goo blog サービス終了のお知らせ 

害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

コウモリ退治

2013-05-30 23:59:10 | 自然観察

■ 暗くなっていく空を、たくさんのアブラコウモリが飛んでいるのをみながら家に帰った。
あの小さな体で高速に飛んで、空中でムシ喰って、よくもまあ生命を維持できるものだと思う。

害虫駆除会社には、コウモリを追っ払うという依頼もたまに来るのだけれど、柔らかい毛がふわふわした弱々しいヤツらをいじめるのは基本的に気が進まない。日中は、天井裏や、雨樋と屋根の隙間にはさまって寝ていたりするのだが、慣れてくると町中を歩いているときでさえ、思わずフンの汚れをたどっていって見つけることがある。
過去には、最終的にコウモリと共存することを選んだ珍しいお客さんもあった。そこの高校生くらいの娘さんが、「ようするにフンを定期的に天井裏から掃除するだけでいいんじゃない?」っていいだしたのだ。コウモリマダニとかコウモリマルヒメダニが稀に人を加害するって話もあるけれど、大阪の家屋内ではみたこと無いから、過度に恐れる必要はないというふうに、私もコウモリの肩を持って、結局駆除の仕事はフイになった。

写真は、とある食品をあつかう施設で雨よけテントの折り返し部分に潜んでいた個体。追い出してしまった。カワイソウ。
0833

■ ヨメが買ってきたマンガを読んだ。
「千年万年りんごの子」という作品。
老いて死んだ愛猫にシデムシがたかっているのをみて、埋めずにそのままにしておこうというところは、いいシーンだ。

ヒロインに忌むべきフラグが立っているのが、気にいらないというか気になりまくり。


幼虫が食べる幼虫

2013-05-28 22:34:47 | 自然観察

ひとがナニか知らないモノをウマソーに食べていると、どんな味か気になるものだ。

少し曇り空とはいえ、人間様の昼食時間である正午頃に、ゴミムシ科の幼虫が堂々と明るい場所で舌鼓を打っていた。
かがみ込んでみていると、ゴミムシ幼虫はウザッっていう視線をこちらに投げて、すぐ横の穴に隠れた。尾突起がやたらと長い。
あとで日本幼虫図鑑(1984,北隆館)をみたら、ノグチアオゴミムシの幼虫に似ていた。
Callistinae_gen_sp01

Callistinae_gen_sp02_3

Callistinae_gen_sp02_2Callistinae_gen_sp02



この豊岡市の川岸で食べられていたヒラタドロムシの幼虫は、蛹になるために上陸したところを襲われたのだろう。腹面中央付近に穴を開けられていた。

何のムシか知らなかった頃、河原で石裏のかさぶたのようなモノをベリッとめくると、ハムシみたいな甲虫が出てきて驚かされた思い出がある。
ヒラタドロムシの幼虫は、平べったくて食い応えがなさそうだが、大量に集めて少しフライパンで炒ると、コーンフレークみたいになって美味しいかも知れない。



ケナガコナダニ属を調べてみた(4)

2013-05-26 14:29:41 | 自然観察

大阪では、マイマイガとか風疹とかいろいろ流行ってるけれど、時流のよどみにあるかのごときケナガコナダニ類の話を続ける。

何か違うような気がすると思いつつプレパラートにしたケナガコナダニの一種だが、最初はたいした違いがないようにさえ思えた。
飼育中のケナガコナダニが逃げ出しただけ?
イヤ絶対なんか違うわコレは!
という2点間を行きつ戻りつ繰り返して、さらに仕事で忙しくなると、何を観察してたのか途中で忘れたりするし、ちっとも作業が進展しない。

それでも、標本をとりとめもなく目にしているうちに、ほわわんと違うところがみえてきた。

以下、累代飼育中のやんごとなき血筋のケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae はTp。
オオスズメバチの巣よりワラワラと湧いてきた素性の知れぬケナガコナダニの一種を、Tsp-V(スズメバチ属Vespaの頭文字を付加)と呼ぶことにした。

