害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

吸盤

2010-01-24 20:41:20 | 自然観察

Thyreophagus_sp_deutonymph 観察中のムシクイコナダニの一種 Thyreophagus sp. は、仕事場でみつけたものだ。
ある微小甲虫を飼育していた容器内で、古い菌糸塊で細長いコナダニが増殖していた。最初は、コナダニのメス成虫と幼虫ばかりが採集され、ヒポプス(第2若虫)が現れないなと思っていた。先日、ふと飼育容器のフタの内側を調べると、いつの間にか多数のヒポプスの死骸が付着していることに気がついた。
ヒポプスには、胴体背面前方に一対の明瞭な窪みがあり、やや菱形気味の体形などからみて、やはりムシクイコナダニの一種だと思う。Thyreophagus_sp_front

コナダニ科のヒポプスというものは、理解しにくいことが多いダニの世界でも、ひときわ異質な感じの生き物だ。陣笠のような平たい体躯、太い脚、食物を摂れない退化した口器、胴体腹面後部の吸盤構造などの形態を有する種が多く、それらは大抵の場合、他の生き物にしがみ付いて移動するだけで、付着対象の生き物から養分を摂らないらしい。
こういうのは便乗といって、寄生と区別されている。実際に実体顕微鏡レベルで昆虫の体表を観察してみても、ヒポプスによる吸い痕のようなものは確認できない。
腹面後部の吸盤のほうは、光学顕微鏡で観察するといろいろな大きさの円盤が並んでいるのだが、観察しててもナニが何だかよく分からない。昆虫の体表に吸着するための円盤部分と、昆虫から離脱するときに役立つらしい可動の円盤部分があるということなのだが、ムシに付着するだけにしては、やけに複雑な構造にみえる。

ヒポプスは移動能力が大きいので、コンタミネーションの問題を起こしやすいってところも注意が必要。何かから検出されたからといって、その何かに最初から付着していたのかどうか怪しいこともある。毒ビンで殺した昆虫の場合は、特に要注意と思う。Thyreophagus_sp_sucker