松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

蓮池や 折らで其のまま 玉まつり  芭蕉

2013-07-31 | インポート

Hasu_2八月です。お盆です。「お盆は七月ではないの?」という人もおられるでしょう。確かに、お盆は陰暦七月十五日が正しいようです。
陰暦ですから今の暦でいえば、八月二十一日頃が旧暦の七月十五日。八月十五日のお盆というのは旧暦でもなく、月遅れのお盆です。
さて、八月盆のことばは、松尾芭蕉の俳句です。『日本秀歌秀句の辞典』(小学館刊行)には次のように解説されています。

貞享五(一六八八)年七月、鳴海の知足亭滞在中での作。「玉まつり」は七月中元の孟蘭盆会。「蓮池」の「蓮」を「折らで」、「池」全体をそのまま仏前に供えようという趣向。季語は「玉まつり」で秋。

名古屋の鳴海に滞在中の芭蕉の句です。「蓮が綺麗だから折らないでそのままお盆の供花にしよう」という句意ですが、綺麗だから折らないのではなくて、蓮の花というのは折ったら最後。どんなにうまく活けても、すぐになよなよとしぼんでしまうのです。もちろん、芭蕉さんはそんなことはご存じだったでしょう、。だから折らなかったのでは?
でも、見事な蓮の写真があります。『華盛の生花』新藤華盛著(主婦の友社刊)86ページからの引用です。桂古流のお家元はこんな解説を載せています。
「蓮は水揚げの悪い花材として知られ、あらかじめ水揚げポンプで水を注入してから用いますが、この際、あれば深く掘った井戸の塩分のない井戸水ほ使うのが最高の水揚げ法です」
そうやって活けて撮影された見事な写真でしょうか。腕自慢の方は蓮の活け花に挑戦してみたら。多分、どうやってもダメです。二~三時間で無残な姿になってしまうはずです。と、するとこの写真はどう撮ったのか。
本は今から三十年ほど前の昭和五十八年出版だから、もちろんフィルム撮影。今ほど簡単に画像補正ができたわけではない。たぶん、カメラも花器も何かもすべて用意万端の場所へ、鉢で育てた根付きの蓮を持ってきて、名人の鋏できって、目もとまらぬ早さで活けて、撮影したのではないかなぁー。
そんな詮索をしては失礼だけど、蓮は折らないで、其のまま、お供えするしかないのです。


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鳩摩羅什のことば

2013-07-06 | インポート

Img_4664_kakou_12723_2汚水の中に、美しい蓮華が生えるように、美しい花だけを採って、汚水は取り入れてくれるな  鳩摩羅什


庭の蓮がつぼみをつけたので、今月は蓮の言葉をと思って探しました。中国、後秦、鳩摩羅什(344~413)の言葉です。原文は「譬えば臭泥の中に蓮華を生ずるがごとし。但だ蓮華を採りて、臭泥を取ること勿れ」(『出三蔵記集』巻十四、鳩摩羅什伝)ですが、和訳を使いました。
蓮は大乗仏教のシンボルですから、蓮に関連する経文はたくさんあります。「高原の陸地に蓮華は生ぜず、卑湿汚泥に乃ちこの華は生ずるが如し」(維摩経)なぞというのが有名なところですが、少し安易すぎるかなと思案したため、少々わかりにくい鳩摩羅什の言葉になってしまいました。なぜ、わかりにくいかというと言葉の背景がわからないと意味がわからないからです。背景はというと、奈良康明編著『仏教名言辞典』(東京書籍刊)に次のようにあります。

羅什といえば、『法華経』や『維摩経』などの翻訳者として、その名声は玄奘 (六〇〇~六六四)にひけをとらない。その流麗な訳文は、漢字文化圏の仏教に決定的な影響を与えた。しかし、羅什の生涯にはぬぐいがたい汚点があった。羅什は、そのことを深く心にとどめ、弟子たちがその轍を踏まぬよう、ことあるごとに戒めた。汚点とは二度にわたる女犯である。亀弦国を攻略した前秦の将、呂光によって亀弦の王女と密室に閉じこめられてついに節を屈したばかりでなく、法種の断絶を心配した後秦の支配者挑興によって、妓女十人と妻わされた。いずれも強権によるものとはいえ、羅什の激しい屈辱感は生涯消えることはなかったと思われる。門弟たちに向かって講説するとき、必ず真っ先に口にしたのが前掲の言葉であった。長安の仏教界に君臨した羅什が、この言葉を言わずにおれなかったところに、彼の誠実さと苦渋の深さを知るべきである。白い蓮華の花は正しい教え(妙法、正法)のシンボルであった。その濁りに染まない美しさを門弟に伝えようと心をくだいた。(岡部和雄) 『仏教名言辞典』東京書籍刊685

上記のような背景を知って始めてわかる今月のことばです。だから、街角の掲示板の言葉としては、失格でしょうか。
ところで、境内の蓮桶の蓮がつぼみをつけました。それに気がついた道を行く若者が山門から入ってきて、スマホのカメラで写真を撮っていました。そんな姿をみると、春の植え替えの苦労も報われるというもの。なんだか愉快になってきますが、本日の熊谷の最高気温予測は37度。不快な気温であります。

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