母の日のてのひらの味塩むすび」 鷹羽狩行
写真 千田完治
時節季節にあう言葉を毎月のことばにしようと思っています。5月は風薫るようなことばにしようとするからでしょうか。先住職から掲示版を受け継いで、20年ほどになるけれど、母の日のことぱはたぶんなかったと思う。
というわけで、俳人の鷹羽狩行(たかは しゅぎょう・1930~2024)の俳句にしました。鷹羽氏は山形県生まれで山口誓子に師事し、数々の賞を受賞し毎日俳壇・NHK全国俳句大会などの俳句選者をつとめたようです。
俳句愛好者でもない私がこの句と巡り合ったのは、櫂未知子著『食の一句』(ふらんす堂)という便利な詞華集(アンソロジー)です。では、櫂氏の講評はというと。
〈「おにぎりカフェ」が人気だという。そこのメニューに〈塩むすび〉はあるのだろうか。海苔も巻かず、米と塩だけを供する塩むすびはまさしく家庭の味。かつての母達は、おなかをすかせた子供達のためにさっとおむすびを作ってくれた。贅沢とは無縁だった古き日本の母親達は、その〈てのひら〉から素朴な、しかし間違いなく美味しいものを生み出してくれた。子が母を信頼するのは、理屈ではない。空腹を満たしてくれたかどうか、である。(『遠岸』)季語=母の日(夏)〉
櫂未知子著『食の一句』は2003年1月から12月まで、ふらんす堂のホームページに連載されたものを一冊にまとめた本だという。だから、櫂氏が「おにぎりカフエが人気」と書いたのは、20年前のことになるけれど、今も「カフェ」というかどうかは知らないけれど、おにぎり屋さんはあちらこちらにあるし、外国にも進出しているというから、おにぎりは永遠不滅なのでしょうか。
おにぎりって買うものではなかった。なんていうとジジイなのがばれてしまうけれど、どうやって開いたらよいかわからない包装紙(フィルム)を身にまといコンビニで現れたのが、売り物として登場したおにぎりの最初ではないだろうか。
あるいは、「おにぎり」なのか「おむすび」なのか、とか円いのか△なのか、俵形なのか、塩だけでなく、混ぜる具は、とかいくらでも書けますね。いくらでも書けるというのは、それだけ偉大なわけです。母が偉大なのと同じに。偉大だけど、少し寂しさもまじっているのが、おにぎり。母の日って、寂しさも混じってないですか。