松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

自ら物を買う時は再考を要し、人に物を施す時には再考すべからず。 真渓涙骨(またに るいこつ)

2022-05-01 | インポート

自ら物を買う時は再考を要し、人に物を施す時には再考すべからず。 真渓涙骨

 どんな業界にも専門の雑誌や専門の新聞があるように、仏教界にも『中外日報』という週2回発行のタブロイド紙があります。明治30年創刊というから古い。長い歴史には、司馬遼太郎の直木賞受賞作『梟の城』を最初に連載した、なんて栄誉も刻まれています。
 その『中外日報』令和4年4月15日発行に拙書『おうちで禅』の書評が載りました(https://www.chugainippoh.co.jp/article/kanren/books/20220415-003.html)。
 拙書の初刊から数ヶ月が経っての書評掲載の理由は、愚痴になるから書かないけれど、書評掲載に敬意を表して、『中外日報』の創刊者、真渓涙骨(1869~1956)の言葉を5月のことばとします。出典は山折哲雄監修『涙骨抄(るいこつしょう)』(法藏館)です。 この本は真渓氏の50回忌にあたる平成17年に、生前に中外日報紙上に書き綴った「編集日誌」から抜粋した名言集とのこと。
 今月のことばに選んだのは、説明する必要もない箴言(しんげん)ですが、後半の「人に物を施す時には再考すべからず」を読んで思い出すのが、志賀直哉の短編小説『小僧の神様』です。簡単にまとめると次のような話です。
 丁稚奉公している小僧さんが屋台の寿司が食べたくて入って寿司を取ろうとしたら、「何銭だ」と言われ、持っていないから手を引っ込め、恥ずかしそうに店を出ていく。それを見た若い貴族院議員が「かわいそうに。今度会ったら、たらふく食わしてやろう」と思う。後に寿司を食べせてやるのですが、何か嫌な気持ち、晴れない気持ちがのこる。
 志賀直哉はぱっと身体が動くことが大事!と言っているのか。
 さて、一般の方は目にすることがまずない『中外日報』紙ですが、私が住職する松岩寺は師父の時代からの愛読者です。仏教界、いやキリスト教も神社本庁のニュースも載るから、日本の宗教全体を知っておくためには、見ておいた方がよい定期刊行物です。その紙面に「涙骨抄」と題した小さな企画が今も続いています。令和1年9月6日付けで、次のような真渓師の言葉が載っていました。私自身の戒めとして切り抜き、目の前に貼り付けて、この文章を書いています。
「書こうとして書いたものは、いかに峻烈な文字を用いても決して人の臓腑を射らない。止むに止まれずして吐き出す中心の叫び、それはきっと、人の心琴に響く。ただ壇上、自己を語れ、跪(ひざまず)いて我が胸奥を訴えよ、大衆は必ず素直に受け入れる」。
 このブログは月末になったので、「止むに止まれず」書いているのですが、そういう薄弱な意志ではだめなんだろうな!

 


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