松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

今、目の前にあることをしなさい。  森下典子

2018-11-01 | インポート

さあ、気持ちを切り替えるのよ。

今、目の前にあることをしなさい。

「今に」気持ちを集中するの   森下典子著『日日是好日』より

 

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)
森下 典子
新潮社

今月のことばは平成三十年十月に封切られた映画、大(おお)森(もり)立(たつ)嗣(し)監督の「日日是好日」の原作、森下典子著『日日是好日』にある言葉です。この映画、ご存じのように助演女優の樹木希林さんが公開の一か月前に逝去したこともあって、話題になった作品でした。話題になって、しかもタイトルは禅語だから、見ないわけにはいかない。
 見ないわけにはいかないのですが、原作を読んでから見るか。見てから読むか。迷いました。原作は平成十四年に出版された、森下典子著『日日是好日』(飛鳥新社)です。今は新潮文庫で復刊されていて、長い期間にわたり静かに売れているようです。話題の本だけど、読んだことはありませんでした。
 だって、「日日是好日」というよく知られた禅語にまとわりつくのは、「晴れた日は晴れを愛し、雨の日は雨を愛す」的なノーテンキな解説が多いじゃないですか。実際、映画の公開にタイアップした文庫本の帯には、主演の黒木華さんと樹木希林さんのご両人が和服に身を包んだカラー写真があり、「毎日がよい日。雨の日は、雨を聴くこと。いま、この時を生きる歓び」といった文字が添えられています。
 副題に「お茶が教えてくれた15のしあわせ」とあることからもわかるように、エッセイスト・森下典子氏が大学三年のときに、従姉妹のミチコといっしょに、タダモノじゃない「武田のおばさん」からお茶を習いはじめた記録です。その稽古場の長押にある額が「日日是好日」でした。日本家屋の垂直の柱と柱をつなぐ、水平な柱にかけられた横額です。お茶を始めてから今までずうっと目にしている禅語が、いつのまにか、エッセイスト半生のテーマになったのでしょう。
 就職につまずき、結婚式二か月前の破談、そして突然の父の死。みずからの人生の季節をたどりながら、二十五年続けたお茶のお稽古からの気づきをつづったエッセイです。読んでみると、月並みな解釈ではないかと疑った禅坊主の予想なんて、見事にうらぎってくれました。
「まえがき」の次のフレーズを読んだだけで、いちおう禅の修行をしたことになっている筆者などはガツンと打ちのめされてしまう。云く、
「生きにくい時代を生きる時、真っ暗闇の中で自信を失った時、お茶は教えてくれる。長い目で、今を生きろと」
「今を生きろ」こそ、一千百年前に中国であの方がおっしゃった言葉の深意ではないか。森下典子もタダモノではないと、リスペクトしてしまうのです。
 一千百年前に「今を生きろ」といったのは雲)門文偃(うんもんぶんえん)(八六四~九四九)禅師です。ただし、「今を生きろ」、なんてわかりやすい言葉は使ってくれなかった。「日日是好日」とおっしゃった。どうして、「日日是好日」が「今を生きろ」という意味になるのか。それは、7月にも書いたし月刊『大法輪』誌に連載中の「暮らしに生かす禅ライフのすすめ」一月号にも書いたからそちらを読んで!

 


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