松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、未来は常に過去を変えてるんです。

2019-11-01 | インポート

人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、未来は常に過去を変えてるんです。平野啓一郎『マチネーの終わりに』

 

映画「マチネの終わりに」オリジナル・サウンドトラック
日本コロムビア
日本コロムビア

 

本屋へ行って、しゃれたタイトルとすてきな装丁にひかれ手にとったのは、平野啓一郎の小説『マチネの終わりに』でした。2015年3月から翌年1月まで毎日新聞朝刊に連載されました。わたしは連載の終了後にまとめられた新刊書を購入しました。 マチネ(matinee)を英和辞典は、「演劇・音楽会なとで昼間の興業」と説明します。おしゃれな響きのタイトルを裏切ることなく、クラシック・ギタリストの蒔野と、外国通信社に勤める洋子の恋愛物語は、東京、パリ、ニューヨーク、長崎を舞台にします。物語がはじまったとき、蒔野は38歳、2歳年上の洋子は日本人の母親と、ユーゴスラヴィア人で映画監督の父をもちますが、1970年代の東欧危機から洋子を守るため両親は離婚していました。 今月のことばは、『マチネーの終わりに』の冒頭部分、洋子と始めて出会った晩、蒔野が口にした文言です。このフレーズは恋愛小説を構成する重要なことばなのかもしれません。物語のなかで数度くり返されるのですから。 作家は最終部分で、この言葉への解答をだしてくれます。洋子がユーゴスラヴィア人の父親と、サンタモニカの海岸のレストランで再会した時でした。父は母と離婚した本当の理由を話してくれます。そのまま引用します。

「大事なのは、お前たちを愛していたということだった。理解し難いだろうが、愛していたからこそ、関係を絶ったんだ。そして、お前はこんなに立派に育ち、お母さんも平穏に暮らしている。恐らく、間違ってなかったんだろう。」  洋子は、首を横に振って、鼻で大きく息をした。 「でも、お父さんとは一緒に暮らせなかった。」  そう眩くと、彼女はサングラスの下から涙を溢れさせながら微笑んだ。 「だから、今よ、間違ってなかったって言えるのは。……今、この瞬間。わたしの過去を変えてくれた今。……」(新刊書374ページ)

この引用ではよくわからないですね。もう少し知りたい人と恋の行方を知りたい方は原作を読むか、11月1日には、福山雅治主演の映画も封切りになったから、そちらを観て!というわけで、ものすごくタイムリーな言葉を紹介いたしました。

もうひとつ、この映画のキーワードがあります。それは法華経にでてくる「捨父逃逝」の例え話です。これには、そっくりさんの話が聖書(ルカによる福音書一五章一一節)にもあるという。恋愛小説と聖書と仏典、その深い秘密が知りたい方は、私がただ今、月刊『大法輪』誌に連載中の「暮らしに生かす禅ライフのすすめ」を読んで!『マチネの終わりに』と聖書と法華経 」というタイトルです。1月8日発売の令和2年2月号に掲載予定、乞うご期待。

 

 


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