武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

024. 地図に現われた湖 LAGO

2018-10-19 | 独言(ひとりごと)

 先日、セトゥーバルのツーリスモ(観光案内所)で最新版のポルトガル全国地図を買った。
 高速道路がここ数年で張り巡らされ随分道も変化していて、以前の地図では要を足さなくなってきているのではと思ったからである。
 以前の地図では工事中とか計画中といった表示が多かった。
 それが新しい地図では殆ど完成した道路になっている。

 丹念に地図をなぞっていくと大きく変化している箇所を見つけて目を見張った。
 細い河だったところがなんと広大な湖と化している。

 もう10年も前になるだろうか?アレンテージョ地方の鉱泉水の町モウラに泊まったことがある。
 ホテルが一軒とペンションが2~3軒しかない小さな町である。
 たまたま女子ハンドボールの国際試合があってどこのペンションも満室であった。
 ホテルには運良く一部屋だけ空室があったのでそこに泊まった。

 お城の真ん前に「パンダ」という名前の中華料理店がありその日の夕食は中華料理にした。
 世界中よほど小さな町でないかぎり、どの町にも中華料理店があり、旅行中、西洋料理に飽きた時などは助かる。
 南米旅行でもよく利用した。
 セトゥーバルには10軒ほどもある。

 中華料理店「パンダ」の中国人ボーイが「日本人ですか?」と尋ねてきた。
 「そうです」と答えると「毎晩の様にここに夕食を食べに来る日本人がいますよ」と言う。
 「今夜は来ていませんが…」とも言った。
 「この町に住んでいるのですか?」と尋ねると「そう、ホテルに何ヶ月も住んでいて…この近くのダム工事の関係者ですよ」との答えだった。

 アフリカなどでは日本のODA予算で発展途上国に日本のゼネコンがダムなどを作っているという話は聞いていた。
 ポルトガルでもそうなのであろうか?

 次の朝、ホテルの朝食は体格の良いモロッコからのハンドボールの選手たちで満員で僕たちはかなり時間をずらして遅くに摂った。
 二階にある食堂の窓からふと外を見ると日本人らしき人がポルトガル人らしき人たちと泥まみれになったクルマに乗り込み出かけるところだった。
 恐らくダムの工事現場に向かうのだろうと思って眺めていた。

 それからそのダムのことはポルトガルテレビのニュースでもたびたび取り上げられ僕たちも感心をもって観ていた。

 ダムに沈んでしまう、行ったこともあるルースの城。

 その近くの村人たちは村ごと移転を余儀なくされるらしい。
 村人は殆どが老人たちであった。
 あの歳になってからの集団移転では大変だなと思った。
 その村にはかわいらしい教会があった。
 僕たちがその村を訪れた時はダムに沈んでしまう村だとは知らなかった。
 それに夕方でもあってまた来る機会もあるだろうと思って残念ながらスケッチはしていない。
 その教会もダムに沈んでしまった。
 その後、ニュースで知って惜しい事をしたと思っている。

 そしてこの度地図を買って、想像以上の広大なアメーバ状に広がったダム湖に目を見張ったのである。

 そのダム湖を見に行くことにした。
 モウラのダムよりもその上流のモウラオンやモンサラーシュの城付近が地図では大きく塗り替わっている。
 モンサラーシュの城からの眺めが一変しているのではと思ったのでそのあたりを観る事にした。

 エルバスからグアディアナ河沿いに下ってきてモンサラーシュに入る予定だった。

 ところがエルバスを出たところで標識を一つ見逃してしまい道を間違えてスペインに入ってしまった。

 仕方がないのでコースを変更してスペインのオリベンザ-アルコンシェル-ヴィラヌエヴァというコースを取って再び国境を越えて逆にモウラオンからモンサラーシュに入ることにした。
 国境には標識が一つあるだけでかつての検問所は廃墟となっていてひとっこひとりいない。

 モウラオンから少し出たところから湖は始まった。

 広大な湖と入り込んだ岬、無数の島、取り残されたコルク樫、そして右側の山の頂にモンサラーシュの城。
 左側後方にモウラオンの城。
 谷底だったところに水が満々とたたえられ絶景がそこに出現したのである。

 島には農道の断片が途切れ途切れに現われてそこは以前は島ではなく陸続きであったことを物語っている。
 いずれ雨で流され草に負かれて消えてしまうのであろう。

 長野県の田中知事は「脱ダム宣言」を発表して物議を醸したがその後めでたく県民から承認を得た。

 ポルトガルでも問題がないわけではない。
 何日も雨が降り続きダムの危険水位に達することがしばしばある。
 そうするとダムは放流を始めるのである。
 それで下流にある村が洪水に見舞われる。
 洪水対策で建造したダムによって洪水になる。
 どこかが間違っていると言わざるを得ない。
 出来たらコンクリートのダムではなく、保水力のある自然林による天然ダムが望ましい様に思う。

 ポルトガルに限らず殆どのヨーロッパでは大航海時代、木炭による蒸気汽船時代を経て全ての森を切ってしまって自然林はない。
 今、自然保護団体が僅かばかりずつナショナルトラストで森を取り戻しつつある。
 でもそれは焼け石に水ほどの成果しかない。

 日本にしろアメリカにしろ中国にしろまたブラジルにしろ、このヨーロッパの教訓を生かすことは出来ないものだろうか?

 今年特に日本では四国や北陸で水害の被害が深刻だ。
 「梅雨末期の記録的な大雨」「大型台風」と言うことで、事は天災として済まされている様に思うがそうではないと思う。
 もっと山に保水力があれば、もっと大地に保水力があれば…。
 杉、松、檜など保水力のない針葉樹はもういいかげんにして、日本原始の木、西日本では楠、樫、椿などの照葉樹と北日本ではブナ、もみじ、かえでなどの落葉広葉樹の美しい山を取り戻してはと思う。
 そうすればコンクリートのダムは造らなくても保水力は増すしまた花粉症に悩むこともなくなるのでは…。VIT

 

(この文は2004年9月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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