害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

キンバエとハネカクシ

2014-07-27 21:49:59 | 自然観察
ムッチャ暑い。
地球上とは思えんくらいアツイ。
炎天下に動き回っていると、だんだん気持ち悪くなってくるが、それを過ぎると何だかサワヤカな気分になってくる。

コレは危険なフラグが立っているだけで、もちろん短時間で暑さに慣れたりするはずはない。
むやみにガンバリ続けていると、羽が生えた美しい幼児たちが群がってきて、雲の上に連行されたりするかも知れないので要注意だ。


ハネがはえた美しい生きものといえば、キンバエ類が元気なのもこの時期である。
部屋の中にスゴクたくさん飛んでいるときは、どこかにイヤなものが転がっているシルシといえる。
害虫屋の仕事で多いものに、そんなイヤなものを探すというのがあるけれど、イヌ年生まれで鼻がきく私でも上手く発見できることはあまりない。

それに比べて、ドコで発生するかわからない動物の死体を見つけられるキンバエ類の探知能力は恐るべきものだ。でもそんなキンバエ類を狙う虫もいるようだ。キンバエ類が増えるとハネカクシの一種が目立つようになることがある。室内では大きいと感じる体長5~7mmくらいのハネカクシで、ハエみたいに飛び回る。ハエの天敵としては、ヒゲブトハネカクシ類 Aleochara spp. がよく研究されており、クロバエ科を食べる種も報告されているようだ。 ナカアカヒゲブトハネカクシ Aleochara curtula っていう広域分布種は、幼虫の生活史などが面白いらしい。一度は自分でも観察してみたい。

Aleochara_sp02
兵庫県南部の建物内で、光誘引式捕虫器にキンバエ類と一緒に捕まっていたヒゲブトハネカクシの一種 Aleochara sp.を、粘着剤から取り出して調べてみた。
普段の業務では、ハネカクシについて知らぬ存ぜぬ存ぜぬ知らぬを決め込んでいるけれど、甲虫は好きだし。

往々にして知らない知識の世界には厚い壁があって入れないものだけれど、そんな壁もツンツンしているうちに隙間ができて、向こうが少しくらい見えてくるかもしれない。

Genitalia02

文献をネットで探してみたが、断片的な情報しか得られなかった。ちょっと検索したくらいで、交尾器の図とかが一致して、すっきり問題が解決するような論文が見つかるくらいなら、世のなか苦労はしない。



Aleochara_sp

こっちは捕虫器の個体と同じ場所で、走り回ってたヤツを確保。胸部と腹部の節間膜から、エアーピンセット逆噴射で体内に息を吹き込んで膨らませつつ乾燥させた標本(体長約6mm)。

やっぱ頼りは、原色日本甲虫図鑑II巻(1985)と原色昆虫大図鑑II巻(1963)しかない。
なんだかんだと観察してみて、どの個体もコクロヒゲブ卜ハネカクシ Aleochara parens Sharp, 1874 と判断した。
機能性を追求した結果かも知れないが、形態にゴキブリを思わせる雰囲気があってカッコイイ。特に頭と胸のあたり。


この仲間の検索表は以下の論文に出ていた。
Park, J.-S., and K.-J. Ahn. 2010. Redescription of Aleochara (Aleochara) kochi Bernhauer with a lectotype designation and key to species of the subgenus Aleochara (Coleoptera: Staphylinidae: Aleocharinae) from the Far East. Journal of the Kansas entomological society 83: 313?317.
この検索では、腹背板第8節の後縁中央がへこんでいる程度が鍵になっていたりする。「明瞭にへこむ」と「浅くへこむ」の違いは、一つの標本しか見ていないのなら意味のない情報だが、触角基部1-3節が茶色いのなら parens となるらしいので、同じくコクロヒゲブトハネカクシという結果になった。

ということで、ヒゲブトハネカクシ属 Aleochara ってのは結局よく分からんけれど、うちらの仕事でもネズミ防除や異物問題などで、重要視されるシーンが増えそうな予感。今後要注目。
*maruyama氏のご助言のとおりにオス交尾器の中央片の写真を追加。
長さ1mm、幅0.5mm(7/29)。
ぼやんとした写真しかとれないけど、うちの手持ちコリメート技術ではこれで精一杯。
参考にはならないかも知れませんが貼っておきます。(クリックで大きくなります)
Aleochara_sp_genitalia02
*7/30追記 ヒゲブトハネカクシがご専門の丸山さんから、やはりコクロヒゲブ卜ハネカクシ Aleochara parens Sharp, 1874 とのコメントを頂いた。わざわざ見てもらって、同定までして頂けるとは、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
*8/2追記 「日本産ヒゲブトハネカクシ亜科データベース」に掲示された交尾器写真をみて、似たような感じにならないかと思い、撮り直してみた。写真撮影時だけガムクロラールに漬けて、あとで水洗いして台紙に戻した。内部の構造がチョット分かるようになった。
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このシロアリの頭みたいな中央片に詰まっているモノは、ナマコが内臓をボヘッと吐くように中身が飛び出すらしい。
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なんか鱗のようなモノが中身についているが、これは先に交尾した雄の精子を掻き出すという例の仕組みかも。