松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

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私は不思議でたまらない、黒い雲からふる雨が、銀にひかっていることが。   金子みすゞ

2024-07-01 | インポート

私(わたし)は不思議でたまらない、黒い雲からふる雨が、銀(ぎん)にひかっていることが。   金子みすゞ

写真 千田完治

金子みすゞさんの「不思議」と題した詩です。
みすゞさんは、明治36(1903)年、山口県大津郡仙崎村(今の長門市)に生まれます。20歳の頃から童謡を書き始め、生前90篇あまりが、西条八十が主宰していた『童話』あるいは『赤い鳥』『婦人画報』などに入選掲載されるけれど、生前に自分だけの詩集が出版されることはなかった
 結婚、離婚。昭和5年3月10日にみすゞさんは自らの命を絶ちます。26歳でした。その日は離婚した夫が、三歳になる娘の「ふさえ」を引取りに来る日だった。戦前の民法には離婚した母親には親権が認められなかった。
その前日、3月9日。みすゞは下関の写真館で写真を撮っています。なんのためだと思いますか。死後、詩集が出版された時に載せる顔写真をとったのではないだろうか、という(松本侑子著『みすゞと雅輔』新潮文庫)。

 みすゞさんは、死の前日にまだ出ぬ、いや、出版されることがないかもしれない詩集用の写真を撮影する。切ないけれど、こういう逸話をしるとゾクゾクしてきます。そして、人生にもしもあの時、ああしていたらのIFはないのですが、もし、あと一ヶ月で、西条八十が主宰して、竹久夢二の絵が表紙をかざる新しい雑誌に自分の詩が華々しくのることを知っていれば、みすゞは命を絶たなかったかもしれない。いくつかの「もしかして」といくつかの思いが交差するなかで命を絶つのですが、それは機会をあらためて。
 さて、掲示板には冒頭の三行しか載せられなかったけれど、「不思議」は次の詩句がつづきます。

私は不思議でたまらない、青い桑(くわ)の葉たべている、蚕(かいこ)が白くなることが。
私は不思議でたまらない、たれもいじらぬ夕顔(ゆうがお)が、ひとりでぱらりと開くのが。
私は不思議でたまらない、誰(たれ)にきいても笑ってて、あたりまえだ、ということが。

 あたりまえのことなんかないんだよ。すべてが、不思議なんだよ。禅も「大いなる疑いがあるところに、大いなる悟りがある」。そう、説きます。つまり、詩人と同じことを教えている。
願わくは七月、銀色の雨ならばよいけれど、集中豪雨なんていうのは遠慮したい今年の梅雨です。


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