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9.11米本土中枢同時多発テロから六年 日本を取り巻く環境の変化

2007-09-11 20:02:55 | 防衛・安全保障

■テロとの戦いが続く中で

 2749名の犠牲者を出した同時多発テロより六年、アフガニスタン、イラクへの対応によりアメリカの第二次大戦後に構築したシステムに歪が生じているが、今回は思いつくままに日本の安全保障と関連した環境の変化について記述してゆきたい。

Img_1178  2001年11月19日、アフガニスタンを根拠とするテロ勢力に対して展開される米軍の軍事行動を支援するべく、佐世保基地より、ヘリコプター護衛艦“くらま”を旗艦とする部隊が遠くインド洋へ派遣され、経空脅威が無いとはいえ、第二次世界大戦以来、旭日旗が戦闘地域へ姿を見せることとなった。

Img_6150  従来、海上自衛隊による後方支援といえば、湾岸戦争後における機雷除去任務、ガルフドーン作戦への掃海艇派遣や、輸送艦によるカンボジアPKO任務に際しての派遣部隊輸送、この他に大規模災害に際しての救援物資輸送や訓練の一環としての寄港、若しくは米軍との共同演習というかたちであったが、9.11以降、特に政策の一端としての海上自衛隊の運用は大きく変貌を遂げた。

Img_1275  S.ハンティントンの数年前の著書には、対テロ武力攻撃に際して日本も小艦隊を派遣したという旨の記述があったが、補給艦を中心とした一定の洋上部隊を遠くインド洋からアラビア海に恒常的に遊弋させ、任務に従事させる日本のポテンシャルを高めたことは確かであろう。

Img_0732_1  艦艇を恒常的に派遣するには、任務に就く補給艦、そして交代の為に往復する補給艦と、二隻が必要であり、この派遣任務と並行して従来の自国艦艇への支援を行う補給艦が必要となる。米海軍を別とすれば、それだけの補給艦を保有している国は少なく、五隻の補給艦を保有している海上自衛隊ならではの任務といえる。

Img_6337  テロ対策特別措置法の延長に対して、日本国内では民主党を筆頭に反対する声が賛成を上回っているとの報道が為されているが、専守防衛を国是とした日本が協力しているとのシンボルでもあり、他方で補給艦のローテーションが限界に近付いてきているという実情もあり、判断は難しい。

Img_6049  妥協案として、もっともテロ勢力による物資輸送や人員輸送に起因する脅威がどの程度であるかは不詳である為、完全な私見だが、日本参加というシンボルに重点を置いての洋上監視が目的であれば、P-3C哨戒機を一定数、インド洋の米軍戦略拠点ディエゴガルシア島に派遣し、洋上監視任務に従事させるという方法でも代替できるのではないか、と考える。

Img_9016_1 なお、民主党の一部が給油任務に代えて提唱しているアフガニスタンのNGOや復興支援への陸上自衛隊派遣であるが、韓国のキリスト教布教団体が武装勢力に拘束され死傷者が出た事例をみるまでもなく、対象とするNGOが限られている。可能な任務としては、目立たないように行動する少人数のNGOを特殊作戦群の平服隊員が武装警護するとか、コンボイの護衛など、戦闘任務に限られてしまう。

Img_7130 最も日本に求められているのはヘリコプター、特に大型ヘリコプターの提供である。4000㍍級の峰々が聳えるヒンズークシ山脈を越えることができるヘリコプターを多数揃えている国は限られている。ヘリコプター提供について内密に打診があったとの報道も為されているが、日本にできるのは多数保有するCH-47J/JA派遣ということになる。

Img_0189  同時に、ヘリコプターを護衛する戦闘ヘリコプターの不足も顕著である。4000㍍級の山の山頂から撃たれる重機関銃はヘリコプターには非常な脅威であり、欧州諸国は、国連安保理決議に基づく国際治安支援部隊(ISAF)を支援するために、アパッチロングボウ戦闘ヘリコプターや、最新鋭戦闘機タイフーンまで展開させている。部隊配備はまだであるが、陸上自衛隊のAH-64Dへの需要も高い。

Img_6832_1  ISAFの一員として派遣されたオランダ軍は、最新鋭自走榴弾砲Phz-2000を持ち込み、高い精度により武装勢力を撃退する上で効果を上げている。ロケット弾と異なり命中精度が高く、航空機よりも即応できる為、火砲は重宝されており、陸上自衛隊の99式自走榴弾砲は射程も長く、派遣を検討するべき装備である。

Img_0381_1  現在、アフガニスタンは武装勢力の勢力拡大により再び混迷状態にあり、施設科部隊による復興人道支援よりも、戦闘部隊による治安回復が最優先となっている。この点、冷戦時代の思想により導入された各種装備は重要な意義をもつのだが、危険も伴う。また陸上自衛隊は高山地域での訓練行った部隊が限られており、派遣については重ねて慎重な議論が必要となる。

