松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

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彼の岸に到りしのちはまどかにて男女のけじめも無けむ  斎藤茂吉

2017-03-01 | インポート

彼の岸に到りしのちはまどかにて男女(おとこおみな)のけじめも無けむ 
                                      斎藤茂吉

 

 3月は仏教行事でいうと春彼岸の月です。春秋の彼岸は「寒くもなく暑くもない季節に自然と祖先に感謝する週間」。なぞと説明しても説得力がありません。鎌田東二・玄侑宗久対談集『原子力と宗教』(角川学芸出版)で、玄侑宗久氏が次のように発言しています。

 


 

 たとえば、アメリカがイラクの空爆を開始したのは、二〇〇三年の三月二〇日でした。さらにさかのぼれば、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きたのは、一九九五年三月二〇日です。私は春のお彼岸が近づくと、また何かたいへんなことが起こるんじゃないかなあという思いがあります。そうしたら、三月一一日にあの大震災。〈途中略〉。
 お彼岸というのは、もともと中国では日想観をするために生まれたもので、それは秋分の日と春分の日の一日だけでした。それが日本に伝わってきて、その前後三日を合わせて一週間に延ばしたのです。
 季節の変わり目ですが、その時期にあまりにも疫病とか自然災害が多いので、精進潔斎して過ごしましょう、彼岸に行った人々の真似をするようなつもりで暮らしましょうよ、と。そうすれば、病気にもかかりにくい、神もお怒りにならずに自然災害も起こりにくいんじやないかという発想が、お彼岸を一週間に延ばさせたのではないかと思うんですよ。

 


 現代に伝えられ残っている彼岸の習慣を言い当てて説得力があります。そんな彼岸のことばに斎藤茂吉歌集『暁紅(ぎょうこう)』に所収の歌を選びました。『暁紅』の解説にはこのようにあります。「昭和10年と11年の歌968首を収録。茂吉53、54歳。醜聞を起した妻と別居し、永井ふさ子との恋が始まった頃に当ります」。そうすると、冒頭に掲げた歌の解釈はおのずから決まってくる。
「彼岸に到達すれば、おだやかに暮らせるのだろう。男と女の区別もなく、別れも出会いもないのだから」
 さて、茂吉の第一歌集の『赤光』のタイトルは、『仏説阿弥陀経』の句からきています。
「池中の蓮華は、大いなる車輪の如し、青色には青光、黄色には黄光、赤色には赤光、白色には白光ありて、微妙香潔なり」
 極樂の様子を描写した鳩摩羅什訳の華麗な一節ですが、『阿弥陀経』中に「彼の岸には男と女の区別がない」 といった文言があるのか、どうかはしらないけれど、自分流に、「彼の岸に到りしのちはまどかにて」の下の句を作ってみては。たとえば、「彼の岸に到りしのちはまどかにてイケメンの区別も無けむ」。なんていうのはつまらないな。


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