松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

ふるさと  室生犀星

2014-03-01 | インポート

雪あたたかくとけにけりDscn02771
しとしとしとと融けゆけり
ひとりつつしみふかく
やはらかく
木の芽に息をふきかけり
もえよ
木の芽のうすみどり
もえよ
木の芽のうすみどり

今月のことばは室生犀星「ふるさと」です。室生犀星と「ふるさと」で連想するのは、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の一節だけど、「雪あたたかくとけにけり」ではじまる「ふるさと」も同じ詩集『抒情小曲集』に収められています。
『抒情小曲集』の初版は大正7年(1918年)というから96年前です。2月14日に降った大雪は、120年前に熊谷に気象台ができて以来最大だといいます。
雪になれないからあたふたとしたけれど、雪国にとっては普通のこと。それでも、豪雪地帯の苦労が少しは身に染みたので、普段は実感のわかない、雪解けの詩を3月初頭のことばとしたわけです。
それにしても、わかりにくいというか見事というか、「雪あたたかく」から「「もえよ木の芽のうすみどり」に飛躍してしまうのはなぜなのだろうか。といぶかしく思っていた時、はたと気がつきました。これは漢詩だと。
ちょうど、この詩を掲示板に貼る模造紙に墨書する前に、漢詩をつくっていました。漢詩をつくる、なんていうと格好よいけれど、ぼくら禅宗坊主はときたま漢詩をつくらなければならない時があるのです。葬儀の引導法語というのがあって、七言絶句をつくるのです。それで、ウンウンうなりながらつくったあとで、「ふるさと」を墨書して気がつきました。、この詩は漢詩だと。
日本人の漢詩って中国語の詩を外国人がつくるわけで、昔から参考書がいっぱいあって、形式に当てはめていくわけ。大事な形式のひとつに「起承転結」があります。私ごとでいえばいちばん難しいのが転句です。なかなか転じない。転じないと、詩ではなくて、文章になってしまう。文章になってしまうと、短い説明だけで、色も香りも感触もつたわってこない。
室生犀星の「ふるさと」でいえば、雪融けからはじまって、「息をふきかけ」で見事に転じて、想像だにしない、「もえよ木の芽のうすみどり」に着地、テレマーク姿勢完了といったところです。
私がならった漢詩講座の先生は、漢詩をつくる時に結句からつくるという秘術を教えてくれました。反対に詩ではなくて「文章講座」の先生は「書き出し」を重要視していました。文と詩は異なるのです。

さて、観測史上の最大大雪も、昨日の温かさであらかた消え去りました。雪が消えて、折れた植木の枝をひろい集めた三月一日です。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 与謝野晶子「やは肌のあつき... | トップ | 山本兼一の小説より »
最新の画像もっと見る

インポート」カテゴリの最新記事