Img_8544_1  海上自衛隊以外にも、以前であれば躊躇するような地域に対しても航空自衛隊の輸送機が派遣されるようになっている。イラク復興人道支援任務の一環として、航空自衛隊の輸送機派遣は継続されており、派遣可能な輸送機が小牧の一個飛行隊にしか配備されていないことから、航空自衛隊海外派遣の代名詞として任務が続けられている。

Img_8068  C-130H輸送機を補強するかたちで、現在川崎重工では次期輸送機C-Xの開発が進められている。C-Xは現行のC-1輸送機の後継として位置づけられている為、30機以上の調達が期待される。しかしながら部隊配備が為されるのはまだ先であり、当分は一個飛行隊のC-130Hをやりくりしてゆかねばならない。この点、補給艦や輸送機の増勢という問題も真剣に検討されて然るべきと考える。

Img_1224  そもそも、憲法九条下という抑制された環境の中において、航空自衛隊は第二次大戦において国土を爆撃機により焦土とされた経験からの本土防空、海上自衛隊もやはり先の大戦においてシーレーンを寸断され干上がった反省からの対潜任務に、陸上自衛隊は地皺を活かした遅滞戦術に重点が置かれており、国際貢献や戦力投射には不適な編成であったことから生じるものである。

Img_1035  冷戦後、いわゆる低烈度紛争に対しての国際貢献任務増加の可能性をうけ、脅威の多様化という環境変化の一環として装備や編成にも改編が行われ、従来の大規模地上戦闘に際しての敵機甲部隊対処から、ゲリラコマンド対処や低烈度紛争対処も包含した体系に移行している。

Img_0212_1  他方、自衛隊の装備体系や部隊編成を定めた防衛大綱の冷戦後二度にわたる改編により、戦車定数は半減し、特科火砲も定数で四割が削減され、かたちだけの戦車大隊や指揮官の階級からは連隊や大隊とするべきなのに、よくわからない特科隊、戦車隊という部隊が幾つかの師団や旅団で誕生し、急激な改編による諸問題が表面化しつつある。これで良いのか、と疑問が浮かばないでもない。

Img_2590  96式装輪装甲車に続く装甲車として、各種車輌をファミリー化させ、コスト低減を期して開発が進む近接戦闘車、その中で砲塔と低圧砲を組み合わせた装輪機動砲というべき機動戦闘車の開発も進められているとの事だが、結果的にこの装備の実用化を契機に、戦車を有しない師団や旅団が誕生するということだろうか。

Img_8070_4  しかし、冷戦時代のほぼ画一的な師団編成と異なり、一部師団の旅団化や師団編成の多様化を経た今日、東部方面隊のように実質二個戦車中隊しか機甲戦力を有さない部隊や、方面支援部隊に限界のある中部方面隊をみてみると、師団警備区を分けて方面隊毎に警備する従来の陸上防衛の体系自体も、場合によっては方面隊の再編も含め見直さなければならなくなる時期が来るかもしれない。

Img_0413_1  同時多発テロ以降、顕著に変わったのは日米関係ではないだろうか。高坂正堯の外交評論、その末尾の部分までを改めて読んでみると、ほんの十年前までは、米海兵隊員による連続少女暴行事件なども影響もあり、米国以上に中国が同盟国として適しているという世論があった。

Img_9649  しかし、今日では日米同盟を有史以来最も成功した同盟関係と、十年前であればNATOを表現する際に用いられた言葉が用いられている。米軍再編に際して、見直される前方展開拠点にあって、もっとも多くの戦略拠点を提供しているという点を差し引いても、前政権が培った日米関係の強化は、同時多発テロ以降の象徴的な変化である。

Img_9608_1  日米同盟については、特に軍事面では情報収集などの能力で大きく遅れをとる日本が、今後国際関係において活動を展開してゆく中で重要である。いわば自由貿易に依拠するアメリカは世界的な地域安定を必要としており、この点で紛争抑止は日本と利害が一致する。また、軍事以外の面では、国際通貨制度の維持にアメリカは日本を必要としており、双方が市場としての両国関係を必要としている。

Img_9055  また、対潜情報収集など、自衛隊と米軍の交流では、海上自衛隊創設と米海軍の関係を挙げるまでも無く大きなつながりがあり、自衛隊が独自に収集した情報と米軍が有する巨大なデータとの照合により、効果を発揮するものが多い。代替となるシステムを日本独自に構築するには天文学的な費用が必要となり、現実的に日米関係の強化は望ましい結果に進んでいるといえる。