TpとTsp-Vのオス同士で、重要な体のつくりを見比べられるように撮影してみたが、あいかわらずヘボい仕上がりの写真。

1. Tsp-Vのほうが大きな個体が多い。
Tspv_whole1

2. Tsp-Vは第II脚基節板の後縁が強く湾曲する。
Tp_tsp_coxal_plateii02

3. Tsp-Vの第IV脚ふ節背面の吸盤2個は、中央寄りになる傾向がみられる。
Tarsus_iv

4. Tsp-Vの鋏角は、先端に向かい細くなり固定指は鋭い。固定指の先端近くの小さい歯も尖る個体が多い。
Tp_tsp_chelicera

5. 上基節剛毛(scx)は個体差があるが、Tsp-Vの上基節剛毛は側方の分岐が少ない傾向がみられる。
T




6. 第I脚の感覚毛ω1も個体差があるが、Tsp-Vのほうは先端部が緩やかに太くなる。
Kannkaku923




7. オスの交尾器は・・・、区別がつかない。オスの陰茎の形状は両種とも、小さくてS字型でよく似ている。個体によっては、両種とも変な形の交尾器がみられたりもする。写真の下側の方が一般的なカタチ。
Tp_tsp_aedeagus_2

これらのTsp-Vの特徴は、Fan et Zhang (2007)の論文にあるT. putrescentiaeとよく一致した。
連鎖的な結論としてTyrophagus fanetzhangorum Klimov & OConnor, 2009に該当することになる。

どういうことかというと、Fan et Zhang (2007)は膨大な研究の末に、「これぞ真のケナガコナダニT. putrescentiae」というものを発表して、その際、いろんな研究機関で飼育してるケナガコナダニのほうには T.communis という新しい種名を設けた。
超普通種でしかも衛生害虫である種が、突然、学名変更になった珍しい事例である。
この変更により、医学から農学などの分野が広範囲に影響を受けるはずで、場末の害虫屋ですらフゥーンとよく分からないクセに感心したフリをしていたくらいだった。

その後、別の研究者らがケナガコナダニ属の整理を再びおこない、「これぞ真のケナガコナダニ」は新種T. fanetzhangorumに改称され、従来の広く研究されているケナガコナダニの学名は保護された。
T. fanetzhangorumを発見したFanさんとZhangさんの名は、新種の種小名として使用された。

T. fanetzhangorumは稀な種ということだが、記載論文には日本も分布域に含めてあった。ニュージーランドのオークランドで、日本から輸出されたチューリップで2001年に見つかったらしい。
時々、こういう分布記録を読むと、いろいろツッこみたくなる。

今回のオオスズメバチの巣でみられた個体群は、たまたま詳しく観察してみたけれども、普通なら剛毛の配列パターンと交尾器をみるだけの作業から、ケナガコナダニT. putrescentiaeと確信していたに違いない。

自力移動能力が低いケナガコナダニ属に、世界共通種が多いってことも面白い。昆虫が運んでいることもありそう。オオスズメバチも餌を集めているうちに、巣に運び込んでしまったのかも知れない。

私がT. fanetzhangorumと結論づけた種に、エビオスをあげたら結構増えてきた。でも、こんなのを増やしても需要はなさそう。


ケナガコナダニ属を調べてみた(3)

2013-05-06 23:22:55 | 自然観察

前回、コナダニの背中にある毛について、長さを計測する話を書いてみた。
剛毛の呼称は大島(1977)で使用されているものを使用していた。衛生害虫関係の仕事でダニに関わる人であれば、ほとんどの人が「ダニ学の進歩」という本から直接的・間接的に影響を受けていると思う。

*大島司郎(1977)屋内塵性コナダニ類の分類. ダニ学の進歩(佐々学・青木淳一編)

最近のコナダニ類の分類に関する専門書や論文では、「ダニ学の進歩」とは違った用語や略号が使用されている。

〔最近の重要な専門書〕
・Krantz, G. W. & D. E. Walter (ed) (2009): A Manual of Acarology. 3rd edition.
・江原昭三・後藤哲雄編(2009):原色 植物ダニ検索図鑑.

