イエシロアリの駆除現場から巣(あるいは分巣)の一部を持ち帰って、コンテナボックスなどに放り込んでおくと、ときおりコナダニ系のダニが湧いてくる。
以前は、野外性のコナダニ団など分かるはずもないし、標本をつくろうなんて気も起きなかったが、この頃は心境が変化して、次に見かけたら背を向けずに向かいあってみようと気に留めていた。
以前は、野外性のコナダニ団など分かるはずもないし、標本をつくろうなんて気も起きなかったが、この頃は心境が変化して、次に見かけたら背を向けずに向かいあってみようと気に留めていた。
10日ほど前に、イエシロアリの分巣のかけらを手に入れた。
巣のかけらには、わずかな働きアリと兵隊アリが残っているだけだったが、霧吹きで水をかけて保管しておくとヒゲダニが現れた。
成虫の体内にはグアニンの結晶が詰まっていて、真っ白にみえる。
巣のかけらには、わずかな働きアリと兵隊アリが残っているだけだったが、霧吹きで水をかけて保管しておくとヒゲダニが現れた。
成虫の体内にはグアニンの結晶が詰まっていて、真っ白にみえる。
この手の人間社会が求める実用性と何ら関わりを持たない微小生物の名前を調べようとすると、驚くほどの艱難辛苦にみまわれることは分かっているけれども、ちょっとは心当たりがあったので調べてみた。
心当たりというのは、かなり以前に入手していたW. J. Phillipsen and H. C. Coppelの2編の論文。日本から海を渡って米国に届けられたイエシロアリのコロニーから、コナダニ団を発見したという内容で、発育期間や繁殖様式などについても詳細に記録されている。
イエシロアリを送ったのは、和歌山県にある前田白蟻研究所(現在は社名を変更)という老舗のシロアリ駆除会社である。このような自然科学の地味な発展に、ひっそりと貢献している会社も世の中にはあることに、同業者である私としてはなにがしかの感慨を覚える。
記載された2種の学名は以下のもので、いずれも和歌山県がタイプ地ということになる。
イエシロアリコナダニ Acotyledon formosani Phillipsen et Coppel, 1977
*現在はAustralhypopus formosani (Phillipsen et Coppel, 1977)という扱いになっている。
イエシロアリヒゲダニ Histiostoma formosana Phillipsen et Coppel, 1977
イエシロアリヒゲダニは、注目すべき区別点として次の形質が挙げられていた。
メス成虫の特徴は、彫刻模様(私にはゴルフボールの表面形状が近いように感じられる)がついた前胴体部楯板があり、鋏角の歯は9個。
ヒポプス(第二若虫)は第I脚のg3剛毛が小さい。
さてはて・・・Histiostomaって、ものすごく種類が多いのに、こんな単純な区別点だけに頼っていいものかなと不安が押し寄せるが、体表の剛毛についても配列や本数が概ね一致することからイエシロアリヒゲダニと考えた。
コンテナ容器の底には、半分水に浸かったようなイエシロアリの兵アリや働きアリなどの死骸が転がっていて、その周辺にイエシロアリヒゲダニがワラワラと増えていた。
ヒゲダニは腐敗した水の皮膜みたいな環境が好きだ。
ヒゲダニは腐敗した水の皮膜みたいな環境が好きだ。
成虫の口器は、刺したり、咬んだりはできない軟弱なつくりで、液体中の微生物や有機物を濾過摂食 (filter feeding)している。体は小さいながら、食事方法はシロナガスクジラと同じというわけだ。
イエシロアリヒゲダニが、卵から成虫になって次に卵を産むまでに要するのは、たったの6.9日とのこと。
驚異的に短いが、アリやシロアリに便乗するダニ類は、短期間で発育を終えるものが多いらしい。いつまでも何の変化もなく、のほほんと便乗しているようにしか見えないヒゲダニのヒポプスだが、見ていないところでは意外に機を見るに敏なヤツだったりするのだろう。
イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)
イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)
吸盤群 ダルマの顔みたい。
プアな光学的工夫で観察中のヒポプス。光学顕微鏡の光源を消して、ステージの横からLED懐中電灯(1w)を照射している状態。
暗視野で微小な剛毛を光らせて確認したいときに、この方法を試みるが役に立った例はそう多くない。
LED懐中電灯を持つ手がツってくるという大きな弊害にも目をつむれば、すてきな観察方法である。
イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)
イエシロアリヒゲダニの第二若虫(ヒポプス)
吸盤群 ダルマの顔みたい。
プアな光学的工夫で観察中のヒポプス。光学顕微鏡の光源を消して、ステージの横からLED懐中電灯(1w)を照射している状態。
暗視野で微小な剛毛を光らせて確認したいときに、この方法を試みるが役に立った例はそう多くない。
LED懐中電灯を持つ手がツってくるという大きな弊害にも目をつむれば、すてきな観察方法である。
光学顕微鏡の横で、こんな感じで文献を読んでいた。
これは息子が大学生協で買った高価な電子辞書だが、電池が保たないという理由で放置されていたのでPDF閲覧用として私が接収した。SDカードも使えて、検鏡しつついろいろな文献の絵と見比べたりするのにチョット便利。
大学生協にそそのかされてムダに高機能な情報機器を購入してしまい、なおかつ私のようにガラケーしか持っていないというような方にはお薦めな文献活用法と言えやう。