ササなどの枯れ茎を束ねて林内に置いておくと、そこに微小甲虫類がどこからともなく集まってくる。Acleris氏は、神戸市の裏山に自分で仕掛けたササ束から、いくつかの動くケシ粒のごときものを本年10月13日に回収してきた。
その中には甲虫の幼虫も混じっていたが、見慣れない丸いムシが羽化してきた。2巻ムシかなと思うけれども、なにコレ?ってことで、そのムシと写真を頂いた。以下の写真は、ふ節(右前脚)の透過光撮影以外は、すべてAcleris氏撮影の写真である。
ただでさえ、特徴をつかみにくい小型種なのに、体を丸めて脚を引き込んだ外観では私も分類不能だった。このムシを、紆余曲折しつつ同定してみた。
体長が1.1mmで、触角も付節も細くて見にくい。触角先端の球かんは2節っぽい。前脚-中脚-後脚のふ節は、3-3-3。
私的昆虫分類キーによれば、丸いムシでこれらの特徴があれば、3巻ムシのマルテントウダマシ科になる。でも、触角や胸部腹板をみていると、ヒラタムシ上科に含まれるとは考えにくい。
発達した後脚基節は、飛行機の翼のフラップみたいな形状で、腿節を覆い隠すことができる。こんな構造は、マルハナノミ上科 Scirtoideaのあたりの種でみられる。
甲虫図鑑1巻の検索でマルハナノミ上科の検索をあたってみても、ふ節が3節という特徴を含む科を見つけられなかった。
DELTA http://delta-intkey.com を見ていると、タマキノコムシモドキ科 Clambidae に近い種が載っていた。
改めて甲虫図鑑2巻のタマキノコムシモドキ科の頁を見ると、図版は無かったが解説のところで、ちゃんとふ節が3節の種が見つかった。最初から、2巻だけじっくり読んでいればよかったと思った。
結論として、ミフシタマキノコムシモドキ Acalyptomerus asiaticus Crowson, 1979* と考える。
スリランカの標本で記載された種で、日本での記録は多くないが広い範囲で採集されているようだ。菌食性らしい。
(*日本で採集された種の同定には注意が必要と、てる氏のコメントを頂いた。正確な同定には交尾器の確認をしなければならないようだ。このブログの個体の交尾器は未検討だが、暫定的に種名を記しておく。)
ハッキリそうとは断言できないけれど、本種の幼虫と蛹とおもわれる写真も撮影されていたので参考までに紹介しておく。
久松(1985)の甲虫図鑑IIでの海外分布の記述も、おおむねこれに依拠しているのだろう。
その後、Endrody-Younga (1998)は新しい標本も加えて再検討し、3新種を追加した。確定された分布は;
A. asiaticusはスリランカ、インド(マドラス)、マレーシア(キャメロンハイランド)、タイ(Chiang Rai)、ジャマイカ(50頭、1956年採集)。
A. africanusはケニヤ(モンバサほか)、レユニオン。
A. americanusはパナマ、ベネズエラ。
A. herbertfranziはコスタリカ、エクアドル、ペルー、ヴェネズエラ。
つまり再検討後の日本のAcalyptomerusの種は正確に同定されていないと思います。わたしは2004年に初めて茨城県土浦で、開放された納屋に放置された藁積みから自己採集しました。生物顕微鏡を使う機会が無いので勘でasiaticusと同定してあります。酷似するA.africanusとは♂交尾器をみないと確実には同定できないようですが、それ以外のものとは複眼の外縁が丸いこと(vs.突出する)で明瞭に違います(ところで、当該論文ではこの複眼の図が入れ違っていると思われるので要注意)。ブログで示された画像は、複眼が丸い(asiaticus/africanus)と思います。
幼虫についてですが、示されたものからは正直なところ分かりません。ササを集積したトラップということで、外観の類似したMychothenusの幼虫も考えられます。しかし、成虫にまで羽化させられていること、触角の様子と体表面のぶつぶつ(そこから毛が生えている)から、やはりAcalyptomerusの可能性が高いように思われます。
長々とコメントしましたが、上のように成虫は必要分を所持しているのですが、結局幼虫を見つけられませんでした。2、3頭新たに採集して、参照用に分けてもらう(よう採集者に頼んで頂く)ことは難しいでしょうか。
採集者にくだんのムシの幼虫を追加してと頼んでみました。
「裏山では、人が欲しがるムシは、なぜか二度と採れないの法則があるが、みかけたらおさえておきます。」との返答でした。
実は私も幼虫の頭蓋部の破片が残っているはずだから、脱皮殻を頂戴と頼んでいたのですが、「同居しているヤスデに食べられたみたい。」との返答でした。その容疑者については、遠くに投げ捨てておくよう要望しました。
広域分布種の再検討の時に日本産の標本が含まれていないというのは、他の種の研究なんかでも目にすることがありますが、なんだかとても残念な気がします。正確な同定には交尾器ですか・・・やはり(めまい)。とりあえず、ブログ記事の和名・学名はそのままにして、注釈を付加しておきます。