでイランと親密な関係にあった日本が仲介役を果たしてきましたが、現在の民主党政権は放置、結果類焼に至りつつあるもよう。何故ホルムズ海峡危機か、それはイランがアメリカの経済制裁へ対抗しホルムズ海峡の軍事的な閉鎖を示唆していることに起因します。その背景とは、について。イランは80年代から核物質の生成を続けています。このイラン核開発疑惑を契機として、アメリカは核開発施設への査察受け入れを強硬に主張しているということ。

Img_9536 核開発施設に対する査察が受けいられれない現状への対処法としてイランの石油に関する取引停止とイラン国内の金融機関による石油代金の決済を停止させる経済制裁を検討しているという構図があります。そしてイラン政府の関連団体であるテロ組織により恒常的に攻撃を受けているイスラエルは、イラン核開発による核兵器がイランが国是としてイスラエル消滅を提示している通り、明らかに自国へ向け使用されるとの懸念から近く航空攻撃などの選択肢を検討とされ、危機は高まるばかり。

Img_7783 このホルムズ海峡は、これまでも繰り返し掲載してまいりましたが、日本にとり重要な石油の輸送海上交通路で、ペルシャ湾とインド洋アラビア海を結ぶ唯一の海峡、ペルシャ湾にはアラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、クウェート、イラクとサウジアラビア産油地帯の石油積み出し港があります。加えて現在ペルシャ湾地域から液化天然ガスの輸入も多くを依存しているので、日本にとり、特に原子力発電を東日本大震災福島第一原発事故以降停止させている現状では日本の経済的産業的、そして社会的な生命線にほかなりません。

Img_1658 こうした観点から、政府としては石油の確保を行うべく哨戒機を派遣しなければならない、という状況は理解できなくもないのですが、能力的に難しいことはどうにもならない。行って帰るだけであればP-3Cは行動半径が6500kmあるのですが、行くことは哨戒飛行を行うためなのですから、哨戒時間は海域までの距離が大きいだけに短縮されることを意味します。すると、海賊対処任務へは3機の哨戒機を派遣しているのですが、距離が大きくなれば6機から8機程度を派遣しなければ哨戒任務を行うことが出来なくなることを意味するところ。

Img_6618 タンカー護衛への護衛艦派遣としても、今回はソマリア沖で行っている海賊への対処ではなく、正規軍への対処、しかも地対艦ミサイルシルクワームをイラン軍は運用していますので、護衛艦が自衛戦闘を行うだけではタンカーの護衛は不可能で、どうしてもイージス艦かターターシステムを搭載するミサイル護衛艦、最低でも僚艦防空能力を持つ最新の汎用護衛艦でなければ対応することはできません。狭い海峡ですので身動きが難しいですし、せめて上空の航空自衛隊戦闘機による護衛かトマホークミサイルが必要なのでは、と。

Img_3305 まだまだ増派は検討段階にしか過ぎないのですけれども、可能性として派遣航空機数が増大することは、自動的にジブチ航空拠点への補給物資が増大することを意味します。しかし、この話は、いやこの話も、というべきでしょうか、こちらで何度も繰り返してきたのですが、専守防衛として自衛隊の展開能力を整備してきましたので、元々海外での任務を想定していなかったことから戦略輸送能力が非常に限られており、増大する輸送需要を補うだけの余力、これが整備されない中では、少々無理な話なのではないのか、と。

Img_0406 そうなりますと、輸送能力というもの、海外任務の増大に合わせて強化されたものにしてゆく必要がありますし、いままで考える必要が全くなかった戦力投射能力、今回のイランによる緊張への哨戒機派遣という展開が十年前には全く考えられなかったのですから、さらに十年後にはF-2飛行隊かF-15飛行隊を海外へ派遣して戦力投射、というものが考えられるようになるかもしれません。場合によっては、数年後には支援戦闘機の海外派遣部隊が考えられるかもしれませんし、護衛艦に固定翼航空機搭載が真剣に議論されていることになるやも。

Img_7955 部隊編制も、現在の自衛隊の編成に加えて、中東方面統合司令部というような司令部を新たに編成し、国内の部隊から抽出した部隊を統合運用する、こうした必要性も出てくるやもしれません。ただ、現在は南西諸島防衛という新しい任務への対応へ自衛隊の能力を改めて再考する必要性が出ており、加えて朝鮮半島の緊張、北方脅威の再興という安全保障環境にあるのですから、予算的には厳しいものがあるといえます。多国間安全保障体制を憲法九条の枠を超えて考えてゆかねばならないのかもしれませんね。

Img_8106 正直なところ、此処までのリスクを冒さないことを考えて、原子力発電所の全面際あ道を行ってはどうなのか、とは思います。もともと我が国が原子力発電を歓迎した背景には、第二次世界大戦への日本の参戦、南方への侵攻が資源を求めてのものでしたから、原子力発電として資源の備蓄能力を高めれば、国際情勢に左右されて軍事的な関与を避ける、という観点から進められたのですからね。日本は採りうる選択肢が無限大にあるのですが、国民の安全と繁栄を担保するという前提では選択肢が限られてゆきます。しかし、向き合ってゆかねばならないことは確かと言えるでしょう。

北大路機関:はるな

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