みなりんの紀行文

写真とともに綴る、旅の思い出を中心としたエッセイ。
主に日本国内を旅して、自分なりに発見したことを書いています。

蓼科ホテル滞在記

2008年01月14日 22時41分58秒 | 旅行記

「蓼科ホテル滞在記」                 Img_0004  

1997年くらいのお話です。

先日は蓼科に避暑に行きました。
宿は、スキーリフトに近い小さなホテルでした。
これは、ある雑誌で紹介されていて、貸し切り展望風呂の広告に惹かれて予約しました。

山の天気は変わりやすく、麓は青空で山頂方面は雨だったりしました。
そのホテルは見たところペンションか山小屋風でしたが、木の重い扉から少女のような小柄の女性が、呼び鈴を鳴らすと、笑顔で出迎えてくれました。
一階は玄関と小さなロビーでした。
女性に階下に案内されました。
木の階段を降りていくと、地下一階は食堂でした。
そこの奥にはカウンターと暖炉とソファがありました。
受付をすまして、また更に階下に通されました。

部屋は105号室でした。                     Img_0003
部屋に入ると、白を基調として、ベージュのカーテン。
白い椅子とテーブル。
全面には白樺の木が緑の葉をそよがせていて、角部屋のために、もう一枚の窓からは山々が望めました。
曇っていたために、山に霧がかかっていました。

次に展望風呂に通されました。            
ふたつあり、どちらも24時間いいそうです。
一つは、木の香りと木を使った明るいお風呂で、大きな窓から白樺の梢が見えました。
あとから入って眺めたら、お風呂の中からは遠くの山も見えます。
お風呂は六角形の白いバスタブで、脚を伸ばしてもいいし、ジェットバスになっています。
わたしは、ジェットバスの慌ただしい感じよりも、静かに浸かっているほうが好きです。
薬用温泉で、浸かってみると、肌がすべすべします。
窓の採光のせいで、お風呂が明るく、広く感じます。
実際、入ってみると、なかなか気分がよくて、わたしはひとりで三回朝も数えると入りました。

夜6時半に夕食でした。                   Img_0001
食堂のテーブルには、六組のお客さんだけです。
座って、斜め前の大きな窓から外のベランダに出ることができま
すが、木組みのベランダには、三つの木のテーブルと椅子があり、山々の連なった景色を眺めていると、ここはほんとうに日本かしらと思ってしまいます。
蜩の声も聞こえます。
夏と言っても、旧暦ではすでに初秋でしょう。
初めはぼんやりと穏やかな山の景色を見るともなく、食事をしていました。
シャンパンをいただいて、オーナーの手作りのあっさりしたコース料理(トマトを使ったイタリアン風のお魚料理とクリーミーなスープとよく煮込んだ牛肉のImg_0002 シチュー、出来立てのパンなど)をいただきました。
気がつくと、窓の景色は刻々と日が落ちるに従って、見事な色彩
を見せてくれます。
最初は、薄暗くなって来たと思いましたら、ペールブルーの山の稜線の近くの空の更に上は、桜色がシルバーの細くたなびく雲の合間に彩られ、春の景色、やがて日が山吹色に輝いて、最後に黄金に輝いた頃には、グレーの雲の合間の空の色が朱を薄く引いたように活気づくと、更に色濃く変化し、やがてハイビスカスのような燃える灼熱の赤になって、空の雲はシルバーブルーになって、
真夏の景色を燦然と輝かせて見せました。         Img_0005
暖炉の奥にあるソファーの傍の窓から眺めましたら、雲海の中にこのホテルがあるようでした。
雲の渦巻く向こうに山々の頭が浮かんで見えるのです。
何だか、天上にいる感覚でした。

朝は、部屋で目が覚めると、かっこーの声とホトトギスの声がかすかに聞こえます。
まだ6時前でしたが、ベッドから飛び起きて、ベランダに出ると、緑が爽やかに揺らいでいます。
山の遙か向こうまでよく見晴らせました。       Img
ブルーバードの車のコマーシャルのように、山にカーブを綺麗に描いて、つーと山道がそこだけ白く続いています。
まれに車が通りますと、さぞかしドライバーも気分がいいことでしょう、と思います。
遠くの山々の連なりは、薄墨を引いた山水画の景色のようです。
近くの山は、ベージュ色に緑の色合いが幾何学的に模様となっています。
目前は緑の木々の梢で、小鳥の鳴き声が盛んにします。
こんなに新鮮に鳥の声を爽やかに聴くのも久しぶりでした。

ホトトギスというのは、初夏を代表する鳥ですが、梅の梢に
鳴く姿を彷彿させるので、山の中で聴くのも珍しく感じました。

さて、このホテルの部屋は、窓が二方向に望め、たいへん得した気分でした。