大阪では、マイマイガとか風疹とかいろいろ流行ってるけれど、時流のよどみにあるかのごときケナガコナダニ類の話を続ける。
何か違うような気がすると思いつつプレパラートにしたケナガコナダニの一種だが、最初はたいした違いがないようにさえ思えた。
飼育中のケナガコナダニが逃げ出しただけ?
イヤ絶対なんか違うわコレは!
という2点間を行きつ戻りつ繰り返して、さらに仕事で忙しくなると、何を観察してたのか途中で忘れたりするし、ちっとも作業が進展しない。
それでも、標本をとりとめもなく目にしているうちに、ほわわんと違うところがみえてきた。
以下、累代飼育中のやんごとなき血筋のケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae はTp。
オオスズメバチの巣よりワラワラと湧いてきた素性の知れぬケナガコナダニの一種を、Tsp-V(スズメバチ属Vespaの頭文字を付加)と呼ぶことにした。
TpとTsp-Vのオス同士で、重要な体のつくりを見比べられるように撮影してみたが、あいかわらずヘボい仕上がりの写真。
1. Tsp-Vのほうが大きな個体が多い。

2. Tsp-Vは第II脚基節板の後縁が強く湾曲する。

3. Tsp-Vの第IV脚ふ節背面の吸盤2個は、中央寄りになる傾向がみられる。

4. Tsp-Vの鋏角は、先端に向かい細くなり固定指は鋭い。固定指の先端近くの小さい歯も尖る個体が多い。

5. 上基節剛毛(scx)は個体差があるが、Tsp-Vの上基節剛毛は側方の分岐が少ない傾向がみられる。

6. 第I脚の感覚毛ω1も個体差があるが、Tsp-Vのほうは先端部が緩やかに太くなる。

7. オスの交尾器は・・・、区別がつかない。オスの陰茎の形状は両種とも、小さくてS字型でよく似ている。個体によっては、両種とも変な形の交尾器がみられたりもする。写真の下側の方が一般的なカタチ。

これらのTsp-Vの特徴は、Fan et Zhang (2007)の論文にあるT. putrescentiaeとよく一致した。
連鎖的な結論としてTyrophagus fanetzhangorum Klimov & OConnor, 2009に該当することになる。
どういうことかというと、Fan et Zhang (2007)は膨大な研究の末に、「これぞ真のケナガコナダニT. putrescentiae」というものを発表して、その際、いろんな研究機関で飼育してるケナガコナダニのほうには T.communis という新しい種名を設けた。
超普通種でしかも衛生害虫である種が、突然、学名変更になった珍しい事例である。
この変更により、医学から農学などの分野が広範囲に影響を受けるはずで、場末の害虫屋ですらフゥーンとよく分からないクセに感心したフリをしていたくらいだった。
その後、別の研究者らがケナガコナダニ属の整理を再びおこない、「これぞ真のケナガコナダニ」は新種T. fanetzhangorumに改称され、従来の広く研究されているケナガコナダニの学名は保護された。
T. fanetzhangorumを発見したFanさんとZhangさんの名は、新種の種小名として使用された。
T. fanetzhangorumは稀な種ということだが、記載論文には日本も分布域に含めてあった。ニュージーランドのオークランドで、日本から輸出されたチューリップで2001年に見つかったらしい。
時々、こういう分布記録を読むと、いろいろツッこみたくなる。
今回のオオスズメバチの巣でみられた個体群は、たまたま詳しく観察してみたけれども、普通なら剛毛の配列パターンと交尾器をみるだけの作業から、ケナガコナダニT. putrescentiaeと確信していたに違いない。
自力移動能力が低いケナガコナダニ属に、世界共通種が多いってことも面白い。昆虫が運んでいることもありそう。オオスズメバチも餌を集めているうちに、巣に運び込んでしまったのかも知れない。
私がT. fanetzhangorumと結論づけた種に、エビオスをあげたら結構増えてきた。でも、こんなのを増やしても需要はなさそう。