松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

火うつれども鏡やけず、水うつれども鏡ぬれず 夢窓国師

2020-09-01 | インポート

仏は鏡の如し、うつる影は衆生に似たり、鏡に影うつれども、根本鏡は物をきらわず。されば火うつれども鏡やけず、水うつれども鏡ぬれず 夢窓国師『二十三問答』

                     photo 千田完治

秋暑し、九月のことばは夢窓国師(1275~1351)のものです。山田孝道・森大狂編『禅門法語集・上巻』(至言社)に収められている『二十三問答』から引用しました。『禅門法語集』解題によれば、『二十三問答』は「夢窓国師が道俗の問に応じて垂示せられたものにと、はなはた老婆親切なれば、初めて門戸を窺うの士は、先ず此書を一読せざるべからず」とあります。解題は、書籍の解説ですが、解題の説明が必要なような古めかしい物言いです。『二十三問答』が収められている『禅門法語集』の初版は明治四十三年とありますから、今から百年以上前の書物はこのような書き方だったのでしょう。なぞとクドクドと何がいいたいかというと、禅語名言集的な本からの孫引きではないですよ、ある程度信頼おける書物を参考にしてますよ、と言いたいわけ。
明治時代初版の『禅門法語集』は上巻・中巻・下巻の三巻から構成されていて、昭和四十八年に復刻されて、私の手もとにあるのは平成八年発行の補訂版。品が悪いけれど定価をいってしまうと24,000円也。必要があって手に入れたのですが、他にも欲しい本いっぱいあるから、今だったら買わないな。なぞと不遜なことを申しますが、「仏は鏡の如し」の「仏」は、「真理」と読み替えてみると、わかりやすいと思います。「鏡は物をきらわず。されば火うつれども鏡やけず、水うつれども鏡ぬれず」というのが、深いですね。
 ところで、推理小説を得意とする作家の服部真澄さんの小説に『夢窓』(PHP研究所)があります。「あとがき」で作者が次のように述べています。

「戦乱期の大詰めに足利義満が建てさせた金閣について、その本義が語られることは稀である。三島由紀夫の『金閣寺』によってさえ触れられることがなかった。
 さらにいえば、金閣の脇に当時全国一の高層タワー、北山大塔が建てられていたこともほとんど知られていない。なぜ金箔で飾られ、輝いているのか。なぜ極めて高くそぴそびえなければならなかったのか。
 楼閣と大塔の建立に至る経緯を紐解くうちに、この日本の根幹ともなる思想-禅-の姿が顕わになっていった。
 武家である足利一門が、この哲学的思想や禅の高僧といかに知的に関わっていたのか、いまだからこそ新たにし、読者とともに味わいたいと、私なりに講じてみた」
 

 この小説は六百頁余りの大著で、読もうと思いながら、部屋の片隅で埃をかぶっています。この秋こそはと思うのですが、秋暑し。

 秋暑しノートの余白埋めぬまま  豊田都峰


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