〔ネットで無料ダウンロードできる最近のケナガコナダニ属の代表的論文〕
・Fan, Q.-H.; Zhang, Z.-Q. 2007: Tyrophagus (Acari: Astigmata: Acaridae). Fauna of New Zealand, (56) ・・・細かな形質の比較がされているが、私には細かすぎて正直よく分からない点も多い。
・Klimov, P.B.; OConnor, B.M. 2009: Conservation of the name Tyrophagus putrescentiae, a medically and economically important mite species (Acari: Acaridae). International journal of acarology, 35: 95-114. ・・・Wikispeciesの「Tyrophagus」に論文への直接リンクがある。上の論文の新種がシノニムとして本論文で整理された。この2編はセットで読む必要あり。

参考までに最近の標準となっている剛毛の記号を、自分の勉強のつもりでケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae の図に記入してみた。
ケナガコナダニの背面の略図だけを描くつもりが、Illustrator CS5で、キレいにくねった長毛が表現できるのに気をよくして、勢い余って脚まで描いてしまった。
生物の線画に関して、製図ペンと製図インクの表現力や利便性を、パソコンのお絵かきソフトが越えることは困難と考えているが、絵や道具を長時間出しっぱなしにできない厳しい環境の御家庭ではパソコンで絵を描くしかない。Tyrophagus02b


ケナガコナダニ属を調べてみた(2)

2013-04-22 23:58:48 | 自然観察

暖かくなって、業務対象のムシたちが活躍してきているが、ケナガコナダニ類の観察は断続的に実施中。

ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae は、とても小さくて柔らかく、ドコが害虫なのか分からないくらい弱々しい。
刺すわけでもないし咬むこともない。アレルゲンっていっても、一般的な日本の住環境であれば、一時的にしか発生しないので、医学的な問題の原因として重要ってコトもない。
それでも、過去には人体内から検出例が多かったり(そのほとんどは検査器具の汚染と今では考えられているけど)、鉄筋コンクリート集合住宅が流行りだした昭和時代後期には、畳が動くコナで覆われるなんて問題が続出したので、旧厚生省が昭和63年に殺ダニ剤の供試虫として通知を出したりしている。つまり、衛生害虫として公認されたのは割と最近である。

ダニ類はプレパラートにしないと特徴が観察できないけれど、薄膜の袋に脚と毛が生えて歩いているみたいな種が多いので、処理の仕方しだいで色や形がずいぶん変化してしまう。
不出来な標本になってしまうと、まったくナゾの生物に見えたりする。何でもない種をコレは珍しい種か!などと勘違いしたりして始末が悪い。
偉い先生の記載でもシノニムが多かったりするのが、ケナガコナダニの特徴の一つになっている。

そういうわけで、オオスズメバチの巣から現れた(らしい)ケナガコナダニ属の一種(以下ケナガsp.と称する)が、どこか違って見えたという件も、我ながらきわめて疑わしいといわざるを得ない。
そもそも、なにを根拠に違ってるなんて思ったのかというと、脚が暗い色をしているような・・・というくらいのとても曖昧模糊とした印象があっただけだ。

さてケナガコナダニ属の種までの検索は、
1.眼斑(胴体の先端近くの背面側方に一対ある暗色の丸い模様)の有無、
2.背中側の毛の長さ
3.一番前にある脚にある第1感覚毛(ω1)というチョット変わった毛の形
・・・etc.
というあたりで区別するようになっているので、それらの特徴を確認してみた。

とりあえず、背中の毛の長さを測ってみた。ナガコナダニ属の場合は、特に第2背剛毛(d2)が第1背剛毛(d1)の何倍くらいかということが区別点として重視されている。
写真を撮って、定番フリーソフトのImageJを使用して、背中の毛をカチカチと地味にマウスでなぞっていくという作業。
ケナガsp.の雄はこんな感じ。
Tsp_d1d2
ケナガコナダニにソックリというと、オンシツケナガコナダニT. neiswanderiがいて、d1とd2の比が 1.4-2.1らしい。ケナガコナダニは1.9-3.4。
ケナガsp.は2個体計ったが2.8-3.5だった。ケナガコナダニの範囲内。

念のためにケナガコナダニの雄も1個体計ってみた。
D1d2
だいたい3.0くらいで、ちゃんとケナガコナダニだ。コレが変だったら、過去におこなった生物試験は何だったのかってコトになるので、ホッとした。

他の形質も順次みていくことにしよう。