Img_0033_1  この中でも、弾道ミサイル防衛に際しての情報共有は日本の死活的利益にかかわる問題である。大気圏外飛翔体を警戒する全地球規模の宇宙監視網を構築したアメリカと、データリンクすることで、弾道弾接近に対して迎撃までの時間的余裕を生むことができる。

Img_9651_1_1  弾道ミサイル防衛は、一歩進み相互確証破壊による核抑止秩序に際して、核兵器を保有しないという国是を維持しつつ核兵器による恫喝に拒否することができる、殆ど唯一の手段である。早期警戒網は弾道弾警戒用のレーダーサイト増強や、艦艇のレーダーによっても代替はできるが、現行では米軍の支援を受けるのが現実的な選択肢となるだろう。

Img_9471_1  しかし、米軍との一体化という内容にまで話を進めると、背景は少し変化する。C-1後継機には当初、C-17を推す声が高く、P-3C哨戒機の後継も米軍の新型P-8哨戒機の導入を推す声もあった。しかし、現在、川崎重工においてC-X,P-Xの国産開発は順調に進んでいる。

Img_9484  また、航空自衛隊が運用するF-4EJ改戦闘機の後継機選定で、米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F-22の導入が不可能となり、国際共同開発のステルス戦闘機F-35がF-4EJ改の退役に間に合わなければ、F-15EやF/A-18Eと共に欧州機である最新鋭のタイフーン導入という、米国系統以外の選択肢も有力となってくる可能性もある。

Img_3856_1  例えば欧州機である掃海輸送ヘリコプターMCH-101導入は、米海軍が開発中のSH-60派生型の掃海ヘリコプターとは異なる決定であったし、陸上自衛隊の主力多用途ヘリコプターUH-1Jの後継には、川崎重工や富士重工の新型機案や、川崎重工によるCH-101の派生型の検討も為されているとされ、米軍系統の装備から視野を広げた選定が進められている。

Img_0748_1  無論、米軍から学ぶべき点は多いのも事実である。こうした技術面などでは相互依存を行うのが通常であり、これは米国一辺倒からの脱却というような視野の狭い施策ではなく、プラスマイナスを含めた対等の議論や合意形成を行う関係に移行している過渡期の必然的な変更とみるべきであろう。

Img_7513  対して、冷戦後の低烈度紛争の拡大と、人道的介入という軍事機構任務の多様化に際して、軍事力とは一種の国際公共財であるとの視点が広まりつつあるようにみえる。即ち、軍事機構でなければ対応困難な人道的任務が増加する中で、相応の国力と、国力に比例した軍事力(日本の場合は防衛力)を有する国家は、相応の国境を越えた義務を有するという視点である。

Img_0770  東西冷戦下であれば、軍事力の保持は二元論でいうところの脅威に対応するという説明で事足りた訳だが、東西ではなく、多極化時代という国際情勢にあって、特にその戦力がどの方向へ向かっているかが不透明であるのは、周辺国の疑心暗鬼を誘発する。

Img_1762_1  自衛隊には外国に着上陸して侵略する能力は無い。決して過大評価をするつもりは無いが、正面装備だけをみれば、最小限度の数量で専守防衛を達成するという目的から、戦闘機の質や早期警戒管制機の保有、海上自衛隊の大型水上戦闘艦や潜水艦、哨戒機の数と質、陸上装備の大半を国産開発する能力は、中小国からは脅威と写ることも否定できない。

Img_5711_1  これを踏まえれば、日本の防衛力がどの方向に向いているかを公表する必要性は高い。先日、師匠より宴にて韓国の防衛力は明らかに日本に向いているでしょう、という冷やかし半分で話が出た。しかしながら仮に、日韓が日米のように相互防衛条約を結んでいれば、双方の軍事力がお互いに脅威を与えるという誤解を抱かずに信頼醸成が可能であろう。

Img_9110  新型護衛艦“ひゅうが”型を始め、防衛力増強を行う上で、国際コントロオルに自衛隊を参加させることは、予防外交の観点から大きな意義がある。他方で、これは集団的自衛権という憲法上の問題と鋭くかみ合う訳であり、集団的自衛権の解釈を一任されている内閣法制局が今後どのような解釈を生むかに注目する必要がある背景に、こうしたものがある訳だ。

Img_5766_1_1  テロとの戦いに際しての自衛隊の海外派遣常態化、や集団的自衛権の問題など、9.11を契機として日本を取り巻く情勢も大きく変貌し、自衛隊と関連する内容でも、以前であれば考えられないような次元での議論が必要となってきた。この点から目をそらすことは逆に問題であり、主権者として真剣に議論を積んでゆかねばならない事だけは確かである。

HARUNA

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コメント (4)
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