松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

蝉はやがて死ぬのだが、今日死のうが明日死のうが、そういうことには蝉は頓着しない。持っておる全部を吐き出して、ジューとやるところに、いわれぬ妙がある。鈴木大拙

2022-08-01 | インポート

「やがて死ぬ気色も見えず蝉の声」 
蝉はやがて死ぬのだが、今日死のうが明日死のうが、そういうことには蝉は頓着しない。持っておる全部を吐き出して、ジューとやるところに、いわれぬ妙がある。鈴木大拙

写真 千田完治

 孫引きではなくてひ孫引きくらいになるので、それではちとマズイかなと思って、芭蕉の句を、中村俊定校注『芭蕉俳句集』(岩波文庫)みたのです。そうしたら、「頓(やが)て死ぬけしきも見えず蝉の聲」とある。鈴木大拙博士の引用は少し違うのね。やっぱり原本に近いものを、一応は見とかないと。と暑さのなかでも、ひやっとしたのですが、今回は芭蕉の蝉の句よりも、それを評論している鈴木大拙がテーマです。大拙は令和四年夏の時の人になりつつあるけれど、それに気がついている人はまだ多くはない。という話は後でするけれど、今月の言葉はどこから引っぱってきたかというと、大拙著『新編 東洋的な見方』から引用しました。なんて書くと格好良いけれど、恥ずかしながら孫引きです。横田南嶺監修・蓮沼直應編『鈴木大拙一日一言』(致知出版社)という便利な本が令和二年に出版されています。この本の帯には次のようにあります。
「日本の禅文化を海外に広く知らしめた二十世紀最大の禅学者・鈴木大拙ー膨大な著作の中から、366語を精選 その偉大なる思想の精髄」
 今月の言葉にしたのは、7月24日の項におさめられています。本の帯の説明からもわかるように、名言集です。便利です。美味しいところだけをいただけるのですから。こう言っては失礼だけど、最近でいうと、映画を家でビデオか何かで見るとき(今はもうビデオデッキなんて骨董品だろうけれど)、つまらない所は早送りにして、重要な場面だけで見たことにしてしまう。あれに近いものがある。
 とは言いながら、膨大な著作があるから早送りせずにはおられない。というのが正直なところです。しかも、「現代の欧米人の仏教理解のおおよそは鈴木大拙の著作に基づいている」といわれるほどの巨人を、ただただ称賛するのではなくて、強烈な大拙批判しているのは、沖本克己著『禅 沈黙と饒舌の仏教史』(講談社選書メチエ)です。その一節をご紹介しましょうか。
「禅学の道に迷い込んだ頃、道筋も見えぬままたまたま本屋で見かけた鈴木大拙の『禅学入門』や『禅とは何か』等といった入門書を見つけて読んだ。彼は大事了畢(だいじりょうひつ=悟り)を公言し、日本のみならず国際的に禅を喧伝した禅の伝道師として、また秀れた禅学者として夙に高名だったからである。しかし愚かな期待はあっさり裏切られた。禅は素人には分からない、というのがその前提であり答だったからである。だから大拙は胡散臭い、というのが率直な印象である」
 称賛と名言だけを並べたのでは、人の輪郭はわからない。真っ向からの小気味良い弁舌をのせてみました。
 さて、冒頭で大拙は令和四年夏の時の人になりつつあると書きました。どういうことか。
2023年後期のNHK朝の連続ドラマのタイトルは『ブギウギ』っていうんだって!つまり、戦後の大スター・笠置シズ子さんがモデル。ドラマのタイトルにもなっているけれど、笠置シズ子さんの代表的な歌が「東京ブギウギ」。その「東京ブギウギ」を作曲したのは、服部良一さん、作詞は鈴木アラン勝という人。つまり、大拙の息子さん。これを教えてくれたのは、山田奨治著『東京ブギウギと鈴木大拙』(人文書院)という本。2015年出版だから、最近の著書ではないけれど、ものには旬があります。まさしく今が、旬の本です。いかが!これから、来年秋にむけて、このネタはしつこく使うぞ。

 


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